第20話
『善次郎に会う……?そんなことが出来るのか!?』
猫又は目を見開いて問う。クモは自信ありげに腰に手を当てる。
「まあ物は試しってやつだよね!」
『し、しかし善次郎はもはや死んでいるだろう……?』
「だから俺の出番なんだよ!この獄卒の俺がね!まあ今は祓い屋だから『元・獄卒』だけど!はははっ!」
「クモ、一体何をどうするっていうんだ?」
死んでしまった人間をまさか生き返らせるとでも言うのだろうか?俺は疑問に思いクモに聞く。
「それはねー、俺が1回地獄に帰って天界へ行って探すんだよ!善次郎って人いますかーって!」
「それから?」
「そして善次郎を見つけて現世へ来れないかお願いするんだ!」
その言葉にヘビがすぐさま否定に入る。
「無理だろ、死人をまた現世に呼ぶだなんて前例のないことできるわけが無い。」
「でもやってみないと分からないじゃない!」
「そうじゃなくとも1度あの世に帰ったらなかなか帰って来れなくなるんだぞ。その間祓い屋の仕事はどうするんだ?」
「それはー……考えてなかったね!はははっ!」
「全く……。」
クモの言葉にヘビはやれやれと首を振る。
「じゃあさ!早く見つかるように事前に天界の方へスマホで連絡しとけばいいんじゃないかな?善次郎っていう元陰陽師探してますって!ほらこの携帯電話ってあの世にも通じるやつじゃん?俺、掛けてみる!」
すぐさまクモはスマートフォンを取り出し電話をかける。
あの世って電波届くのか……ハイテクだな……。
クモは猫又に善次郎の特徴などを幾度か聞き、その内容を電話先に伝える。その後数分ほど受け答えをした後、電話を切り俺の方へ向きを変える。上手くいったのだろうか?
「クモ、どうだったんだ……?善次郎さんは見つかったのか?」
クモは「うーん。」と少し悩ましげな表情でスマートフォンをポケットにしまう。
「ざーんねん、善次郎はもう天界にいないってさ。生まれ変わっちゃったらしいよ。」
「それはつまり……。」
「もう『善次郎』という人物自体無くなったということだね。」
「…………そうか。」
それを聞いて俺も猫又も悲しそうに目を伏せる。せっかく掴みかけた希望がなくなってしまった。猫又はまた涙ぐんでいる。
だがその様子を見てもクモは平気な顔をしている。そして「実はね。」と話し始める。
「確かに善次郎本人には会えないけども、その生まれ変わりはどこにいるのか教えてもらったんだよね。」
「えっ!」
驚きとともにバッと顔を上げ、クモの顔を見上げる。
「それってどこにいるのかも分かるのか!?」
「うん!この街にいるらしいよ!」
「それ本当かよ!あ、でも……。」
善次郎さん本人じゃないのに猫又は大丈夫だろうか……。俺は念の為に確認をとる。
「なあ猫又、この街のどこかに善次郎さんの生まれ変わりがいるらしいが……会いたいか……?」
猫又は少し戸惑ったように数秒顔を伏せていたがふと顔を上げる。
『…………会いたい。たとえどんな形であれ魂が同じであればそれは私にとって善次郎だ……。だから会いたい。』
「そうか……わかった。クモ、場所が分かるなら案内してほしい。」
「りょーかい!ヘビもそれでいいよね?」
「全く仕方の無い奴らだな。」
渋々ヘビは猫又を縛っていたロープを解いてやる。猫又は立ち上がり『ありがとう。』と小さく礼を言う。
「それじゃあ善次郎の所へレッツゴー!」
俺達はクモの案内の元、善次郎さんの生まれ変わりに逢いに行くことにした。
*
冬の夜長、俺達はとある住宅街の中を歩き回り、クモの案内によって1軒の家にたどり着いた。その家は青い屋根の平屋で高い塀で囲まれている。
「ここに善次郎さんが?」
「うん!間違いないよ!」
「そうか。ところでさ、猫又って普通の人間にも見えるのか?」
俺は霊力というものが強いらしいから見えていて当たり前だがその他の人にはもしかしたら見えないかもしれない。前世が陰陽師だったからと言って今回も見えるとは限らない。
『安心しろ女、私はある程度人間にも認識できるように化けることが出来る。』
そう言うと化け猫はその場で着物姿の髪の長い女性になって見せた。顔も普通の人間そのものだ。服装はあまりこの辺では見ないような格好だがまあいいだろう。
「そうか、じゃあ早速会ってみよう。」
俺は玄関へ向かい、チャイムを鳴らす。どういう理由で来たのか尋ねられたら道を案内してほしいとでも言っておこう。
チャイムが鳴り終わり、指を離す。どんな人が出てくるのかと少し期待しながら待つ。が、家主は出てこない。1分くらい経っても誰も出てくる様子はない。もう一度だけチャイムを鳴らしみは見るもののやはり誰も出てくる様子も無ければ足音もしない。そもそも夜だと言うのに部屋の明かりもついていない。留守なのだろうか?
俺は後ろにいる3人へ向きを変える。
「どうやら留守みたいだな…。また時間をおいてからくるか……。」
「何言ってんのさ夏彦、そこにもういるよ!」
クモは屋根の上を指さす。
「え?」
その指の先へ目を向けるとそこにはなにか光るものを見つけた。どうやら光るそれは街灯に反射した動物の目のようだ。そしてよく目を凝らしてみるとそこには真っ黒な猫がいた。
「あの猫が一体?」
「あれだよ!あれあれ!」
「え?」
「だから!あの猫が善次郎なの!」
クモの言葉に一瞬間が空き、思わずキョトンとした顔になってしまう。
「……え、でも人間じゃないぞ……?」
「誰も人間に生まれ変わっただなんて言ってないじゃん!天界からはここの家の猫に生まれ変わったって言われたんだよ!」
「え、えええ!?」
俺はクモと黒猫を何度も見返す。一方黒猫はこちらの動揺している様子などお構い無しという感じに大きく欠伸を1つついていた。
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