第26話 駐馬車場?

 荷馬車でこんな人混みをいくのは大変じゃない!?と思っていたら、荷馬車はすぐに横道に逸れて壁沿いに進んでいく。その少し行った先に荷馬車や馬車が数台置かれている広場があった。


 大小いろんなサイズの荷馬車が並んでいる姿は、まるで駐車場みたい。ただ車とは違うのは、馬がついているものも多いっていうとこだよね。馬がついていないものは、大八車みたいなもので人間が自分で引っ張るタイプのものらしい。


 クロードが荷馬車を空いているスペースにとめると、すぐに従騎士さんたちが荷台の上からぴょんと降りた。そして、テオとルークが奥にあった井戸から水をくんで馬のところに持ってくる。


 アキちゃんは、どこからか飼いを腕一杯に抱えてもってくると、馬の前に置いた。買出しが終わるまで、お馬さんたちはここで休憩だね。

 そして、ルークがひとり荷物番として荷馬車に残って、テオとアキちゃん、それにクロードと私の4人で市場へ買出しにいくことになった。


 アキちゃんとテオが前を歩き、その後ろを私とクロードがついて歩た。それぞれの手には買い物カゴを持っている。

 アキちゃんはまだ十五歳なんだって。背が小さくてとても華奢にみえるけれど、これでもフランツと同じ前衛を志望してるって言っていた。でも、テオと並んで歩きながら楽しそうにお喋りしている姿は、ただただもう可愛いらしい。彼女が笑うたびに、ショートボブの赤髪が跳ねる。二人を見ていると、微笑ましすぎて頬が緩んできちゃいそう。


 そんな可愛らしい二人と、始終クールなクロード。なんとも不思議な組み合わせだなあ、なんて思いながら街の中を歩いていく。


 門を入ってすぐのところにあった大通りが、この街の中心みたい。あの通り沿いには商店や露天が集中していたけれど、そこから一歩離れるとレンガをくみ上げた住居が広がっている。


 住居は二階建てが多くて、路地は狭くまるで巨大迷路のよう。その路地の上には何本も紐が渡されていて、洗濯物がはためいている。

 狭い街の中を有効に使う、これも生活の知恵なんだろうな。


 表の賑やかな大通りも楽しそうだけど、こういう庶民の生活が感じられる場所も結構好き。


 向こうの路地ではエプロンをした奥さん達が井戸端会議をしているし、こっちの路地ではおじいさんたちが長椅子みたいなのに座ってトランプのようなカードゲームをしてる。


 そんな日常の光景をきょろきょろ見ながら路地を歩いていると、すぐ脇を遊んでいる子どもたちが元気に走り抜けていった。その子たちのあとを、小さな子犬も遅れてぽてぽてついていく。その愛らしい後ろ姿につい立ち止まって微笑ましく目で追っていたら、


「何をしているんだ。置いて行くぞ」


 クロードの鋭い声が飛んできた。見ると、彼らはもう数メートル先にいる。

 まずいまずい。置いて行かれるところだった。

 慌てて小走りでおいつくと謝る。


「ごめんなさい。街へ来たのって始めてだから、ついあちこち見てみたくて」


 彼は、にこりともせずにツイっと視線をこちらから外すと再び歩き出した。彼の眉間にはいつも以上に皺がよっていた。

 まずい。怒らせちゃったかな。

 すっかり足手まといになっていたから怒られるのももっともだ。ここには遊びにきたわけじゃないもの。すっかりおのぼりさんになってしまっていたことを反省して、しゅんと肩を狭めた。


 もっと周りの景色を見ていたかったけれど、クロードたちに置いて行かれないように足を速める。

 しばらくそうやって黙々と歩いていると、隣のクロードから小さな嘆息が聞こえて来た。


「ずいぶん、慣れたな」


「え?」


 なんのことを言われているのかわからず、聞き返す。


「キミのことだ。正直、あっという間に騎士団に馴染んでしまったので驚いているくらいだ」


 褒めているのか呆れているのかよくわからない口調でクロードは言う。


「そんなことは、ないんだけど」


 正直言うと、時々ふっと得も言われぬ寂さに襲われそうになることはある。王都につくまではいいとして、そのあとどうやって暮らしていけばいいのか全然想像がつかない。


 そんな不安や心配と向き合いたくなくて、サブリナ様を手伝ったり、食材整理を買ってでたりと色々と自分でやることをみつけたりしていた。そうやって忙しく手を動かしているときは、あれこれ考えすぎなくて済むからね。

 だから、端からみると平気そうに見えるのかも。


「でも、そう見えているのなら嬉しいかな。あまり皆に心配かけたくないし。それに、ほら。私がこちらに来たばかりのころ、ずっとフランツがいろいろ世話を焼いてくれたでしょ。そのおかげが大きいと思う」


 フランツは私がこの世界に突然やってきて、一番混乱していたときにずっと寄り添ってくれていた。それに、サブリナ様や、レインやテオをはじめこの騎士団で出会った人たちが、私のことを優しく受け入れてくれたから何とかやっていけているんだと思う。


「フランツって、すごく面倒見がいいよね。いろんなこと丁寧に教えてくれるし、助けてくれるもの」


 フランツと親しい彼だから、きっと同意してくれるとばかり思っていた。でも、彼の答えは予想とは違っていた。

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