第31話 エドワードの想い

 ティールームを出てすぐに馬車に乗せてある護身用の剣を手に取る。

 討伐用ではないがこれで十分だ。

 非常に腹が立っていた。

 せっかくの彼女との時間を邪魔された事に何より憤りを覚える。

 昨日、もっと森の奥に行ってみるべきだった。



 薄暗くなった街の中をたくさんの馬車が走っていった。

 皆安全な王宮か神殿に向かっているのだろう。



 突然甲高い音のサイレンが鳴り出した。

 非常事態に街中に鳴り響くと聞いていたが、初めて聞く。



「すぐに終わらせる……」



 彼女と安心して会うには全て討伐するしかない。

 他の隊士達は各々討伐に向かっただろうか。



「エドワード!」



 父が駆け寄ってくる。



「王宮に行くぞ。馬車に乗れ、エドワード」



 はあ、と深いため息が出る。

 何を言っているのだこの人は。



「西の街の方に行きます。恐らく隊士達は各々討伐に赴いていますから」



 こんな非常事態でわざわざ東の方にある王宮に向かう隊士はいない。



 全神経を集中させると遠くの方から殺気を感じる。

 血の香りが風に乗って漂ってきた。

 近づいている。

 急がねば。

 剣を片手に全力で駆け出す。

 途中たくさんの馬車とすれ違った。

 少し進むと馬車に乗れず走っている人達ともすれ違う。

 すでに襲われたような怪我を負っている人も大勢いた。



「うああああ!!」

「助けて!助けて!」

「馬車に乗せて!お願い!」

「死にたくない!」



 更に西に向かうと沢山の叫び声と共に地響きのような野獣の声も聞こえだし、辺り一面にその黒い姿をとらえる。

 いったい何頭いるのだろう。

 街を埋め尽くす程にいる。


 予想以上に酷い事態だ。

 建ち並ぶ店は全て壊され、襲われる人、逃げそびれた人達の血溜まりがあちこちに出来ている。

 恐らく何人も殺されたのだろう。



「やめて!やめてー!」

「うあああ!!!」



 叫びながら逃げる人々。

 そして今俺の目の前には人を襲い喰らう害獣。



「許さない……」



 剣に触れれば身体が勝手に動く。

 確実に首を狙う。

 頭を落とす、それが一番手っ取り早いからだ。

 多くの人命を奪い……何よりも俺の大事な時間を邪魔した罪は重い。



「うわあああ!!」

「いやあ!!」



 震え固まっている人々の前に切り落とした野獣の頭が転がり落ちる。



「早く逃げろ!」



 少しでも被害を抑えなくては……



「エディ!!」



 いつも耳にするあの声が聞こえた。

 思わず顔が綻ぶ。



「遅いじゃないか、リック」



 背を合わせ、背後につくリック。



「渋滞してんだよ!デートはどうだった?」



 スパンと手際よく頭を切り落としながら会話をする。



「邪魔が入った。そっちは?」



 襲ってくる野獣の爪をかわしながら次から次へと頭を落とす。



「お前とユメコが結婚したら俺も考える」



 結婚……ユメコを抱き締めた事を思い出す。

 腕にその華奢で柔らかな身体の感触が残っている。

 理性がきかなったのは生まれて初めてかもしれない……



「どうした?」



 複雑な思いを野獣にぶつける。

 抑えきれなかった欲求はユメコに嫌な思いをさせたかもしれない。

 八つ当たりだと分かっているがひたすら野獣の頭を落とす事に集中した。



「なーにーがーあーったあああ!!!」



 リックもひたすらに頭を落とす。

 しつこく聞いてくるリックだったが俺は固く沈黙を決めた。



「エドワード!ロードリック!」



 聞きなれた声がする。



「いったいどれだけいるんだ!」

「なんでこんなに……」

「全て倒す!」



 他の隊士達も集まってきた。

 完全に暗くなる前に終わらせねば。

 顔についた返り血を袖で拭い落とし、強く剣を握り直す。

 本格的に討伐の開始だ。

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