第79話 今日の晩飯!

「行こう!」


 フランツにラーゴへと乗せられて、村を囲む壁の外へと出る。

 外の景色は、少し前に壁越しに見たときよりもさらに変わっていた。

 あちこちに魔法が着弾したためと思われるクレーターができている。でも、思いのほか、魔物の死骸は少なかった。


「もっと、たくさん魔物いなかったっけ……?」


「ああ。ここらへんの地面を埋めつくすぐらいいたけど、ほとんどアイツに吸収されちゃったんだ」


 フランツが指さす先には、前に見た時よりもさらに巨大になった山のようなビッグ・ボーが二頭倒れていた。

 ラーゴがそちらに近づいていくので少し怖くてフランツの背中にくっつく。けれど、巨大ビッグ・ボーはピクリとも動く様子はなかった。完全に息の根を止めているみたい。


 そのまま二頭の巨大ビッグ・ボーが倒れている谷間を抜けて、着いたところは『プランタ・タルタリカ・バロメッツ』の黄金色した木のそばだった。

 フランツに手を支えてもらいながらラーゴから降りる。


「……うわぁぁぁぁぁ」


 バロメッツの木を見上げると、思わずそんな感嘆の声が漏れてしまう。

 その木は、高さ十メートルほど。幹の根元は太く、大きくねじれるようにしながら先端に行くにしたがって細くなっており、枝は四方に大きく張り出している。


 そして何より特徴的なのは、幹も枝も含めてすべてが黄金色に輝いていること。ただ金色をしているというだけじゃなく、自ら発光しているようにも見えた。しかも、風で枝が揺れるたびにパラパラと金粉のようなものが舞い落ちてくる。

 バロメッツの木には葉っぱはついていないけれど、枝に一つだけ実がなっていた。実も黄金色の光を放っていて、私が両腕を輪にしたくらいの大きさがある。


「あれがバロメッツの実だよ。一つだけ残ったんだ」


 フランツが実を指さしながら教えてくれる。


「一つだけ?」


「ああ。他にも実はあったんだろうけど、魔物に食われたんだよ。食った魔物は、ほら。あんな風になる」


 フランツは後ろに倒れている二頭の巨大ビッグ・ボーを指さした。


「……お、大きいね……」


「バロメッツの実を食った魔物は王になれると言われるくらいだからね。キングビッグ・ボーってとこかな。こんなのが自由に走り回ってたら、近隣住民は堪んないよな。この二頭がバロメッツの木に寄ってくる他の魔物たちをどんどん食っちまったから、他の魔物は木に近づけなくて一個だけ実が残ったみたいなんだ」


「この大きなビッグ・ボーの王様も、……もしかして、フランツが倒したの?」


 なんとなくそんな気がして尋ねてみると、フランツは「ああ、そうだよ」と事も無げに言ってのける。


「みんなで協力して足止めしたり、弱らせたりいろいろしながらだけど。最終的にはクロードに脚を凍らしてもらって動きが鈍ったあと、俺がとどめを刺したんだ。あっちの一頭は団長が仕留めてた」


 当の団長はどこにいるのかと視線を巡らせると、倒したキングビッグ・ボーの上にいるのがあっさりと見つかった。そこで何かやっているようだったので、


「何やってるんですかー」


 団長に声をかけてみると、彼もこちらに気が付いて手を振り返してくれる。


「こいつを少し解体してみようと思ってな! 今日の晩飯にしよう! ステーキがいっぱい食えるぞ!」


 なんと! あのキングビッグ・ボーを食べる気満々のようだった。


「……おいしいのかな」


「さぁ。元はビッグ・ボーだから、それなりに旨いんじゃないかな。魔力も帯びてるから魔力回復にもいいんだってさ」


 と、フランツ。

 そっか。バロメッツの木の魔力を受け継いだ個体だから、普通のビッグ・ボーのお肉よりも魔力的な栄養価が高いのかもね。

 これだけあれば当分食糧には困らなさそうよね、なんて考えていたら誰かに背中越しに声をかけられた。


「フランツ様! カエデ様!」


 声のする方に振り返ると、一頭の馬にテオとアキちゃんが同乗してこちらにやってくるところだった。彼らはラーゴのそばに馬を止めると、私たちのところまで走り寄ってくる。


「お、来たな。テオとアキ。まだ始まってないから、間に合ったな」


「間に合う?」


 フランツが何のことを言っているのか分からなくて聞き返すと、


「まぁ、見てなって。ほら、そろそろ始まりそうだぞ」


 彼はウィンクをして笑うと、バロメッツの実を指さした。

 彼の言うとおり、バロメッツの黄金色した実が急に輝きを増しはじめる。

 一体、何がはじまるんだろう⁉


※※※※※※※※※※※

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