第31話 大好評!
団員のみんなが我先にと料理の載った皿を手に取っていき、大焚き火の周りの思い思いの場所に座って食べ始めた。
テオやクロードに味見してもらったときは好評だったけど、他の団員の人たちの口に合うかどうか内心はドキドキだった。
でも、そんな心配は杞憂だったみたい。
いつもの賑やかなみんなが今日はお喋りもやめて、黙々と食べている。そして凄い勢いで食べ終えたかと思うと、すっごくにこやかな笑顔でお替わりをもらいに来た。
そのうえ、口々に「めちゃめちゃうまい!」「あんまりうますぎて夢かと思った」「遠征でこんなうまい飯を食ったの初めてだ」と言葉をかけてくれた。
初めはメニューを変えることに嫌そうな顔をしていたナッシュ副団長も、ちゃっかりお替わりに並んでいた。
「これは、街に遊びに行った団長に自慢してやらなきゃならないね」
だって。気に入ってもらえて、良かった。
もちろん、救護テントにいるサブリナ様とレインのところにも持っていったよ。二人とも、美味しいって喜んでくれた。ジャムももうほとんど使い切ってしまったから、レインが明日もまたベリーを沢山とってきてくれるって。そうしたら、またジャムがたくさん作れるね。紅茶に入れて、ロシアンティにするのもいいかも。美味しいモノがあるとどんどん妄想が広がっていく。
みんなに夕食を配り終わったら、ようやく私も食事にありつくことができた。もう、お腹ぺこぺこ。
とっくに日は落ちて、『青の台地』の名前とおり、地面がうっすらと青い光を放ち始めていた。
ポトフの深皿とキッシュの皿を手に椅子代わりの切り株に腰掛けると、待っていてくれたフランツも隣に来る。
先に食べてていいよって言ったのに、「あんまり腹減ってないから」って言って待っててくれていたんだ。
フランツは食事の時によくそばに来てくれる。もう、私もここでの生活に慣れてきたから、一人でも大丈夫なのに。サブリナ様やレインと食べるのも落ち着けて好きだけど、フランツとの食事は少し違う。もっと、こう気持ちが弾んで、つい食べるのそっちのけで話に夢中になっちゃうんだ。
でも、今日だけは会話もそこそこに彼がこの料理にどんな反応をするのかドキドキしながら眺めていた。
彼がスプーンでポトフのスープを一口すくって口に入れる。少しの間があってから、
「うわ……このスープ、すげぇうまい」
感嘆の声をあげた。そのまま、勢いづいてパクパクと何回もスプーンを口に運ぶ。
「良かったぁ。お口にあったみたいだね」
みんなに美味しいモノ食べてほしいと思ったし、自分でも美味しいモノを食べたいと思って作ったけれど、一番食べて欲しかったのはフランツなんだ。いつも、いっぱいお世話になっているもん。彼が美味しそうに食べているのを見ていると、こちらまでほっこり幸せな気分になってくる。
ひとしきり食べたあと、フランツはこくこくと頷いた。
「こんなうまいの、家でも食べたことないよ」
「ちょっとね、いろいろ工夫してみたんだ」
私も、彼の反応が嬉しくて、ほっと胸をなで下ろしながらスプーンを口に運ぶ。
うん。やっぱり、おいしい!
鶏肉の旨味が染み出したスープが喉をするっと流れ落ちると、すぐに次の一口がほしくなってついついスプーンが進んでしまう。鶏肉はぷりぷりと弾力があって、噛めば噛むほど味わい深いし。よく煮込んだタマネギはとろっと甘く、どの野菜もお日様をたっぷり浴びて育った旬のものだからしっかりと味が濃くて美味しい。
実は、街の精肉店に行ったときに、鶏肉だけじゃなくて鶏ガラもいっしょにもらってきたんだ。鶏肉っていっても、私が想像してたニワトリの二倍くらいありそうな大きなニワトリだったんだけどね。それをさばく様子はあまり思い出したくない……。けど、その場でさばいてくれるから当然ガラが出る。それもくださいっていったら、お店の人は驚いてたっけ。こんなものどうするんだ?犬の餌にでもするのか?って不思議がられた。
でも、その鶏ガラをスープと一緒に煮込んだら、想像以上に深い味わいが出てきたの。今回、そのスープに野菜や鶏肉を入れて煮込んだんだから、そりゃ、おいしくないはずがない。
なんでも、こちらの人たちはダシを取るという習慣があまりないみたい。クロードには調理法とか色々教えてもらったり手伝ってもらったりしたんだけど、彼も
おいしくてつい、ぱくぱくとスプーンが進む。いつもみたいに会話に夢中になったりせず、今日はお互い黙々と食べていた。
「こっちのも、いいね」
「うん。それはね、キッシュっていうの。卵もいっぱい買えたんだ」
キッシュはサクッとしたタルトと、柔らかなキッシュ生地を同時に楽しめるのがいいし、手で持てるので食べやすい。キッシュ生地はふわふわの卵とチーズなどを混ぜこんで焼いたもの。その中にはベーコンとほうれん草が包まれていて、一口食べると卵の軽さとともにじゅわっとベーコンの旨味が口の中に広がる。こちらも上手く焼けて良かった。
結局、いつもより多くの食材を使ったのに、いつもよりも予算が少なくて済んだんだ。ぼったくりイモ許すまじって怒りたくもなるけど、在庫管理と予算管理をしっかりして適切な値段で購入できれば、こんなに食生活はぐっと充実するってわかっただけでも良かった。
これから救護班のお手伝いの合間をぬって、調理班の方もできるかぎり手伝わせてもらおうと思う。
毎日美味しいものたべたいものね。
こうして、買出し&はじめての料理のお手伝いは大成功に終わった。
翌日、街の酒屋に飲みに行っていてこの夕飯を食べられなかった団員たちから、是非自分たちも食べたいという要望が沢山あがって、結局翌日も同じモノを作る羽目になったけど、二回目もやっぱり美味しかった!
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