第6章 騎士団の金庫番!

第92話 いよいよ王都へ!

 徴税請負人ルーファスを領主の使者に預けるところまで見届けて、私たち西方騎士団の一行はミュレ村を経つことになった。出発の朝には、村の人たちが総出で見送ってくれる。みんな、私たちが見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれていた。


 その後は本来のルートへと戻り、私たちは順調に遠征を続けていった。

 そして、ミュレ村を発ってから二か月ほど経ったころ。

 予定よりも二週間遅れて、西方騎士団はついに王都へとたどり着いた。


 街道を進むにしたがってその大きな都が近づいてくる。王都は、自由都市ヴィラスやそのほかの都市とは比べ物にならない規模の城壁都市だった。

 高く厚い壁が王都の周りを覆っていて、その中央にある正門へと西方騎士団の列はゆっくりと進んでいく。外壁を守る衛兵さんたちはみな、ピンと背筋を伸ばして出迎えてくれた。


 重厚な門を通り抜けた途端、わぁっという歓声が私たちを取り囲んだ。

 石畳の大通りを進んでいく西方騎士団の列。

 先頭にはゲルハルト団長。それにナッシュ副団長が続く。その次にはフランツやクロードたち正騎士さんたちが二列になって馬を進ませた。さらに従騎士さんたちの列があって、その後ろに救護班の荷馬車もついて進む。


 大通りにはたくさんの人たちが出ていて、私たちを歓声とともに迎えてくれている。お母さんに抱かれた小さな子から、お年寄りまで老若男女。たくさんの人たちが私たちの列に向かって笑顔で手を振り、声をかけてくれていた。綺麗な花びらを撒いてくれる人たちもいる。


 私はその雰囲気に圧倒されてしまっていた。救護班の荷馬車に乗せてきた黄金羊のモモが歓声に驚いて暴れだしたりしないようにと両手で抱くようにして座っていたけれど、当のモモは相変わらず呑気にもっしゃもっしゃと飼い葉を食べている。


 サブリナ様も、荷馬車の御者台にいるレインもこの盛大な出迎えに慣れた様子で、微笑んで穏やかに手を振って返していた。私もあれをやった方がいいのかな。でも、誰も私のことなんて見ていないよね。やっぱり、モモに隠れておこうっと。と、モモに隠れるようにして小さくなっていたら、サブリナ様に微笑まれてしまう。


「堂々としてたらいいのよ。アナタももう立派な西方騎士団の一員なんですから」


「そ、それはそうなんですが……」


 でもやっぱり、パレードを見る側じゃなくて見られる側になるのは落ち着かないです!


 フランツはどうしているんだろうと荷馬車から身を乗り出して前の方を見てみると、彼は優雅さすら感じる仕草でラーゴの上から群衆に向けて手を振っていた。こうやって改めてみると、まさに王子様みたい。金の毛をもつ白馬のラーゴに乗って、手を振るさまは本当に映画の一シーンのようだもの。


 彼に手を振ってもらったお嬢さんたちが、キャーッと黄色い歓声をあげているのまで見えてしまった。しかもそれが一人二人じゃないんだよね。


 改めて西方騎士団の人たちは、この王都、ううん、この国の人たちにとって英雄なんだなって実感する。王国を守る英雄たちの帰還なんだもの。それは大歓迎されないはずがない。


 そしてその中でも特に、若くて実力があってイケメンで、しかも貴族でもあるフランツが多くの女性たちのあこがれの存在であることも思い知ってしまった。


「ほら。アナタももっと背筋を伸ばしてごらんなさい」


 突然サブリナ様にポンと背中を押されて、キャッと声が出そうになった。


「もうここの暫定金庫番なんでしょう?」


 そうなんだ。ミュレ村の一件のあと、団長はナッシュ副団長を金庫番の仕事から降ろした。それ以来、金庫番の仕事は私が暫定金庫番としてメインで担っていて、ナッシュ副団長はその補佐をする形になっている。一時的とはいえ、まるで役割が逆転してしまっていた。でもそれもこの遠征が終わるまでのこと。次の遠征からはまた誰か別のふさわしい人が金庫番を務めることになるんじゃないかな。


 そのとき、通りを埋める人垣の中から飛んできた声が耳をかすめた。


「ほら、あれ。カエデ様じゃない?」

「ほんとだ! 金の羊を従えてらっしゃるわ!」

「じゃああれが、バロメッツの黄金羊!?」


 なんてお喋りが聞こえてきたよ⁉

 えええええ、なんで私の名前を街の人が知ってるのぉぉぉぉぉ⁉

 予想外のことにうろたえていると、サブリナ様がにこやかに教えてくださった。


「私たちのことはよく吟遊詩人たちの歌や瓦版になっているらしいから。それで知られたんじゃないかしら」


 ひえっ。私のことまで歌われているの? それは聞いてみたいような、怖いような。


 大通りの先には城壁があり、その向こうに白壁で青屋根の美しい城が見える。

 そうこうしているうちに西方騎士団の列は城壁に設けられた重厚な門を潜り抜けて城内へと入った。最後尾の馬が門を通り抜けると、城門はゆっくりと閉じられる。

 門が閉められるとともに、外からの歓声が小さくなってようやくホッと一息ついた心地だった。


 城門の内側には広場があって、そこで西方騎士団の列は止まる。

 ゲルハルト団長がみんなの方に馬を向けると、いつもの大鎌ではなく、腰に挿した剣を抜いて高く掲げた。それに合わせて、西方騎士団の騎士さんたち、従騎士さんたちも各々の武器を高く掲げる。バッケンさんたち修理班の人たちはハンマーを掲げていた。私たちはどうするんだろうとサブリナ様を見ると、彼女は右手を静かに胸にあてている。レインも同じ仕草をしていたので、私も真似て同じように胸に手を当てた。


 みんなの手が挙がっているのを見渡すと、ゲルハルト団長は声を高らかに宣言する。


「ここに、第四十五期西方騎士団西地遠征を終了する!」


 それに「おー!!」というみんなの声が続いた。そして、無事に王都に帰ってこれたことを互いに喜び合った。


 私も王都に来るのは初めてだけど、ここにこうやって一人も欠けることなく戻ってこれたことにやり遂げたという感慨と誇らしさが湧いてくる。

 でも、喜びを分かち合っているみんなの笑顔を見ながら、心の中ではそこはかとない寂しさも感じていたんだ。


 これで、私の西方騎士団への同行の旅は終わってしまった。


 みんなはまた半年すれば遠征に旅立つんだろう。でも、私はもうそれには同行できない。なんだかまた一人ぼっちになってしまったような、そんな寂しさに胸がつぶれそうだった。

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