第22話
夜が深くなり、星がはっきり見えるような空気の澄んだ中、ミケと俺達3人は歩いていた。猫又、もといミケはまたバス停留所跡地に戻ると思いきや、丘上の木間神社へと向かった。理由を聞いたところ、昼は木間神社の拝殿の中でいつも寝ていて、夜になるとバス停留所前の地蔵の所にに出てきていたとのこと。だがもう人を襲う理由がなくなったので木間神社でひっそり暮らすそうだ。
ちょっと失礼な質問にはなるがあれだけ想っていながらなんで昼は善次郎さんを待たなかったのか気になったので聞いてみると、最初の頃は待っていたのだがいつしかバス停留所にされ、人が居る昼の時間には別な場所で昼寝するのが日課になっていたらしい。
そんな事を聞きながら再建仕立ての真新しい木間神社まで送ってやるとミケは深々と頭を下げてきた。
『ありがとう。そしてすまないことをした……。』
謝罪の内容は多分クモとヘビの怪我のことだろうか。それを聞いてクモとヘビは1度顔を見合わせ、ミケにこう返す。
「別に謝らなくてもいいよ、今は全然平気だし!まあ、結構痛かったけどね!」
「そうだな。あれだけいい動きをするんだから戦闘要員に欲しいくらいだ。」
クモもヘビも気にしていないというのが伝わったのかミケはほっと一息つく。
「そういう事だってさ。じゃあ達者に暮らしてくれよ。ミケ。」
俺は手を振りながらその場を離れようとする。それに続きクモとヘビも足を進める。ところが少し歩いたところで後ろからミケの『待ってくれ!』という声が聞こえた。俺は振り返り不思議に思いながら聞き返す。
「どうした?」
『その……お前達には世話になった。世話になりっぱなしと言うのはなんというか……気分が良くない。いつかお礼がしたい。だからお前らの所在を教えてくれないか?あと、改めて名前も。』
「え、そんなのいいよ。気にするなって。」
『良くない!私の気が収まらないんだ!』
「ええ……じゃ、じゃあ……。」
仕方なく俺は名前と自宅への道のりを土の地面に書いて教える。その道のりを何度も確認してミケは覚えようとする。
自分を祓おうとしてきた相手にお礼をしようとするだなんてなんだか律儀だな。
「どうだ?覚えたか?」
『ああ、大丈夫だ。』
「そうか。じゃあ本当にこれでお別れだ。」
『うむ。では。』
ミケは胸のあたりで慎ましやかに手を振る。俺もまた手を振り返してやり、少し先に進んでいたクモとヘビの元へ歩く。
「ミケ、本当に来る気かな?」
「さあね?妖怪のする事なんて当てにならないよ。」
「そういう事だな。あんまり気にするな。それよりもクモ、さっさと帰って報告書書くぞ。」
「えー!」
クモの嫌そうな声を聞いて俺は苦笑いをこぼす。
俺もさっさと帰って仕事の確認でもするか。
丘を下り、深夜の道のりを2人の会話を聞きながらひた歩いた。
*
ミケの件を忘れかけ、いつものように仕様書とパソコンを見比べながら仕事をしていると玄関のチャイムが鳴った。その後、「はーい!」とクモの元気いっぱいな声が聞こえた。きっとクモが対応してくれているのだろう。そう思い、俺は席を離れなかった。しかし、数分程して俺の部屋へクモは現れた。
「夏彦ー!ちょっと玄関来てよ!」
「なんだ?宅配の人じゃなかったのか?」
「いいから早くー!面白い事になってるよー!」
「?」
知人などほぼいない俺に来客なんてあるわけが無いのだが……。そもそも面白いって?
不思議に思いながら玄関へ向かう。するとそこには見知らぬ奇抜な姿の少女が立っていた。髪はツインテールで結び目には大きなピンクのリボン、服装はゴスロリと言うのだろうか?フリルがたくさんついた異様に膨らんだ長袖のワンピースを着て手首にはピンクのシュシュを付けて背中にはこれまたピンクのリュックを背負っていた。
「あの、どちら様?」
「久しぶりなのだー!」
少女は嬉しそうに顔のあたりで小さく手を振る。久しぶりと言われてもこんな人物に最近出くわした覚えはない。
「えっと……君どこであったっけ?」
「えー!覚えてないのー?」
「多分人違いだと思うんだけども……。」
困って頭を掻きながら答えるとその少女は声色を変える。
「女、本当に覚えとらんのか?」
「え、その声は……。」
その声はとても聞き覚えのあるものだった。
「もしかしてミケ!?」
「そうだ。じゃない、そうなのだー!」
ミケは猫のようなポーズを取り、ぺろっと舌を出す。
「……なんでそんな格好してるんだ……。あとその喋り方……。」
「なんでー?それはー、これのお陰なのだー!」
そう言ってミケがピンクのリュックから取り出したのは雑誌だった。表紙に書いてあった字を読んでみると『これでアナタもカンペキ!コスプレガイド!』と書いてある。
「つまりこのコスプレ雑誌を見て学んだと……。」
「なんかー、この間木間神社の裏にこういう本を沢山置いていく人がいてー。これを読んだら現代のことが沢山書いてあったからミケ色々とお勉強したのだ!」
ミケよ、それは不法投棄と言うんだぞ。
そんな事を言っても多分分からないだろうと思いその言葉は自分の中に留めておく。
「それにしてもなんの為に現代のことなんて知る必要あるんだよ?木間神社でゆっくり善次郎さんの事を待つんだろ?」
「その事なんだけどー。ミケ、色々と考えたんだよね。夏彦達に恩返しもしたかったし。それで思いついちゃったのだ!最高の恩返しを!」
「最高の恩返し……?」
一体なんだろうか……?
「夏彦のお手伝いをするのだ!」
「手伝い?それって……もしかしてお祓いの!?」
「うん!」
ミケは元気いっぱいに頷いてみせる。
「え、えええ?でも善次郎さんの事はどうするんだ?」
「善次郎の事はもちろん待つけどもその間暇してるのももったいない!夏彦の役に立ちたいのだ!だから夏彦達の『らいふすたいる』に合わせられるようにお勉強したのだ!」
「でも……えっとー。」
どこから突っ込めばいいのか分からない俺はとりあえずクモを見る。するとクモはいつものように明るく笑った。
「はははっ!こりゃいいね!ヘビの言う戦闘要員が増えた!ヘビに伝えてくるよ!」
クモはそう言うと戸惑う俺を置き去りに嬉しそうにすぐさまヘビの元へ向かう。
「ええ!?いいのかそれで!?」
「わーいやったー!」
ミケは嬉しそうに両手をあげる。
「これからよろしく!なのだ!」
「え、う……ん……よろしく……?」
まだ戸惑い気味な俺の手を取り、ミケはとても嬉しそうに笑顔で俺を見つめる。
今年も終わりかけのとある日、祓い屋は新たな仲間を迎え入れる事となった。
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