第16話 王妃様ご来店 1

「おは……」



「夢子おおおおおお!」



「うわっ!」



 び、びっくりした!いい歳したオッサンが全力で鼻水たらしながら泣いてるよ。



「ど、どうしたのジュリー」



「夢子おおお、俺ののんびり異世界生活はもう終わりだあああああ!!」



「と、とにかく落ち着いて。何があったの」



「お、王妃様がこのティールームにやってくるううう!」



 え、王妃様?



「朝一番にお前とエディの事からかって遊ぼうと思ってたのに……朝一番に王妃様が来る事聞いてこのザマだよおおお」



 帰ろう。



「ああ待って!帰らないで夢子ちゃん!ごめんなさいいい!」



 思い切り足にしがみつかれる。

 ちっ、逃げそびれたか……



 話は数時間前に遡る。

 いつもの様に紅茶を飲みながらのんびりと新聞を読んでいたジュリー。

 そこへ王家の遣いがやってきて、一通の手紙を渡されたそうな。

 何かの間違いだと思ったが遣いの人の腕章や制服、手紙の封蝋を見て間違いではないと確信したという。

 恐る恐る開封し、中を読んでみれば、『明日王妃様が直々にティールームへお茶をしに行かれるので失礼のないよう準備しておきたまえ』

 というような内容だったそうな。



「明日……」



 いきなり過ぎる……



「夢子おおおお!俺はどうすればいいのかもうっうっうっ」



 また泣き出しちゃったよ……



「とにかく逃げられない現実なんだし、まずはどうおもてなしするか考えようよ。にしてもなんでまた王妃様がこのティールームに……」



 勢いよくドアが開いた。



「おはよージュリー!おお!夢子君もいたのだね!王宮から連絡はあったかい?王妃様にミルクティーの話をしたら興味深々になられてね!」



「お前かああああ!!!」



 ヒートさんの胸ぐらを掴むジュリー。

 間違いない、犯人はヒートさん。



「お前のせいで俺はニートになるかもしれんのだぞ!そん時ゃひどいぞ!覚えておけよ!」



 バタンとドアを閉めてヒートさんを追い出すジュリー。

 なにやらヒートさんが叫んでいるが完全シカトを決め込み、鍵をかけてカウンターへ入っていくジュリー。



「夢子、もう腹をくくるしかない。作戦会議だ」



「ラジャ!」



「まずはアレだ。なんのお茶を出すかだな。ヒートはミルクティーがどうのと言ってたからミルクティーは必須だ」



「一緒にお菓子とかあった方がいいんでないかな?それか軽食?スコーン的なのとか」



 紅茶と言えばスコーンでしょ。



「スコーン……それがな夢子、なぜかこの世界にはスコーンがない」



「は?」



 スコーンがないだって?



「意味不明だろ?マフィンとかクッキーとかマドレーヌ的なものはあるんだぞ。しかしスコーンがないんだ」



「似たようなもんなのにね」



「よし、作ろう!」



「は?」



「王妃様が来るんだぞ。市販のお菓子で接待するより、お店で貴女のためにお作りました的な方がよくね?」



 なんかジュリー開き直ってきた?



「う、うん。別にどっちでもいいけど」



「決めた。作るぞ夢子、材料を教えろ」



「え、ジュリー作った事ないの?」



「ない!」



 ふんぞり返って言う返事か。

 はぁー、と深いため息が出る。

 乗り掛かった船だ、こうなりゃとことんやってやろう。



「よし、作るぞー!」

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