最終話 第1歩

「輝くような瞳はね、それはそれは宝石のようで僕の心を鷲掴みにして離してくれないのさ!ああ、この熱く苦しい思いをどう表したらいいのかもうわからないのだよ!ジュリー、この僕のもどかしい気持ちにピッタリな紅茶をお願いするよ!!あ、ユメコ君おはよう、君もどうか聞いてくれたまえ!」



「お、おはようございます……」



 なんか久しぶりに朝からこの人のこのテンションに出会った気がする。

 なんだろう、いつもより熱弁だなヒートさん。

 ダリアさん、いつも無表情なのに困った顔しちゃってるよ。



「ほら、チョコレートティー」



 ジュリーがヒートさんとダリアさんの前に置く。

 なに?チョコレートティーだって?

 私も飲みたい、後で作ってもらおう。



「ああ!これはすごく美味しい!優美なまでに甘く暖かい!まるで君のようだよダリア!」


 ……は?


 ダリアさんを見れば真っ赤になった顔を両手で隠して恥じらっているではないか。

 あれ?



「ユメコ、こいつら男女の仲になったんだと」



 男女の仲?



「……ええええ!!!」


「は、恥ずかしいです……」



 うっ……照れるダリアさんが!か、可愛い!可愛すぎる!!!恋する乙女カワイイ!!



「昨日のお前みたいだな」



「んなっ……!!」



 ニヤリと私の顔を見て笑うジュリー。

 一気に顔が赤くなるのが自分でも分かる。



 昨日の帰宅後、根掘り葉掘り聞いてくるジュリーから逃れられず、色々と誤魔化しながら一部始終を語った。

 恥ずかしさのあまり死ねるんじゃないかと思ったがご覧の通り私は生きている。



「ユメコ様?もしかして……」



 ゔっ……!そうだ、この人色々と鋭いんだった。

 ガシッとダリアさんに両手をつかまれ見つめられる。



「素敵な方が出来たのですね」



 キラキラした目でそう言われ思わずコクンと頷いてしまった。

 ダリアさんはそれはそれは嬉しそうに綺麗な笑顔を見せてくれた。


 そんな彼らにこのティールームを離れ、王宮で働く事になったと告げれば少し寂しそうな顔をされる。

 ほぼ毎日のように会っていたからかな、私もちょっと寂しい気持ちになってきた。

 しかし2人は仕事で王宮に行くことがちょいちょいあるそうで。その時はお邪魔させてもらうよ、と言ってくれる。



 ラブラブな2人を見送ればいつものようにお客様がいらっしゃる。

 明日から王宮で働く事になっているのでここで働くのは今日で最後だ。

 有終の美を飾らねば。

 私、恋愛に浮かれてなんておりませんよ。

 仕事する時はしっかりとするんです。

 今までお世話になったお客様一人一人にご挨拶をする。

 寂しくなるね、とか頑張れとか、たくさんの激励の言葉を頂いた。

 わざわざお店を出て花束を買ってきてくれるお客様も沢山いて、嬉しいやら寂しいやらでちょっと泣いてしまった。


 そんな中ボールトン様もいらっしゃる。

 ニヤニヤとした顔で「いつ私の娘になるんだい?」なんて冗談をかましてくれる。

 この人だんだんジュリーに似てきてるんですが!?


 そうこうしていれば1日はあっという間に過ぎて行く。

 ティールーム最後の日だからエドワード様も来たがっていたが仕事があるのと夜はキャタモール様に空けておけと言われているので来られないそうだ。

 きっと隊長職になったお祝いのような飲み会が開かれるのだろう……いや、飲み会はないな、祝賀会か。



 お客様もいなくなり、閉店し、店内を掃除する。

 今日で最後だからかな、なんだかとても感慨深い。



「お疲れさん」


 甘い香りと共にジュリーの声。


「あ、チョコレートティー!」


「特別にラム酒も入ってるぞ」


「やっほー!いただきまーす」


 甘くてほっとする優しい味だ。


「ありがとう。すごく美味しい」


「明日から頑張れよ」



 わしゃわしゃと頭を撫でられる。

 いつもなら髪がぐしゃぐしゃになるからやめろと怒るところだが今日はその乱暴っぷりが嬉しく感じてしまった。



「うん、頑張るよ」



 熱々のチョコレートティーを冷ましながらゆっくり飲んでいるとコンコンとお店のドアがノックされる。

 ドアを開ければ配達のお兄さん。

「お届け物です」と籠いっぱいの可愛らしいハーブブーケを渡される。



 贈り主はもちろんエドワード様で。



「ハーブ?」



 ジュリーが不思議そうに覗いてくるが真っ赤になる私の顔を見てまたニヤリと笑う。


 ああ、これからまた質問攻めにあうのね。

 泣いてもいいですか。



 ■□▪▫■□▫▪



 翌朝いつもより早く目が覚めた。

 ハーブの香りのおかげなのかな、スッキリと目が覚めた。

 身支度をして、ジュリーが作ってくれたスクランブルエッグを食べる。

 やっぱりジュリーが作るご飯はとっても美味しい。

 明日は私が作ってみよう。



「じゃあ行ってきます」


「おー、行ってらっしゃい!」



 ジュリーに見送られ、王宮からの迎えの馬車に乗り込む。

 もちろん酔い止めの薬は飲みましたよ。



 緊張と不安で既に気持ち悪くなってますがきっと大丈夫。

 エドワード様からもらったハーブを数本持ってきた。

 香りを軽く吸い込み気持ちを落ち着かせる。



 うん、大丈夫。

 ティールームでの経験がこれからの仕事に絶対役に立つのだから。

 自分に出来るだけの事を精一杯やるだけだ。

 責任感を重く感じるけれど……それが社会人ってもんだよね。



 ハーブをじっと見つめ、エドワード様を思いながら両手でそっと握りしめて。

 今、少しの自信をやる気に変えて。

 さあ、背筋を伸ばし、気持ちを新たに――

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