第2話 すべて、そんざい、否定

「なんか人多いね。とりあえず注文くるまでに書いとくか」

藍はバッグからノートとボールペンを取り出した。


0の定義


∀x(x∉0)


「以上」

「さっぱりだな・・・、これは質問して・・・いいんだよな?」

「当然」

「このAを逆にした文字はなんだ?」

「全ての、と読む。量化記号の一つで、量化記号は∀と∃がある」

「なるほど。で、どういう意味になるんだ?」

「意味か・・・まあそうだな、意味を考えるのは楽しいから考えよう。


 ∀x( ... )


と書いたら


全てのxに対し・・・


と読み、その通りの意味を期待する。ただし、ここでいうxとは集合のことだ」

「なるほど。ってことは今回は


全てのxに対し、x∉0


ってことだな。このxのあとの括弧は絶対必要?」

「まあ、場合によって略すときはあるけど、必要」

「OK。で、この記号はなんだ?」


湾は、∉を指さす。


「これは


x∉y


と書いて、xはyの要素ではない


とか、xはyに属さない


などと読み、その意味を期待する。これは実は


¬(x∈y)


の省略形だ。記号が多くなって面倒だが、


¬( ... )


は、...ではない


と読み、その意味になる。


x∈y


は、xはyの要素である


とか、xはyに属する


等と読む。


y={x}

ならxはyに属しているので、

x∈y


y={2, a, x, b}

でも、xはyに属しているので

x∈y



y={3, 5}

はxはyに属していないので。

x∉y


y={{x},b}

もxはyに属していないので

x∉y


となる」

「最後マジか」

「うん、最後のyの要素は{x}とbだからね。どちらもxではない」

「了解。でこの記号の説明は?」

湾は¬を指さす。

「否定の記号。


¬( ... )


の...の部分に論理式が入り、それを否定する。否定の記号に課された役割は次の三つだ。


¬(¬( ... ))↔...


¬(∃x( ... ))↔∀x(¬( ... ))


¬(∀x( ... ))↔∃x(¬( ... ))


まあ、適度に括弧は略すことが多いけど。どう?」

突然目を合わせてくる藍に湾は驚く。

「いや、これは複雑すぎる。まず両向き矢印ってなんだ」

湾は↔を指さす。

「同値の記号だ。



とも書く。ところでそろそろ店員でも呼んだらどうだ?いま一人空いているみたいだが」

「う…わかったよ」


何が分かって何がわからないのかわからないが、とにかく注文をすることにした。

湾はチーズケーキと紅茶。

藍はクッキーとコーヒー。

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