第12話 プラリネチョコと紅茶と……
翌朝ティールームへ着くと何やら賑やかな声が聞こえた。
「見てくれたまえ!ジュリー!この最高傑作を!素晴らしいだろう?そうだろう。うん、私もそう思うのだよ!自分の才能がこわいくらいさ!」
ヒートさん、朝からテンション高いな……
「おはようございます」
声をかけるとテーブル席にいたヒートさん達がこちらを振り向く。
「夢子君!待っていたよ!いったいどこから入ってきたんだい?まあそんなことよりもほら、君の制服が出来たのだよ!着てみてくれたまえ!さあ早く!」
え、もう出来たの?
挨拶もそこそこに2階にて着替える。
出来上がった制服はとても可愛くて胸が踊った。
透け感のある重ねられた生地は薄いピンク色で軽くしっとりしており、とても肌に馴染む。
ウエスト部分はサイドの紐で編み上げて締めるタイプだ。
首元にはシンプルなリボンがついていてしっかりとネックレスが隠れる仕様になっている事にちょっと笑ってしまった。
サイズもぴったりでスカートはボリュームがなく動きやすい。
「すごい……かわいい」
「とってもお似合いですわ、夢子様」
一緒についてきてくれたダリアさんに言われてなんだか少し恥ずかしくなってしまう。
「ありがとう、とてもその、嬉しいです」
下に降りてみるとヒートさんに激しく絶賛される。
あと2着程作ってくれるそうだ。
「これはサービスだよ」
そう言ってくれたものは前かけエプロン数枚。
しかもポケットが付いており、無地で黒やベージュ、ボルドーなど非常にシンプルで私好み。
「ジュリーがシンプルで無地のがいいと言うからね。こればかりは少し気に入らないがね」
ジュリーが苦笑いする。
ジュリー、ありがとう、このシンプルなのがいいです。
「さ、ひとまず納品は終えたよ。夢子君、またミルクティーをいれてもらえるかい?あの味が忘れられなくてね」
「私にもお願いします」
ヒートさんとダリアさんがカウンター席に座る。
ミルクティー気に入ってもらえてなによりだ。
鬱陶しい程の大絶賛をしながら飲み干しヒートさん達は帰っていく。
それと同時にお客様が次々とやってきてお店は一気に忙しくなった。
皆さん制服姿の私を見てはしっかりと褒めて下さる。
そんな中、ミルクティーの香りを気にする紳士なお客様達。
「夢子さん、この香りは何かな?」
「紅茶にミルクと蜂蜜を入れたものです。身体が温まってリラックスできますよ。」
ニコニコと微笑む紳士な皆様はこぞって蜂蜜たっぷりミルクティーを注文する。
最近寒いからとか、ストレスでリラックスしたいからとかもちろん何かと理由をつけて。
紳士って大変だなあ……
カウンターに戻れば見ればジュリーもミルクティーを飲んでいた。
「見ると飲みたくなるよなー。今度チャイ作るか。こっちの世界にもシナモンあるからなー」
「チャイ飲みたーい!」
そんな話をしているとボールトン伯爵がご来店。
「やあこんにちは、夢子さん、ジュリー。今日はより可愛らしいですな夢子さん」
「ありがとうございます。制服作ってもらいました」
「とってもお似合いですぞ。ところでこの香りは……?」
ミルクティーの話をすると彼もやはり気になるようだ。
「ミルクティー、飲んでみたいが今日はリンゴの紅茶を飲みに来たのだよ……うーん、エドワードより早く飲んで自慢してやろうと思ったのだが、まあ、ミルクティーの自慢をすればよいか。という訳なのでミルクティーを頼むよ」
自慢て。
伯爵かわいいなあ……
「エドワードはおそらく仕事終わりに来るぞ」
エドワード様今日来てくれるんだ……
ちょっとだけ鼓動が早まった。
な、なんだろ、緊張するな。
「おまちどうさま」
ジュリーがボールトン伯爵の前にティーカップを置く。
目をキラキラさせながら飲む姿はまるで少年のようだ。
こちらの紳士達って絶対乙女入ってるよな……かわいい。
そんな乙女な紳士達が帰って行く頃になると入れ替わりで仕事終わりの若いお兄さん方がやってくる。
なんでも夕食前に紅茶を飲みながら語り合うのがこの世界で今ブームなそうだ。
やはり乙女入ってるよな……
そうこうしているとエドワード様がご来店。
銀髪のこれまた綺麗なお兄さんと一緒だ。
「いらっしゃいませ」
カウンター席にやって来る2人。
ちょっとだけドキドキする。
緊張してるな私……
「やあ、夢子さんジュリー。夢子さん、その制服とてもお似合いです」
う、照れるなあ。
「あ、ありがとうございます」
「はじめまして夢子さん、エディと同僚のロードリックです。綺麗な瞳ですね。」
じっと私を見つめ笑顔でおっしゃるロードリック様。
ひぃ!こわい、こわいよこの世界!そういう褒め言葉は慣れてないんだから!
