第44話 初めての
そうよね、そんな気はしてたけど!うん、そうだよね!
連れてこられたレストランは超高級!って感じではないけどやはりそれなりに良い雰囲気のお店で。
テラスがついた個室に案内された。
中庭があるのだろう、たくさんの植物が植えられている。
多分……ハーブガーデンだ。
再び場違いでいたたまれない気持ちになっていたがハーブを見て気持ちが落ち着いた。
とても癒された。
目の前に座るエドワード様はいつもと変わらずで、慣れた様子でスマートに注文をしていらっしゃる。
なぜだろう、今無性にファーストフード店に駆け込みたい気分になった。
彼をそういったお店に連れていったらどういう反応をするのだろう?
私のように戸惑うだろうか?それとも楽しんであれもこれもと食べるのだろうか?
「ユメコ?」
……はっ!
い、いけない、現実逃避なんて失礼なことをしてしまった。
「ごめんなさい、ちょっと妄想を……」
「妄想?」
「いえ!ごめんなさい!違うんです、ちょっとその想像を……」
あ、危ない!あなたがハンバーガーとポテトをコーラ片手に食べている所を妄想してましたとか、ついうっかり言うところでしたよ!
「何を……想像?」
ゔっ……そんな真っ直ぐな瞳で聞かないで下さい。
言葉に詰まる私を見てふふっと笑う。
「まあ……俺だって妄想する事はあるよ」
ほんの少し意地悪そうな顔をしている。
エドワード様もこんな表情するのね、初めて見たわ。
「どんなですか?」
「内緒」
立てた人差し指を口元に持っていきそう言われてしまう。
どんなだろう?純粋に気になるのですが。
そんな話をしているとワインと料理が運ばれてくる。
見た感じ前菜から始まるフレンチだ。
美味しそう……
お酒と料理をこんな風に誰かとゆっくり楽しむのは慣れればすごくいいものなのかもしれない。
呑んで騒いだり、作法も気にせず好きなように食べるのは楽しいけれど。
ゆっくり相手との時間を過ごすならきっとこういう食事の方が良いのだろう。
他愛もない事を2人で話した。
ジュリーのいれてくれる紅茶が特別美味しくて料理も上手な事、梅酒や日本酒、昨晩のスルメ話、ロードリック様とエドワード様の友情話など、あれこれ食べながら話していればあっという間に食事は終わる。
「そういえば」
最後の1口のワインを飲み終えて唐突に思い出した。
言おう言おうと思っていたのに。
「隊長になったって聞きました。おめでとうございます」
ちょっと照れたような顔で笑うエドワード様。
「ありがとう」
思わずキュンとしてしまった。
だって子供のような無垢な笑顔だったから。
「ええと、何かお祝いを渡せたら良かったんですが……ごめんなさい何も用意出来てなくて」
「その気持ちだけで充分だよ」
「……じゃあ、今度スコーンを焼くのでよかったら食べてください」
「スコーン?」
あ、そうか、この世界にスコーンなかったんだっけ。
「紅茶に合うお菓子なんですけど……あ、お菓子といってもそんな甘くはないのでなんとゆうか、パンの親戚のようなものです」
なんかうまく説明できないなあ。
「ユメコが作ってくれるなら甘い菓子でも何でも食べるよ」
「甘いもの、ダメなのに?」
なんだか可笑しくてクスクスと笑ってから気がついた。
あ、しまった、思わずタメ語でツッコンでしまった。
どうしようかなと思いチラと様子を伺う。
「今のユメコは甘そうだ」
ドキン、と心臓が鳴った。
熱のある眼差しを向けられ言葉に詰まってしまう。
「少し、テラスに出ないか?」
誘われるままテラスへと出る。
少しひんやりした空気が気持ちいい。
「ここにはね、ずっとユメコを連れてきたかったんだ」
「そう……なんですか?」
庭を見ながらぽつりぽつりと話し出す。
「初めてここのハーブガーデンを見た時、ユメコのようだなと思って」
「私ですか?」
頷き目を細め微笑む。
「ああ、癒されるな、と。いつも、ティールームで君の笑顔に癒されていた」
え、と驚く私を見て、本当だよと微笑む。
「……人は、女性を花のようだと例えるけれど……ユメコは緑あふれるような女性だなと、ね」
「緑?」
いつもよりずっとずっと優しい瞳。
「もちろん、君だって花のように美しい。ただなんというか……内から溢れる優しさや強かな美しさを深い緑色から感じてしまうんだ」
エドワード様の手が伸びてきてそっと私の頬に添えられる。
「ハーブの花は小さく可憐で可愛らしい。本当にユメコみたいで」
私、今どんな顔をしてる?
顔が、身体が熱い、さっきから心臓がうるさい。
呼吸がうまく出来ない。
声ってどうやって出すんだっけ?
早く、早く口を開いて何か返事をしなきゃ――
「ユメコ、君が好きなんだ……」
時が、一瞬止まった気がした。
苦しそうな瞳で、不安そうな彼の表情がまるで、完璧な絵画のようで。
「私……」
なんて言えばいい?
私もあなたの事が好きです?
何か違う、そうじゃない。
「私、で……いいんですか?」
そう、私はきっと不安なんだ。
エドワード様とつり合うのだろうかという不安。
今日1日一緒にいて思い知った。
価値観が違いすぎる。
それでもどうしようもなく彼に惹かれる自分がいて。
「私は……あなたの隣に立てますか?」
泣きそうになるのを必死に堪えながら消え入りそうな声でそう聞いた。
「ありのままの君が、いいんだ、ユメコでないと俺は……」
吸い込まれるような真っ直ぐな瞳でそう言われ、そしてそのままそっと優しく唇が重ねられた。
これ以上ないくらいに心臓が高鳴る。
ゆっくり唇が離れると「愛してる」と囁かれ、もう一度、今度は深く、深くキスをされた。
「んっ……ん、ん」
逃げ腰になる身体を抱き寄せられ手は首にまわされて。
何度も何度も角度を変えられてその都度熱い舌が絡みついてくる。
どう応えればいいかわからなくて、何も考えられなくて、受け入れるだけで精一杯で、早鐘のような心臓が、息が苦しくて。
身体の力が溶けるように抜け落ちていく。
もう立っていられない。
「……っは」
ようやく唇が離されると同時に腰が抜けた。
ガクンと地に落ちていく身体をエドワード様はしっかりと支えてくれた。
「やっぱり……ユメコは甘い」
どこまでも優しくそれなのに少し意地悪そうな瞳でそんな事を言われ。
ひどい、初めてだらけでいっぱいいっぱいだったのに。
火照る身体は更に熱を帯びてしまう。
声にならない声とジト目で彼を見れば嬉しそうに目を細めて頭を撫でてくれる。
「ごめん、止められなかった」
今度は額に優しく軽いキスをされる。
彼の腕の中に抱きしめられた身体は今は穏やかな安堵感に包まれていた。
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