第4話 水、水、水!
あのあと、恥ずかしいことに再びお腹がなってしまった。
音が鳴らないように腹筋に力をいれるのに、無情にも止まらないグーという音をフランツとサブリナ様に聞かれて恥ずかしいったらありゃしない。
帰れないと聞かされて重く落ち込んでいた気持ちも、それどころじゃなくなってしまったじゃない。どうにかしてこの音を消さなけりゃ。
だって、悲しいかなどれだけ落ち込もうともお腹は減るのだ。うん。水でも飲もう。水で腹を膨らせれば音は止まるはずだ。昔ダイエットしてたときに、朝抜き、昼ご飯ちょっぴりであとはミネラルウォーターをがぶ飲みしてお腹をみたしてたこともあったっけ。あのときは、確かにするするっと体重は減ったけれど、ダイエットやめたらあっという間に元の体重に戻るどころか増えちゃったのよね。
このあたりにも水ないかな。水道があったらいいんだけど、なければ井戸の水を飲むしかないのかな。きょろきょろとテントの中を見回していたら、くすっという声が聞こえる。
声の方をみると、フランツが口に拳をあてて笑うのをこらえていた。
「大丈夫だって。そんな必死に探さなくても、ちゃんと君の分の夕食も用意して貰うから」
あまりの空腹に食べ物を探していたと勘違いされたらしい。
「え、ちょ、違うの! 私は水でお腹を膨らませようと」
すると、今度はサブリナ様が哀れむような目をこちらに向けてくる。
「いままで水で空腹を紛らわせなければならないほど、過酷な暮らしをしていらしたの? 見たところ、そこまで痩せているようには見えなかったけれど」
ああああああ、サブリナ様にまで勘違いされてる。違うの! 私はただ、お腹の音を止めようと!
あたふた事情を説明しようとしていたら、まだ笑いをかみ殺したままのフランツにまたお姫様抱っこされてしまう。
「きゃあっ! ふ、フランツ! 大丈夫だって、私、ちゃんと歩けるから!」
「じたばたしないで。そんなに腹減ってんなら、すぐに食事のあるところに連れてってあげるから。ほら、いい匂いがしはじめただろ?」
フランツに言われて、動きを止める。本当だ。確かに、どこからか肉を焼くような香ばしい匂いが漂ってくる。
「グレイトベアーの肉は、アレで結構軟らかくて美味いんだよな」
グレイトベアーとは、たしか私がさっきおそわれかけた巨大熊のことだっけ?
「ええええ? あれ、食べちゃうの?」
直球の疑問を口にすると、フランツはニコニコと機嫌良さそうに答えてくれた。
「もちろん。退治した魔物は、食用にできるものなら皆で食べることになってるんだ。命に感謝するためにね。グレイトベアーなんて美味しいからマシな方だよ。……こないだ食べたストーンスネークなんて食べられたものじゃなくて……」
ストーンスネーク? 石の蛇? それは名前からしてなんだか堅そうな名前ね。
ってそんな会話をしながらも、フランツは私を降ろしてくれない。たぶん、意地でもこのまま食事のところへ連れて行くつもりだろう。変に抵抗して機嫌を損ねたら嫌なので、そのままされるがままになっていた。
フランツがテントから出て行こうとすると、「待って」とサブリナ様が呼び止めてくる。
フランツが私を抱きかかえたまま振り返ると、彼女は文机でさらさらと紙に何かを書き付けて折り畳み、フランツに手渡した。
「ゲルハルトにコレを。あとで私の方からも直接伝えますが。彼女の安全を考えると、王都まで連れて行くことをすすめます。異世界からの使者は、ときに神の
神の御業とか言われても、ちっとも意味はわからない。知識といったって、二十七年間普通に生きてきた経験と、仕事で培った経理の経験くらいしかないけど?
一方、手紙を受け取ったフランツは神妙な顔をしてこくんと頷いた。
「ありがとうございます。団長には俺からもちゃんと伝えます。きっともう、団員の中でも噂になってるでしょうし」
フランツが入口の垂れた布をあげてお姫様だっこされたままテントの外に出ると、より一層強く、肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。燻すような焚火の匂いもする。
また、きゅーっとお腹がなってしまった。あああああ、やっぱり水飲んでおけばよかった!
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