「ああああありがとうございます!」
さっと目をそらしお茶の準備にとりかかる。
「きょ、今日はリンゴの紅茶で良いんですよね?」
一応確認しなきゃね。
「はい、楽しみにしてきました。リック……ロードリックにも同じのをお願いします」
「はい!」
さ、集中集中!
この為にジュリーが用意してくれた美味しいリンゴを洗い半分に切ってしっかりとすりおろす。
家で練習してジュリーにも飲んでもらい合格点もらったからきっと気に入ってもらえるはず。
落ち着いてゆっくり気持ちを込めて。
茶葉の上下運動を確認し、温めたポットにすったリンゴ投入。
出来上がった紅茶を注いで……しばし蒸らして出来上がり。
わーこのアップルティー、家で作ったのよりずっと香りがいいわ。
異世界りんごのおかげかな?
「お待たせしました」
エドワード様とロードリック様にお出しする。
緊張するなあ……
「ありがとう、すごくいい香りだ」
香りを楽しみ、カップに口をつける。
「美味しい。リンゴの酸味と甘みが紅茶にとても合う」
「ほんとだ、すごく美味しいよ。エディの言った通り、夢子さんの紅茶は人を幸せにするね」
え、幸せ?
「リック、余計なことは言わなくていい」
咳払いしながら言うエドワード様。
人を幸せに、か。
なんだろ、素直に嬉しいな。
「ありがとうございます」
嬉しくなって思わずにやけてしまう。
「な、なんだこの香りは?」
他のお客様達がカウンター席に寄ってくる。
「リンゴの紅茶です」
「リンゴ……」
ゴクリと喉をならす音が聞こえた気がした。
その後ジュリーと2人でリンゴをすりおろす作業に追われる事となったのは言うまでもない。
■□▪▫■□▫▪
つ、疲れた……
いつもは皆様一種類しか紅茶頼まないのにこぞってアップルティー頼むんだもの。
ロードリック様はミルクティーも飲んでみたいと言って飲んでいくし。
エドワード様はアップルティーのみだったけど。
忙しくて全然エドワード様とお話出来なかった……
お店を閉めてジュリーが声をかけてくる。
「おつかれさん」
「おつかれー、大変だったね」
「まあ、なかなか楽しかったぞ。いつもより儲けたしな」
そ、そうですか……それならいいけど。
「ところでさ、こちらの紳士な皆様は果物は甘いものに含まれないの?」
エドワード様、リンゴは受け入れてたよね。
「果物は食事みたいなもんだからなー。日本でもバナナやリンゴ朝食にするじゃん。あんな感じだ」
「なるほどー」
「こっちの世界でも日本と同じ果物揃ってるぞ。メニューにフルーツティー追加してもいいかもな……1人だと手が回らないから無理だけど……夢子がいるし色々と試せるな」
うんうん、と頷きながら嬉しそうに話すジュリー。
ちょっとは役にたってるかな?だったら嬉しいな。
コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
「はいよー」
ジュリーがドアを開ける。
誰かな?
ジュリーが招き入れた人は……
「エドワード様?」
あれ?忘れ物かな?
私に手招きするジュリー。
「差し入れだとさ。んじゃ、俺やることあるから戸締りよろしくな夢子」
ニヤニヤしながら2階へ行くジュリー。
な、なんだあのおっさん、わざとらしい!
「すみません、突然」
少し申し訳なさそうなエドワード様。
「いえいえいえ!お気になさらず!」
「これ、よかったら。甘党の父から美味しいと聞いたんです」
そう言うと綺麗な飾り箱を渡してくるエドワード様。
そっと中を開ける。
「チョコレート!」
美味しそうな且つ高級そうなチョコレートが数個並んでいる。
「疲れた時に食べるといいと父が言っていました。今日は特別忙しそうでしたので……」
どうしよう、すごく嬉しい……
「ありがとうございます、チョコレート大好きなんです。」
「良かった」
微笑むエドワード様。
「それじゃ」
そう言って背を向けるエドワード様。
「エドワード様」
このまま別れるのが勿体なく思えて思わず声をかけてしまった。
ゆっくり振り返るエドワード様。
「あの……またお茶飲みに来てくれますか?」
少し驚いた顔をし、そして微笑むエドワード様。
「もちろん、また夢子さんの紅茶飲ませてください」
エドワード様を見送った後、カウンター席でチョコレートを広げる。
美味しそうな1口サイズ、いわゆるプラリネだ。
せっかくなので紅茶をいれて食べる。
ジュリーには……ニヤニヤしてたから1個しかやらんぞ。
ひとつつまんで口に運ぶ。
「美味しい……」
程よい甘さが口の中で溶けて広がる。
紅茶を飲んで……なんて贅沢な時間だろう。
「エドワード様」
次はいつ会えるかな。
そんな事を考えてしまう自分に驚く。
これは、あー……
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