第23話 新年早々の話
年明けにも関わらず、俺は自室に篭ってパソコンでプログラムをいじくっていた。趣味ではなくもちろんいつもの通り仕事である。正月といえばお参りや福袋を買いに行ったりなどするのであろうがあまり行事事に関心がない俺は正月だろうが三賀日だろうが関係なく仕事を詰め込んでいた。
俺は仕事がひと段落付いたのでコーヒーをすすり休憩を挟んでいると何やら隣のリビングからバタバタと音が聞こえる。その音はこちらの部屋へ近づいているのが分かる。俺は察した様にため息をついた。そして次には想定していた通りクモが俺の部屋へ入って来るのであった。
「夏彦ー!」
「なんだようるさいなー。俺がそっちの部屋へ行くまでは話しかけるなって言っただろう。」
眉間に皺を寄せ、あからさまに困ってますという感じに返してやる。が、クモは俺の顔を見てもなんとも思っていないようでいつもの通り元気いっぱいに答える。
「はははっ!ごめんごめん!でもさ、お正月にずっと篭もりっきりってのも良くないんじゃないかなって!」
そんな気を利かせられる奴では無いことは百も承知な俺は何か裏があることは分かりきっていた。だから面倒事を起こす前に出ていって貰おうとクモにドアの方を指さす。
「ああそうだな。だけど俺は仕事がしたいんだ。だから出てってくれ。」
「だーかーらー!仕事ばっかじゃ体壊すってばー!」
唐突に大声を出され地団駄を踏まれ、とてつもなくうるさい。これはまたこっちが折れるまでやる気だろう。近所や1階の人にも新年早々騒音で迷惑をかけるわけにもいかない。仕方ない、話だけでも聞いてやるか。
「あーもーうるさい。一体なんなんだ?」
「へへへー!よくぞ聞いてくれた!さっきねー、テレビ見てたんだけど!人間は正月に初詣というものに行くらしいね!」
「ああ、そうだな。」
「でねー!それに行きたいなって!行かない!?」
クモは子供のように無邪気に目を輝かせて聞いてくる。だが俺の答えは決まっている。
「嫌だ。面倒くさい。ヘビとでも行ってこい。」
「ダメだよー!だってヘビ報告書書いてるもん。」
「だったらお前も大人しく報告書書けばいいだろう……。」
「えー!初詣行きたいー!それに神様に挨拶した方が1年いいことあると思うよー?」
「知らないよ。そもそも俺、神様とか信じてないから。」
その言葉を聞いてクモはキョトンとした顔になる。
「なんで?幽霊とか妖とか見えるのに?」
「それは見えるから仕方ないだろうが。でも神様は見たことないし。」
そもそも神様に挨拶しに行ったらいい1年になるのなら世の中不幸な人なんかいないはずだ。そんな不確かな存在信用ならない。
「初詣なんて行っても無意味だ。」
「えーでも俺、天界に行く七福神さん達とか見たことあるよ?あと他の神様とか。」
「俺が見たことないんだから居ない事でいいんだよ。」
「そうかなー?そう言うなら見に行けばいいんじゃないかなー?」
「見に行く……?」
デスクに向きを直して仕事を再開しようとしていた俺はその言葉にちょっとだけ興味を持った。
「見れるのか?神様が……?」
「夏彦って幽霊とか妖とか今は普通に見るようになってるんでしょ?だったら地元の神様くらいは見えるんじゃないかなー?多分だけどね!」
神様が見える、その言葉は俺にとって救いになるもののように思えた。思えば今まで不運続きだったこの人生、こんな人生をなんで神様は与えたんだろうと恨む事もあった。そのせいもあって神というものを毛嫌いしていた節もあった。だが神様が本当に居るのだとしたら、もし願いを叶えてくれるのだとしたら俺は直接神様に言いたい。「どうかこの不運体質を何とかしてください!」と。
「クモ……。」
「ん?どしたの?」
「神社に行くぞ……今すぐ初詣に行く!」
「おー!そう来なくっちゃね!」
この人生を何とかしたいという一心で俺は仕事しかけのパソコンを放ったらかし、さらに1人で頑張って報告書を書いているヘビも放ったらかしてクモと神社へと赴くのであった。
*
1月2日だから神社も空いているだろう、なんて考えで来た俺だったが甘かった。未だに木間神社は人でごった返している。再建したてで真新しい神社ともあって人気なのか拝殿の前には行列ができていて、おみくじを引く人、お屠蘇を頂く人など皆思い思いに正月を満喫している様子だ。俺達も早速参拝すべく手水舎で手を清め、列の最後尾につく。スマホをいじったりクモと話しながら時間を過ごし、30分程して順番が回ってきた。俺は鈴を鳴らし、手を合わせながら拝殿の中をチラチラ見る。
神様は一体どこだ!?どこにいるんだ!?
