第17話 ポーション水は、しゅわっと懐かしい味

 その日の晩は、ちょっとにぎやかだった。

 夕食後、大焚き火の周りに団員のみんなが集まって談笑している光景はいつもと変わらないはずなのに、なんだかいつもより楽しそう。

 その理由を、フランツが教えてくれた。


「見てて」


 レースで見事二番を勝ち取ったフランツが手に入れたのは疲労回復用のポーションだった。といっても、元々は黄色をしているはずのそのポーションは、古くなったためほとんど透明に近い色になっている。


 フランツは井戸水の入ったカップをこちらに渡してくる。何がなんだかわからないままにソレを手に持っていると、彼はポーションの小瓶を開けて、カップの水の中にその中身をとぽんと注いだ。

 すると、カップの水のなかからしゅわしゅわしゅわと沢山の泡が湧いてきた。


「それ、飲んでみて」


 フランツに言われて頷くと、おそるおそる口をつける。


 するっと口の中に入り込んできたのは、甘みだった。次に、しゅわっと口の中で泡が弾ける。

 うわぁ、これ、炭酸ジュースみたい! しかも、甘さはほんのり。しゅわしゅわは結構強い。そして、馴染みのある炭酸ジュースよりも、もっとフルーティで風味豊か。少しアルコールみも感じる? 私の知ってるもので近い味を探すと、炭酸多めのスパークリングサングリア、かな。とにかく美味しい。


「な? 面白い味だろ? ポーションだけ飲んでもこんな味にはならないんだけどさ。でも、一応ポーションとしての効果も多少残ってるから、疲れとか体力回復にもいいんだよ」


 そっか。遠征中だと飲み食いできるものは決まっているものね。エールやワインといったアルコールも、街にいかないと飲めないみたい。だから、みんなあんなに必死になってポーションを欲しがったのね。


 ちなみに、団長は毒消しのポーションを貰ってほくほくしてるのをさっき見かけた。あれは、二日酔いを治してくれる効果があるんだってね。これで街にいっても、美味しくお酒が飲めるよね。


 このポーション水も美味しくて、ついコクコクと何口も飲んでいたらあっという間にカップの中身は半分以下になってしまった。


「あ! ごめんなさい! つい美味しくていっぱい飲んじゃった。これ、フランツのだったのに」


 慌ててカップを彼の胸に突き返すと、彼は笑う。


「それは、カエデの分。まだポーションあるし。どうせ、みんなで飲むんだ」


 フランツはもう二つカップを貰ってきて井戸水をそそぐと、そこにポーションを注いだ。そして、一つのカップは焚き火の傍で食器拭きをしている従騎士のテオに渡す。そのあと、ポーションの小瓶ごと向こうで他の団員と話していたクロードに渡してしまっていた。そうやって、独り占めせずみんなで分け合うみたい。


 単調な遠征生活の中の、ちょっとした楽しみの一つなんだね。だから、今日はどことなくはしゃいだ空気が漂ってるんだ。


 カップを片手に戻ってきたフランツと、焚き火に当たりながらポーション水を楽しんだ。しゅわっと口の中で溶ける甘さが、なんだかとても懐かしくもありつつ、新鮮でもあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る