第42話 お昼はサンドイッチ

 エドワード様とロードリック様は1度帰宅して着替えてから迎えに来てくれることになった。

 3人で出かける事になっている。



「ユメコ本当に大丈夫か?」



 店内を片付けながらジュリーが聞いてくる。

 心配してくれるのは嬉しいけどなかなかしつこいな。



「全然大丈夫だって」



 正直まだちょっと痛いけどそんな事言ったらどうなる事やら。



「それより昨日は部屋まで運んでくれてありがとう。ごめんね、重いし大変だったでしょ?腰悪くしてない?」



 いつも腰痛い痛い言ってるからねー、申し訳ない。



「ん?ああ、エディに運んでもらったぞ」


「……は?」



 テーブルを拭いている手が止まる。



「俺がお前担いで階段登る訳ないだろう」



「えええええ!!!」



「あいつ軽々とお前の事お姫様抱っこして運んでったぞ」



「なっ、に!!」



 なんだって!お姫様抱っこ?

 あああああ!お姫様抱っこだなんて想像しただけで……どうしよう、このまま消えてなくなりたい。

 それってつまり寝顔もしっかりと見られたって事だ。

 どんな顔してたんだ私……口開けてヨダレでも垂らしてたらどうしようどうしようどうしようどうしよう。

 ああ!記憶がない!寝てたから当たり前だが酔って何かしたりしてない!?



「ねえ!私何か変な事言ったりしてない!?」


「んー……?」



 思い出している様子のジュリー。

 くっ、この待ち時間がものすごく長く感じられる。



「エドワード様~、好き好き~とか言ってたぞ」


「!!!!」



 あまりのショックでその場に崩れ落ち膝をついてうなだれた。

 嘘だ、そんなの嘘だ、絶対嘘だ、いやどっちだ、ホントかウソか!?もうお酒なんて呑まない、呑んではいけない、絶対呑まない……



 ジュリーが何か言っているが頭に入ってこない。

 もうダメだ、どんな顔して会えばいいのだ、今日はもう会うのはやめよう、うん、そうしよう。



 自問自答を繰り返す中、ジュリーの「冗談だ」と言う言葉が耳に入るまでかなりの時間を要した。




 ■□▪▫■□▫▪



「ジュリー!すごい嬉しい!どうもありがとう!」



 さっきの冗談はこれで水に流そう。

 お出かけ用の服に着替えた。

 淡いグリーン色の少しだけボリュームのあるドレス。

 ジュリーがもしもの時の為に、普段着と下着類をダリアさんに相談して用意してくれていたのだ。



「おー、似合ってる似合ってる。昨日着てたのは笑えたなー、子供みたいだったよなー」


「うるさいな!」


「他にいるもん色々と買ってもらえよ」


「いや、そんなこと出来ない」


「大丈夫だ、アイツは金持ちだから問題ない」


「いやいやいや、たとえそうだとしても申し訳なさ過ぎて買ってなんてもらえないから、地道に稼いで自分でそのうち買うからいいよ」



 給料……いくら貰えるんだろ?



