第8話 水の精霊王

 今確かに、私に会いに来たって言ったよな……

 だ、誰だろう。

 ジュリーを見ると首をブンブンふって知らないアピールされる。



「私は水の精霊王だ」



 はい?



 ゆっくりと近付いてくる精霊王。

 透き通るように白い肌、小さな顔でスラリとした身体。

 白くて長いレースのようなワンピースに、薄手の青い羽衣を纏っている。



「そなたの祈りが聞こえてきた。てっきり神殿にいる神官だと思ったが……」



 じっと私の目を見てくる精霊王。



「まさかこのような小さな娘だとは」



 小さいとは……これでも23なのだが……



「あんなにも澄んだ祈りは久しぶりだったぞ。感謝の念をひしひしと感じた」



 い、祈りってなんだ?



「……そなたは……もしや話せんのか?」



 はっ!

 会話のキャッチボール求められていたとは!!



「あ、いえ、あの、びっくりしてしまって……」



 精霊王は優しく微笑む。



「畏怖することはない」



 ええと……



「あの、感謝の念……とは?」



 なんだろ?



「そなた、水を使う時に念を込めたであろう?褒めてやろう。私の心を動かす程のものだったぞ」



 ほ、褒められた!?

 よく分からなくてジュリーを見る。

 またしても俺は関係ないと言わんばかりに首をブンブンと横に振る。

 ちっ、役にたたんおっさんだな、おい!



「これを……」



 そう言って私の首元に手をかざす精霊王。

 手元が蒼く光ると涙型の小さな宝石らしきネックレスが首にかけられていた。



「そなたにやろう。私が必要な時はこの石を通して呼べば良い。そなたの助けになってやる。また会おうぞ」



 満足そうに微笑むと精霊王の姿がゆっくりと消えていった。

 消えた所をぼーっと見つめる残された小娘とおっさん。

 シーンと静まり返った店内。



「ジュリー……」



 ポツリと話しかける。



「なんだ」



 ぼんやりした返事。

 ぼーっとしながら話しかける。



「精霊王だって。美人だったね……」



「ああ、べっぴんさんだったな」



 やはりぼーっとしているおっさん。



「……」

「……」



 理解が追いつかない。

 ジュリーもおそらく同じだろう。



「私、帰るわ」



「ん、おつかれ」



 ふわふわした気持ちの中、帰宅した。



 ■□▪▫■□▫▪



「つ、疲れた……」



 ぼーっとしながら帰宅し、ご飯とお風呂、歯磨きを済ませ、自室に戻る。

 今日1日がものすごく長く感じ、疲れ果ててベッドにダイブした。



「精霊王……アップルティー……」



 呟きながら目を閉じればあっという間に寝落ちしてしまった。



「……!?」



 はっと目が覚めた。

 妙にスッキリしている。

 今何時だ?

 時計を見ると



「3時……」



 夜中の3時て。

 うーん……なんだか目が覚めてしまって再び眠れそうにない。



「アップルティー」



 そうだ、アップルティー作ろう!

 キッチンに移動して冷蔵庫を開ける。

 あったあった、リンゴー!



「よし」


 作り方は色々あるけれど……

 今回はこの方法で。

 まずはリンゴの皮も食べられるようにしっかりと洗い4分の1に切る。

 おろし金でリンゴをすりおろす。

 茶葉はリンゴの風味を楽しみたいので癖のあまりないアッサムを使おう。

 温めたポットに茶葉を入れ、沸かしたてのお湯を投入。

 その間にもう1つのポットを用意して温めておく。

 お茶が出来上がったら2つ目のポットにすりおろしたリンゴを入れ、出来上がった紅茶を注ぐ。

 紅茶にリンゴの味と香りが染み渡るようしばし待つ。



「美味しく出来たかなー」



 温めたティーカップを用意して、カップに注ぐ。

 いい香りだー。



「いただきまーす」



 1口飲むとリンゴの香りと紅茶の香り。

 すりおろしたリンゴも一緒に口に入ってくる。満足感があるなあ……

 蜂蜜を入れても美味しいだろう。

 蜂蜜を入れてみる。

 うん、やっぱり美味しい。



「エドワード様は蜂蜜なしのが好みかなあ……」



 甘いものはあまり好きそうではなさそうだ。

 それとも甘党を隠してるだけ?



「うーん……」



 出会ってまだ1日。

 そんなのわかりっこないや。



「また美味しいって言ってもらえるかなあ……」



 ……はっ!

 やだなんか夜中のテンションで恋する乙女みたいな発言しちゃったわ!

 そんなんじゃないのに!

 恥ずかしい!


 紅茶を飲んで気分を落ち着かせる。



「ふぅ」



 そういえば明日は制服仕立ててくれるって言ってたな。

 どんな制服になるんだろ?楽しみだな。

 ふと首にかかったままのネックレスに触れてみる。

 非現実的過ぎて夢かと思ってしまったけど……



「現実だった……」



 はぁ、とため息が出る。

 ネックレス、外したら呪われるんじゃないかという不安でそのままにしている。



『畏怖することはない。』



 そう精霊王は言ってたけど……



「なんかやっぱりちょっと怖いよね……」



 相手が偉大すぎてね、ちょっとね……ははは。

 ネックレスは大きいものじゃないし別に邪魔ではない。

 なのでとりあえずこのままつけておこう。

 外す時は誰かが側にいる時だ。

 もう色々考えるのはやめやめ!

 アップルティーををグイッと飲み干し、



「うん、また明日!」

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