第4話 彼

 彼は拍手を受け、微笑みながら私に伝える。「今日は来てくれてありがとう。」彼は、心の底から嬉しがっているようだった。


「一体いつからここにいたんですか…?」


 私が尋ねると、少し考えた後に彼は「歌に夢中で覚えてないや。」と、笑顔でそう答えた。


 先程から、昨日の彼とは打って変わって人が変わったようにハキハキとした喋り方に、若干の違和感を覚えつつ、その姿に目がいった。


 雨に濡れきった服、寒そうに肩をぶるぶると震わせている。きっと長い時間、私の事を待ってくれていたのだろう。そう思うと嬉しさが込み上げてくる。


「雨にそんなに濡れてた風邪ひきますよ?」

「大丈夫ですよ、鍛えてるんで!」


 笑って誤魔化す彼を見ていると、無性に心配になってくる。


「あの…良かったら、うちきませんか?」


 すると彼は、「えっ…」と声を漏らし、少し考えたあとに「じゃあ…。」と、頷いた。


 昨日、会ったばかりの人を一人暮らしの女の家に呼ぶのはおかしいかもしれない。しかし、私のためこの大雨に晒されながら待ってくれたのが何よりも嬉しかったし、放ってはおけなかった。


 …いや、放っておきたくなかった。


 彼を傘に迎え入れ、コンビニの方へ向かう。あいにく、傘はひとつしかないので、機材を抱えた彼には私と2人の傘で我慢してもらっている。それでも、機材などが気になり気持ち彼の方に傘を傾けていた。


 歩きながら、彼に話しかける。


「やっぱり、寒そうですね?」

 少し、笑うような訪ね方に彼は

「そんなことないよ!思ったより雨に濡れるのって気持ちいいんだね!…はくちっ」


 彼は、強がったのもつかぬ間、くしゃみをした。そして、あまりにも可愛いくしゃみに拍子抜けした、私は「アハハ」と声を出して笑った。


 あれ、私…。


 そんなことをしていると、先程のコンビニに着く。2人とも雨で濡れきっていたため軽く服を絞り。店内へと入った。


 コンビニへ来たのは、うちには食べるものも飲めるものも無いので、暖かい飲み物と何か食べれるものを買うためだった。


 暖かいココアとお茶を1つずつ。ハンバーグがおかずのお弁当を2つ購入し、店を出ると再び家へと歩き出した。




 家に着くと、私はすぐに着替え、タオルで頭を拭きながら彼に言う。


「寒いでしょうから、シャワー先に入っていいですよ」

「え、でも…」


口篭くちごもりながら遠慮する彼に、良いから良いから! と、無理矢理入らせた。


 流石に、濡れたまま部屋に入れたくもないし、なによりも風邪をひかせたくなかったからだ。


「赤いのがシャンプーで、青いのがリンスです!体はそこの石鹸を使ってください!…それと、小さいかもしれませんが着替え、扉の前に置いときますね!」


 と、おふろ場の外から彼へ話しかける。


「…はーい!」と、彼からの反応があったので、私の持っている、一番大きなTシャツとジャージのズボンをお風呂場の扉の前に用意し、部屋へと戻った。

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