「奴に遠慮なんていらん、それくらいしてもらわにゃ俺が納得いかんわ」



 私の腕をちょいちょいと指差してくる。

 これね、別にこんなのもうどうでもいいのに、全く。



「あ、一応お前が今までここで働いていた分の給料は後でやるからな、好きな事に使え」


「え!本当に?やったー!!嬉しい、今ちょうだい!これから出かけるんだし」



 お給料の代わりに何か買ってくれる話だったんだけど、別に欲しいもんないから断ってたんだよねー。



「今渡したらお前今日使うだろ……」



 そりゃそうだ。

 だから今欲しいのに。



「いーんだ、兎に角今日は全部奢ってもらえ、エディもリックも昇進したっていうから散財させればいいんだよ」


「え、昇進?」


「隊長職になったって言ってたぞ。部長とかそんな感じじゃね?よくわからんけど」


「そうなんだー!!すごいねえ」


「まあそんな訳だから、お前は少し男に甘える事を覚えろ!いいな!」


「は、はい……」



 凄味のある声と顔で言われ思わずハイと言ってしまったよ……



「ほら、行ってこい」



 ドアを開けられグイと背中を押される。

 乱暴だなあ、もう。

 外に出ればエドワード様とロードリック様がちょうど迎えに来てくれた所だった。




 ■□▪▫■□▫▪





「サンドイッチ、絶対サンドイッチ」



 ロードリック様が頑なにお昼はサンドイッチを食べると言っている。

 別に構わないけどなぜそんなサンドイッチに執着するのだ。

 エドワード様は意味深な顔をしているし。

 うーん、よくわからない。



「私サンドイッチでいいですよ、好きですし」



「はいはい決まりー!昼ちょっと前だから混んでないでしょ、さっさと行こう」



 嬉しそうにスタスタと歩き出すロードリック様。

 馬車酔いする私を気遣って徒歩圏内行動することになっている。

 なんだか申し訳ない。

 幸いこの辺は町から近いそうで少し歩けばたくさんのお店が並んでいた。

 西の方にも賑やかな商店やレストラン等があるそうだが、先日の野獣騒動により半壊した町は現在急いで復旧中らしい。



 ロードリック様について行く中、美味しそうなカフェや可愛い雑貨屋さん、綺麗な花屋にパン屋さん……たくさんのお店の前を通り過ぎた。

 正直あちこち寄り道したくてたまらなかったが、ロードリック様が「サンドイッチサンドイッチ」と鼻歌混じりに機嫌よく足を進めてしまうので追いかけるのに必死だ。

 きょろきょろ辺りを見回しながら歩く私をみてエドワード様が小声で話しかけてくる。

『後でゆっくり見て回ろう』

 少し困った顔で微笑みながらそう言ってくれた。



 着いた場所はレストランというより綺麗なカフェといった所だった。

 店内は広く天井も高い。

 シックな色合いで統一された店内は男女問わず賑わっている。




「適当に頼むからな、ユメコは食べる事に集中しろよ」


「え?あ、はい」



 食べる事に集中ですか、私もメニュー見てみたかったけどな……まあいいや、ロードリック様楽しそうだし?

 サクッと注文してましたがけっこうな品数だったような。



「ここのサンドイッチは種類が豊富だし、美味いんだ。パスタも人気だけどね」



 エドワード様に楽しみです、と言ってから周りを見た。

 ひとつ私は心配していることがある。

 それは食事のマナーだ。

 ナイフとフォークを活用する世界だということは理解している。

 しかし、サンドイッチはどうなのだ?どう食べれば良いのだ?

 ナイフとフォークを使って食べるのだろうか?



 食事マナーに迷った時は辺りを見て真似をするのが1番良い。

 しかし、しかしだ、サンドイッチを頼んでいる人がいないではないか!

 どういう事だ、1人くらい頼んでくれていてもいいのに!

 周りを見れば皆パスタを食べている。



 店内観察をしている内にサンドイッチが運ばれてきてしまった。

 ごゆっくりどうぞという笑顔で店員さんは去ってゆく。

 にしても……



「……こんなに食べられます?」



 けっこうな量だ。

 テーブルいっぱいに並べられたそれは彩りも良く確かに美味しそうなのだが。



「大丈夫大丈夫、ほらユメコ」



 ナイフとフォークがテーブルに用意されていない事を確認してからひとつ手に取った。

 カトラリーが無いということは手に持って食べて良いという事だろう。



「いただきます」



 なるべくお上品に食べよう。

 そう、以前ジュリーに大口開けて食べるなよと言われ、肝に銘じておいたのだ。

 控えめに口に入れてゆっくり食べる。

 あら、美味しい。

 何これアボカド的な味がする。

 きっとクリームチーズみたいなものと混ぜてあるのだろう。

 レタスと思われるものが多めにはさまっていて食べごたえもあって良い。

 あまりの美味しさに、お品よく、という誓いを一瞬忘れかけた。



「美味しいですね!」



 顔を上げて向かいに座る2人を見ればエドワード様は少し困ったように微笑み、ロードリック様に至っては不機嫌そうな顔をしている。

 ――ヤバい、絶対なにかやらかした――

 そうとしか思えず謝ろうとした瞬間。



「ユメコ、それがお前の本気か!?そんなんじゃ作ってくれた人に申し訳ないだろう!もっとこう力いっぱい全力で食いつけ!」


「は?」


「ほら!」



 ロードリック様に勧められるがままサンドイッチをもうひとつ手に持つ。

 両手にサンドイッチだ。

 よくわからないがこれは頬張って食べるのが礼儀なのだろうか……

 両手のサンドイッチを交互に見つめ、意を決してエイ、とかぶりついた。



「んー、美味ひー」



 あー、やっぱりご飯はこうやって頬張って食べるのが美味しいのよね!もぐもぐと美味しさを噛み締めながら食べる。

 2人を見ればロードリック様はそれはそれは満足そうにニコニコと微笑み、エドワード様は顔を赤くし口元を手で抑えている。

 色々と聞きたい気持ちではあったがサンドイッチが美味しすぎて疑問解決は後回しにする事にした。

 まずはこの美味しさを満足いくまで堪能しよう。

 そうしよう。

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