第36話 一夜明けて
ガタガタと身体が揺れている感じがする。
揺れているというか揺られているというか。
この揺れがなんとも気持ち悪くて目が覚めた。
「うーん……」
「あ!ユメコ!起きたか?」
目を開ければ見慣れた顔。
「ジュリー……」
「どうした、大丈夫か?」
「気持ちわる……」
「え、俺?」
……寝よう。
気持ち悪い時は寝るに限る。
そんな事を考えてるとまた意識が遠のいた。
■□▪▫■□▫▪
パチっと目が覚めた。
今度は揺れていない。
ふかふかのベッドに暖かい掛け布団。
よく見ると乙女の憧れ天蓋付きベッドである。
レースのカーテンがさらに乙女心をくすぐるではないか。
身体を起こして辺りを見れば……
「あ、ユメコ!」
ジュリー……あなたどこにでもいるのね。
どこだここ?部屋は窓が多く明るくてとても広い。
「お前大丈夫か?ほら水飲め」
大きなソファに座っていたジュリーがコップに水を入れて持ってきてくれる。
「ありがとう」
もらった水を一気に飲み干す。
あー五臓六腑に染み渡るー。
はて、なぜ私ここにいるのだ?曖昧な記憶を辿りはっとする。
「あ!エドワード様は?討伐はどうなったの?!」
「ん?ああ、無事に討伐終えてエディもリックも元気だそうだ」
不安が一気にとけてゆく。
「はぁ……良かった……」
「それよりお前、大変な事になってるぞ」
「え?何かあったの?」
「お前今、時の人だ。めっちゃ有名人」
「はい?」
「あ、ちなみにここは王宮の客室だ」
「はい?」
いかん、よくわからな過ぎてまともな返事が出来ない。
「夜にな、お前を運んだ馬車が店に来て、一緒に来てくれと言われてここに来たわけよ」
「あー……」
あの気持ち悪い揺れは馬車だったのか。
「お前エディ達の避難所で紅茶作ってその後そこで寝てたんだろ?」
「ええと……」
そうね、眠くて横になった記憶がある。
「国の救助隊……救急車みたいなもんがここまで運んできてくれたってわけよ」
「ありゃー、それは有難い」
ご迷惑おかけしてしまったなあ……
「そんでな、昨日お前があちこちで怪我人治して歩くもんだから、お前の事を『神の子 レディ・ローズ』とか言って今神殿は人だかりらしい」
「……は?」
「お前が着てたドレスがバラのドレスだったからそれを文字ってレディ・ローズになったんじゃね?」
レディ・ローズ……
なんだろう、理解不能過ぎて頭ん中が真っ白になってゆく。
「いやー、俺ってば有名人の叔父だよー!なんか鼻が高いってこういう事かねー」
ふふん、とちょっぴり嬉しそうなジュリー。
いや、おかしいだろその考え。
「ねえ、何で救助隊が病院でなくて王宮に人を運ぶの?それに神殿に人だかりってどうして?」
「あー、それはアレだ。医者には既に見てもらってるから、店に帰っても良かったんだがな、レディ・ローズは誰だ、何処にいるんだと騒がれてて、神の子なら神殿にいるはずだと人が集まってるそうだ。まあそんな感じで大変な事になってるから、ひとまずお前を王宮で保護する事になったみたいなのよ」
「王宮で保護……」
「レディ・ローズはお前の事だと知ってるのは少数だと思うが……もしかしたらお前が治療した人に常連客もいたかもだろ?そういう事を察してかキャタモール公爵が色々と動いてくれてるようだ」
キャタモール様が……
「多分だけど、お前が神殿で過ごす事になるのは嫌だろうと思っての事じゃね?前に言ってたろ、精霊王に会ったとか精霊王の力を持ってるのとかがバレたら神殿で暮らすことになるだろうって」
「うう、ありがたす……」
キャタモール様ありがとうございます。
あなたになら頭地面に擦り付けてひれ伏します、私。
「でもここ王宮だよね?確か王様に匹敵する権力があるとかって言ってたような……私、王様に邪魔者扱いされたりしない?」
「あー、そういう事に関しては王妃様が動いてくれてるそうだ」
はい?
「王妃様?1度お店に来てくれたあのキュートな王妃様?」
うんうんと頷くジュリー。
「可愛いよな、王妃様」
その頷きかいな!
「正直俺もよくわからんままお前の保護者として連れてこられただけだからなー。お前が起きて落ち着いたら、部屋の外に王宮の使用人がいるから声掛けてくれって言われてる」
「そうなの!それじゃ早速」
「声掛けてくるわ」
ドアを開けて外にいる人に話しかけているジュリー。
その様子を他人事のように思いながら見つめる。
私どうなるんだろうな……てかなんだレディ・ローズって。
ふっ、と鼻で笑ってしまう。
だって背も鼻も低い生粋の日本人な私にレディ・ローズって似合わないし。
誰だい最初に言い出した人。
そういえば着ていたドレスどこいったんだろ?よくよく自分を見ると白いネグリジェらしきものに着替えさせられている。
きっと王宮の誰かが着せ替えてくれたんだろう。
ありがとうございます。
寝ている間に色んな人に沢山お世話になってしまった。
窓から外の景色をみる。
庭園なんだろうか……大きな噴水を中心に色とりどりの草花、沢山の木々がキレイに植えられている。
空には見た事のない鮮やかな鳥が数羽飛んでいた。
本当に異世界の住人になったんだなあと感慨深い。
はぁ、と深いため息がでた。
「会いたいなあ……」
ポソッと呟く。
早くエドワード様の無事な姿をこの目で確認したくなった。
……ふと昨日抱きしめられた事を思い出す。
男の人にあんな事されるのは初めてだった。
力強い腕、温かくて広い胸。
頬に添えられた手はとても大きくて……
……ど、どうしよう……私今、顔真っ赤だ……
急に恥ずかしくなってきた。
両手で顔を覆いながら考える。
なんで今になってこんなにも恥ずかしく感じるのだ!
恥じるならその場で恥じれよ、私!
いやその場でも恥ずかしく感じたけどもさ!突然過ぎて理解が追いつかなかったんだろうな……
「ど、どうした?ユメコ」
ジュリーがそーっと顔を覗いてくる。
「なんでもない!なんでもないから!」
必死に顔を覆いながら返答する。
お願いだから今はそっとしといて!
しかしそんな願いを嘲笑うかのようにジュリーのニヤリとする気配が漂ってきたのだった。
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