第53話 伝統の包み焼き料理

 団長との話が終わったあと私も大焚き火のそばへ戻ると、テオたち調理班が夕飯の準備をしていた。

 料理テーブルの周りに従騎士さんたちが集まっていて、あのみんなで拾ったムーアの葉っぱにくるくると北部イモを包み込んでいる。


「私も手伝っていいかな?」


 そう声をかけると、作業の手を止めてアキちゃんが顔をあげた。


「おねがいします」


 一枚一枚洗って積み重ねられた葉っぱがテーブルの隅に重ねられている。その隣には北部イモの山。

 それぞれの山から葉っぱとイモをひとつずつ手に取る。


「お手本、みせてもらってもいい?」


「はいっ。こうやって、葉っぱの先の部分にイモを乗せて、こんな風にくるくるっと」


 ムーアの葉っぱは楕円形の形をしている。そして、先端が少し細くなっていて、元々枝にくっついていたお尻の部分は少し太い。そのお尻のところには葉脈が伸びた細い茎がついていた。


 アキちゃんは葉っぱの先端に北部イモを乗せると、クルクルと巻きながら余った周りの部分を織り込んでいく。そしてお尻の部分までくると、その先に伸びた茎を葉っぱに差し込んで留めた。


「ありがとう。ちょっとやってみるね」


 私も見よう見まねで巻いてみた。葉っぱは見た目よりも柔らかくて織り込みやすい。そして茎の部分を差し込んで開かないように留めると、ほらできた。


「うわぁ。お上手ですね。僕、なかなかうまくできないのに」


 そう言ってテオは目を見張る。ふふふ、これでも一応、折り紙の国の人ですもの。

 テオは上手く葉っぱを巻き込めないようで、葉っぱには何度もやり直したあとがついていた。なんでもそつなくこなして頭の回転も速いテオも、そんな風に苦手なものがあるのね。おぼつかない手元を眺めていると、つい手を出したくなってしまう。


「これはね。こうやって……」


 テオの後ろに回ると、背中ごしに両脇から手を出すようにして彼の目の前で包んでみせる。テオは小柄で私よりも背が低いから肩越しでも手元が見えるの。


「ね。こうやると簡単でしょ?」


「は、はい……」


 テオは口ごもって俯いてしまった。あれ? よくわからなかったかな。もう一回やって見せた方がいいのかな?と迷っていたら、隣で葉包みをやっていたアキちゃんがクスクスと笑った。


「もう大丈夫ですよ。ね? テオ?」


 アキちゃんに言われて、テオは俯いたままコクンと頷いた。

 そっか。あんまり子ども扱いしても悪いもんね。私は自分が元々立っていた場所に戻ると、新しいムーアの葉に次のイモを包み込む。


 たくさんあった葉っぱとイモも、みんなでやればあっという間に包み終わってしまった。このあとどうやって調理するんだろう? 包むっていうことは蒸すのよね、やっぱり。でも、ざっと数えただけでも全部で百個近くある。これだけの量をどうやって蒸すんだろう。


 なんて興味津々に眺めていたら、テオとルークが二人でスコップを持ってくると、大焚き火から少し離れたところに穴を掘り始めた。

 降り積もったムーアの葉っぱが折り重なってできた地面だから、従騎士二人の力でもまるでスプーンでアイスをすくうようにサクサクと穴が掘られていく。そして二人の足が埋まるくらいの深さまで掘ると、底にあらかじめ拾ってきていた小石をしきつめる。それが終わると、今度はその上に先程の葉包みを並べて入れた。


 そのあと、乾燥して茶色くカラカラになったムーアの葉を重ねて蓋をし、その上にタキギをくべて大焚き火からもらってきた火をつける。なんとも面白い調理方法だね。


「さあ、これで準備完了です。しばらく火を消さないように注意しながら置いておくとできあがりですよ」


 そばでしゃがんでずっと作業を眺めていた私に、そうテオが声をかけてくれる。


「火の番はルークに任せて、その間にスープもつくっちゃいますね。明日は街にいけるので、残っていたハムやソーセージも全部いれてしまいましょうか」


「私もお手伝いするわね。街かぁ。今度の街はどんな街なんだろう」


 テオが騎士さんたちの泊まっているムーアへと歩いて行ったので私もその後ろについていく。どうやらその一階が食材庫になっているようだけど。


「さむっ……!!!!」


 入った瞬間、全身に鳥肌が走った。

 ムーアの一階が、冷凍庫みたいに寒くなってる!

 どうやらそこが食材庫になっていて、保管している食材が傷まないように氷魔法がかけられているらしい。天井には氷柱つららまでさがってるよ。


「クロード様が、頻繁に氷魔法をかけてくださってますから」


「そっかぁ。でもここに食材庫があると、騎士さんたちは自分の部屋に戻るのにいちいち寒い思いをしなきゃいけないんだね。気の毒といえば気の毒かも」


 そんなことを話しながら、今日のスープに使う食材を手分けして運び出す。

 食材庫の外に出ると、湿り気をもった温かな風がむわっと身体の周りに戻ってきて凍えた身体を一瞬で溶かしてくれた。

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