第21話 おいしいご飯への道
食材庫への荷物の積み下ろしも終了。クロードたちがやっていたカマドづくりも終わったみたいで、もうカマドには大きな鍋が火にかけられている。
大焚き火やカマドの火は調理する以外にも、ケモノ避けや暖房の意味で、キャンプ中はずっと焚かれている。この焚き火がなくなれば、きっと夜には真っ暗になってしまうに違いない。
そんなわけで、調理していないときは、何かとみんなが使いたがる湯を沸かしておいて、自由に使えるようにしてくれている。
もちろん、ここ以外にも小さな焚き火をそれぞれで焚くこともあるけど、そういうときも火は中央の大焚き火からもらってくるんだ。
赤々と燃え上がる大焚き火の火を見ながら、あれ?なにかを頼まれていたような?なにかを忘れているような?そんなひっかかりを覚える。火を眺めながら考えてたら、唐突に思い出した。
「そうだ! レインにお茶用のお湯をもらってくるって約束してた!」
「え?あ、そうなの?」
私が急に大きな声出したから、フランツは驚いたように目を白黒させてる。驚かせてごめんなさい。でも、思い出したからにはここでフランツたちとお喋りしてるわけにもいかない。
「ちょっと救護テントに、お湯届けてくるね。フランツとテオも一緒にお茶する?」
救護テントにあるお茶用ポットは結構大きいものなので二人の分くらい追加しても大丈夫だと思うの。
「ああ、ありがとう。でも、俺、このあと集会あるから」
騎士さんたちは何かあるごとに団長から招集がかかって集会をしている。今後の方針を決めたり、注意事項を話したりとかそんなことをしているみたい。私が勤務してた会社でもあったな、そういうの。
「あの……僕も、明日買出しにいく当番なので、その準備をしようと思います」
二人とも忙しいそう。
それもそうか。救護班は怪我人が出ないとそんなにすることはないから、仕事が忙しくなるのは騎士さん達が魔物討伐から帰ってきてからということが多いけど、テオやフランツはこれからまだまだ準備とかあるよね。
「ううん。ごめんね。私の方こそ、忙しいときに誘っちゃって。でも、ヒーラーのレインって、すっごくお茶淹れるの上手いんだよ。今度飲みにきてよ」
「はいっ。是非!」
そう笑顔とともにテオの返事が返ってくる。
二人と別れてカマドで湯をもらうと、救護テントに向かった。
そうなんだよね。レインの淹れたお茶はとっても美味しいの。真似して同じようにしてみても、私が淹れたものと全然味が違うのはなんでだろう。
あの整った髭面に背筋を伸ばした優雅な仕草でお茶を淹れてくれるんだ。バリトンボイスで「マダム。どうぞ」なんてサブリナ様にお茶を差し出している光景を見ていると、ここはもしかして昼下がりのカフェ?なんて錯覚しちゃいそうになる。
そういえば、レインはサブリナ様のことをマダムって呼ぶのだけど、それは昔彼がサブリナ様の元についてヒーラーの勉強をしていたときからずっとなんだそうだ。つまりあの二人は、師匠と弟子という関係になる。
救護テントにお湯を持って帰ると、レインはちょうどテント近くにトイレ用の穴を掘っているところだった。
キャンプ地の周りの植生を確認しに近くを散策していたサブリナ様もちょうど戻ってきた。
おや? サブリナ様。エプロンに何か赤っぽい小さなものを沢山持ってらっしゃる。
「ちょっと休憩しましょう。ほらみて。ここは高度が高くて涼しいから、まだこんなにたくさんのベリーが実をつけていたわ」
サブリナ様が持っていたものは、野生のベリーだった。木イチゴみたいにツブツブしたものや、ブルーベリーみたいな丸い形をした赤い実もある。
「お茶請けにちょうどいいですね」
レインが整理したばかりの棚からティーカップを三つとティーポット、それにお茶っ葉の入った瓶を持ってくると、救護テントの外に携帯テーブルを広げてお茶を淹れてくれた。
「マダム、どうぞ。カエデも、冷めないうちに」
「ありがとうございます!」
ティーカップからは湯気とともに、ふわんと優しい香りが広がる。
淹れて貰ったばかりのお茶を一口口に含んで、ほっと一息。やっぱり、レインの淹れてくれたお茶は風味が違うなぁ。
こちらの紅茶は、私が日本で飲んでいた紅茶と見た目は似ている。でも、味はもっと華やか。フルーツのような甘い香りがふわっと鼻をかすめて、口の中にまろやかな味が広がるの。渋みはあまりなくて、フレーバーティやハーブティに近い感じ。
サブリナ様の持ってらしたベリーは川の水で洗って、お皿に盛るとテーブルに置いておいた。
ここのキャンプ地は川の水源が豊富なので、井戸は掘ってないんだって。
木イチゴみたいなベリーは、噛むだけで果汁がじゅわっと出てくる。とっても、甘い!
ブルーベリーみたいな方は、ちょっと酸味があるけれど爽やかな甘みでこちらもおいしい!
素敵なお茶の時間のおかげで、イモ袋をたくさん運んで筋肉疲労を起こしかけていた身体に元気が戻ってくるみたい。
美味しい紅茶を頂きながら、ふとさっきのテオとの会話が頭をよぎった。
テオは明日買出しに行くって言ってたっけ。ということは、近くの街か村に行くんだよね。これだけの人数の食料品を買うんだもの、そこそこ大きな街に行くのかも。
調理班の従騎士さんたちはこのキャンプ地の調理や買出しを担っている。でも、そのやり方は先輩から受け継いだものを特に疑問にも思わず、従順に繰り返しているものも多いみたい。
それが、結果的に騎士団員さんたちですら辟易するほどのイモだらけの食事に繋がっている。
たしかに、保存を考えるとイモは良い食材なのだと思う。でも、クロードのように氷魔法が使える人がいれば、そこまで保存に気を遣う必要もないだろう。だから、やりようによっては、イモだらけの食事が続く悲劇は避けられる気がするのよね。
他のものも食べたいもの。なんとかできないかなぁ。
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