しかしいくら見ても神様らしき人物が見つかる様子はない。いつまでも手を合わせて拝殿内を見ていると後ろの老夫婦から早く順番を譲るようにと催促の咳払いが聞こえた。仕方なく俺は順番を譲り、横にはけるのであった。
「クモ!どういう事だよ!神様なんて見えなかったぞ!」
「うーん、どうやらこの神社にはまだ神様は住みついてはいないみたいだね。まあ、最近まで廃れ神社だったし仕方ないっちゃ仕方ないね。」
「そんなぁ……。」
せっかく期待して隣町から来たというのにそれはないだろう……。
俺はガックリと肩を落とす。これも自分の不運体質のせいなのだろうか……。
「まあまあ、そんなに気を落とさないでさ!おみくじでも引こうよ!」
俺は新年一発目にして不運を発揮してしまった憂鬱で足取りも重く、あまり気乗りもしなかったがクモに言われるがままおみくじを販売している社務所へ向かう。
「あ、そう言えば……。」
あることを思い出し俺は一旦社務所へ向かう足を止め、もう1度神社へ目を向ける。
ミケはどこだろう……?
俺達が自分の街の神社ではなくわざわざ隣町の木間神社へ来た理由は、参拝ついでにミケにも新年の挨拶をしようと思っての事だった。ミケは普段神社で過ごしていると言っていたので多分近くにいるはずだろう。しかしいくら辺りを見回してもミケの姿はどこにもない。
「居ないな……。」
「ミケのこと?どっか行っちゃったんじゃない?こんだけ人がいたら騒がしいったらないしね!」
「そうか……。」
「ささ、おみくじ引こー!」
俺はしかたなくまた社務所へ向かう。すると社務所の隣に何やら人だかりができていることに気づく。
「ん?なんだ?」
不思議に思いながら近づく。人だかりの中心にいるのは見知った顔だった。
「み、ミケ?」
そう、ミケだ。ミケが皆の注目の的となっているのだ。どういう事なのか分からず、とりあえずミケに近づくとミケはなんと巫女装束を身につけていた。しかし普通の巫女さんの服装とは違い、丈の短いミニスカートのような姿に白いハイソックスを履いて腰には大きなリボンをつけていていわゆるコスプレ風巫女装束だ。そしてそんな派手な服を着たミケを取り囲むように周りの人達は写真を撮っていた。ミケもまた嬉しそうにポーズをキメている。もはやちょっとした撮影会のようだ。
「ミケ、何してんだよ……。」
「あ!夏彦ー!あけましておめでとうなのだー!」
ミケはこちらに気づくと嬉しそうな笑顔で近寄ってきた。
「あ、うん。あけましておめでとう。というかその格好どうしたんだ……?」
「それはねー、昨日からなんだか巫女さんが多いから見てたらたんだけど!そしたらミケも真似してその服着てみたくなったのだ!だから服を変化して着てみたのだ!ただし普通の巫女装束じゃつまらないからいつも読んでいる雑誌に載っていた風に改良したミケ特性巫女装束なのだ!」
ミケはその場で全身を見せるようにくるりと回ってみせる。
「そうか……なんだか良く分からないけど元気そうで何よりだ。」
「うん!じゃあ次の人が撮影待ってるからまたね!なのだ!」
そう言うとミケはまた人だかりの中へ消えていった。とりあえずミケへの新年の挨拶も済んだことだし気を取り直しておみくじでも引いて帰ろう。俺はおみくじやお守りを買うために社務所へ並んでいる人達の最後尾についた。
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