第3話 戦士
ここ並木ヶ丘学園、保健室では、一人の男子生徒の存亡をかけた熱い火花が切って落とされていた!!
緊迫した雰囲気、誰もが息を飲むピリ着いた空気。今にでも一触即発しそうな眼前の邪神。ひとつでも行動を間違えた時、それはすなわち翔也の死を意味していた。
これから3年間キャッキャウフフの薔薇色学園ライフが入学初日に終わってしまう!!
そんなありもしない予定を膨らませながら、目の前の可愛らしい栗毛の女の子を見やる。
主に太ももを……
(おいおい、それにしてもたまんねぇな!?可愛すぎません??俺本当にこの子の太もも触ったの!?過去の自分が羨ましい!!)
過去の自分にジェラシーを覚えつつ、どうにかこの現状を打破するべく、翔也は動く。
「あの…!!えっと、その、ほんと、すんまっせんしたぁあああああ!!!!」
これでもかとおでこを地面にこすり合わせて、邪神の怒りを収めるべく許しを乞う。
「ほんと、あん時は気が動転してたというか…不可抗力で、揉んだ気はないって言うか…運ぶのに一生懸命だったから…!信じて貰えないかもしれないけど、本当にやましい気持ちはなかったんだ!!!!」
否、嘘である。やましい気持ちしかなかった。なんだったら、今もその太ももに顔を埋めたい。
しかし、そのやましい気持ちが彼女にバレてしまえば、それこそ火に油を注ぐようなもの。決して、悟られてはいけない。これはそういう戦いであった。
すると、ため息混じりに優しい声が翔也を包む。
「はぁ……もう気にしてませんよ。そりゃ触られたのは初めてだったから複雑な気持ちですけど。それでも、ここまで運んでくれたのはあなたなので、感謝しなければなりません!!」
(おぉ神よ……俺を助けてくれたのですね!?何たる幸運……つーか、マジで死ぬかと思った、あぶねあぶねーでも、次こそ失敗しないからな!!待ってろよ!!俺の薔薇色の学園ライフ!!!!)
「そうですね、なにかお礼を……」
その言葉を聞き、翔也は考える。
(可愛い女の子からのお礼とは?? 一日デート……いやそれは、流石に求めすぎだ。もっと考えるんだ、無理がなく綾にとって重すぎないお礼を!!)
刹那、翔也の脳みそはフル回転した。相手は入学初日の女子高校生、大して俺も同じく男子高校生。そこから導き出される答えはッ!!ひとつ!!!!
(お代わり太ももだ!!!!きっと、それしかない!!良いのか??その太もも俺が貰っちまっても!?ぐふふ、やっぱ今日の俺はついてんなぁ!神様大好き!愛してる!んーまっ!)
翔也は、口に出さないにしろやはり変人であった。そんな翔也を数秒程、凝視した綾はひとつの答えを導き出した。
「周りを見渡せる程の身長。見えずとも分かるその引き締まった腕や強靭な肉体。何を取っても私の理想通りです。」
翔也が、人生の勝ちを確信した瞬間である。
(拝見 母上様。元気にされていますか?? 僕は今、大人の階段を登りかけているところです。女子校(元)来てよかったよマジで。行かせてくれた母さんにも感謝してるよ、マジで。超感謝してる。あざーーす!!!!)
まるで羽根でも生えたかのように、心の中で宙を舞うように浮かれている翔也を綾はまたしても地面に叩きつける。
「貴方は今日から私の仲間にしてあげます。職業は、間違いなく戦士ですね!!」
今日だけで何度目の体験だろうが一向に理解が追いつかない。大人の階段を急激に転がり落ち、思考停止寸前まで追い込まれた翔也の脳みそが悲鳴をあげている。
そこに追い打ちをかけるように綾は続ける。
「一緒に異世界に行って魔王ぶっ倒しましょうね!!」
楽しそうに訳の分からないことを言う綾にやはり、翔也は思うのであった。
(なんだこいつ……)
目の前のニコニコした可愛い女の子がこんなにもおかしな奴だと誰が思うであろうか。
まぁ、そんな翔也もなかなかにおかしな奴なのだが…。
「それはそうと、自己紹介がまだでしたね!私の名前は、立花 綾です!」
「あぁ、立花さんね」
「せっかく仲間になったんですから、綾って呼んでください!」
「お、おう!分かった!」
いきなり距離を詰めてきた綾に、少し照れる様子を見せた翔也。
「あなたのことは、なんて呼んだら?」
この時、翔也の脳みそがオーバーヒート寸前だった事などとうに忘れ、またしてもフル回転していた。
(入学初日に、こんな可愛い子と下の名前呼び合うとか最高すぎない??俺やっぱついてるわ……どうしよ、あだ名とか付けてもらおうかな!?この子がしょーちゃんとか毎日呼んでくれたら俺もう死んでもいいかもしれん……)
しょーちゃんは、あだ名を採用した。せっかくなのだから、周りのみんなに仲良しアピールしたいではないか!!
「俺の名前は中野翔也!俺は綾の呼びやすいやつでいいぜ!ちなみに、中学の時は皆からしょーちゃんて呼ばれてたかな!!」
否、これも嘘である。中学時代は常に中野くんとか、変態と呼ばれていた。しかし、綾に”しょーちゃん”と呼んでもらうにはこれしか無かったのだ。
「へぇ、そうなんですね!しょーちゃんか…安直過ぎて無しですね」
翔也の中の作戦は秒で塵と化したのだった。
「あ!そうだ!戦士とかどうですか!?」
「あ、普通に翔也でお願いします」
そっちの方が安直だろと突っ込もうとしたがそんな気力もなく、綾だったら本当にそう呼んできそうだったので訂正を入れるのであった。
こうして、少し不満そうにする邪神と薔薇色の学園ライフを目指す戦士の戦いは、幕を閉じたのであった。
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