第88話 ルーファスの不正をあばけ


「ああ、もちろんだとも」


 そうして早速、私とナッシュ副団長とで手分けしてミュレ村の過去の納税記録を洗いなおしてみたんだ。

 といっても納税に関しては徴税請負人が渡してくれた書類しかない。そこには人頭税、地代、収穫税のそれぞれの税額と総額が記されているのみ。


 だから、それ以外にも村長さんからこの村の記録で現存しているものをありったけ借りてきていた。そこには毎年の収穫量やどこの誰に子どもが生まれたとか、だれが亡くなったとかそういうことが書かれている。


 副団長の話では、彼の記憶にある限り税率は変わっていないということだったので、収穫量から導き出される収穫税や、村の人数から計算した人頭税が正しいかどうかを確認してみることにする。


 ちなみに地代については、この土地にミュレ村が移ってきた八年前からずっと同じ金額だった。

 以前ミュレ村があった場所はここから馬で半日くらいの場所だったらしいけれど、同じ領主で徴税請負人もあのルーファス一族なのだそうだ。本当はもっと離れた場所に村を移転させたかったけれど、いろいろなしがらみがあって、領主や徴税請負人の管轄を跨いでの移転はできなかったらしい。


 そして副団長と二人で約二十年分の資料を計算しなおしてみたんだ。でも、ちょっとした計算間違いはあったもののそれほど大きな間違いや不正らしきものはみつからなかった。


「うーん。これは、どういうことなんだろう」


 私は腕組みをして唸ってしまう。

 あのルーファスの態度を考えると、もっとがっつり不正していてもおかしくないと思ったのになぁ。案外、ちゃんと税額は計算されていたんだ。


 収穫物の単価をごまかしている可能性もあったけれど、それについては当時の相場表をどっかから入手してこないと判断できない。単価は、年によって豊作だったりそうじゃなかったりで動きが大きいみたいなんだ。商業ギルドや王国の公文書館みたいなところを当たれば正確な数字がわかるのかもしれないけれど、今ここで調べる術はない。


 収穫量と単価、それから導き出される税額。そして実際に徴収された金額。

 それを古い年代から順番に書き出してみた。

 それを睨んでみるけれど、何度見ても適切に税額は計算されているように思えた。

 副団長も一緒にその紙をのぞき込む。


「どうやら計算はだいたい合っているみたいだね」


「そうなんですよね……」


 ルーファスは今回たまたま間違えただけで、普段は不正なんてしない真っ当な人間だったのかな。いや、それが一番いいに決まっているんだけど。

 何かひっかかるんだよなぁ。


「計算があっているとなると。他に間違いがあるとしたら、ここの数のどれかが違っているということになるのかな」


 副団長は、単価と収穫量を指さした。

 そうなんだよね。その二つの数値が違っていれば、計算結果自体も違ってくるもの。

 そこでふと、あることに気が付いた。


「そういえば、この村の記録にある収穫量って誰が測っているんですか?」


「え? ああ、それは徴税請負人が計測しているよ。この前、肉の計測もしに来ただろう?」


 そっか。出荷される前に自分たちで計測したかったから、あんなに急いできたのね。税額なら、肉を売り払った金額から十分の一を計算すれば手間がなくていいのに、なんでわざわざ出荷前に急いできたのかと思ったけれど。


「計測って、私たちや村の人がしたんじゃだめなんですか?」


「計測や計量も徴税請負人の仕事なんだよ。それに、そもそも村にはそういう作業をできる人間がいないから、やりたくてもできないんだ」


 計測は本来、徴税請負人が独占的にやっている業務のようだ。

 今回は行商人のダンヴィーノさんがいたから、彼が買取価格を導き出すために計測した数値でそのまま押し切っちゃったけど。それってかなり、イレギュラーなことなんだろう。


 私はルーファスたちが計測していた様子を思い浮かべてみた。たしかに作業自体はダンヴィーノさんと変わらなかった。でも、二人が導き出した数値は違ってたんだ。


 ということは……。


 私はあることに思い当って、二人が出した数値同士を比べてみた。

 そして、気づいたんだ。


「わかった、これだわ!」


 思わず、ダンとテーブルを叩いて立ち上がった。


「ど、どうしたんだい?」


 副団長がびっくりした顔でこちらを見上げていた。周りでほかの作業をしていた人たちも一斉にこちらを見たので、恥ずかしくなってあたふた誤魔化しながらもう一度椅子に座りなおす。


「……すみません。つい興奮しちゃって。でも、わかったんです。ルーファスのやり方が」


「ルーファスの?」


 こくんと頷く。


「もしそれが証明できれば、いままで払いすぎていた税金を取りかえせるかもしれません」

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