第15話
たった今俺は何故か巫女さんに金づると言われ驚きで硬直してしまった。そんな俺の手を離すと相良さんは拝殿とは少し離れたところにある社務所へ向かう。そして社務所の中から窓口を開けこちらへ手を振ってきた。
「早くこっち来なさいよー。」
相良さんはこちらへ来いと手招きをしている。呆気に取られているとヘビが俺に声をかける。
「夏彦、悪いな。あいつはああゆう性格なんだ。」
「えーっと、もしかして紹介したかった人ってあの人……?」
「そうだ。あいつは術具や御札を販売して俺たちみたいな祓い屋や陰陽師をサポートしてくれるやつなんだ。」
「へえ、すごいな。神社の巫女さんってみんなそんなことしてるのか?」
「いや、あいつは特別そういうことをしている。そして神に使える巫女の割に……まあ今さっきの会話の通り口が悪い。」
「性格もなかなかだよ!なんてったって強欲・腹黒・守銭奴巫女だからね!はははっ!」
「そ、そうなのか……?」
クモの言葉を聞き、巫女さんに対してその言いぐさは些(いささ)かどうなのだろうと思う。それに商売をしているのであればお金は大事なのだから守銭奴という言い方は少しばかり厳刻では無いだろうか。
「ちょっとー!なにごちゃごちゃ喋ってんの!早く来なさいったら!」
相良さんは苛立ったような声でもう一度俺たちを呼ぶ。窓口から体を乗り出してとてもご立腹な様子なのですぐさま社務所へ向かう。社務所前に着くと相良さんはこう切り出した。
「で、今日はいくら持ってんの?」
「へ?」
「いくらお金持ってんのか聞いてんのよ。いくら?」
「え、ええーと……。」
あまりの圧のある聞き方にカツアゲされてる気分になって萎縮しているとヘビが五本指をバッは相良さんの前へ突き出した。
「5万だ。」
「はあー!?すっくな!少なすぎて笑いも込み上げないっつーの!」
溜息をつきながら相良さんは頬杖をつく。
「そんなんでよく来たわね?お金の数え方間違ってんじゃないの?ドス黒蛇さん。」
「なんでそんなに怒ってるんだ?別に足りない金額じゃないだろう?」
「まあいいわ……。私は優しいから松から梅まで一応見せてあげる。」
「優しいから」の所を強調してヘビに言った後、相良さんは自分の足元から木箱を3つ取り出し俺たちの目の前へ置く。木箱の蓋にはそれぞれ『松』、『竹』、『梅』と書いてある。
「吉野さん、だったかしら?それぞれ御札が入ってるわ。どうぞ中身を確認してちょうだい。」
「……あ、はい。」
言われるがまま木箱を開けていくと3つともそれぞれ御札が束になって入っている。しかしよく見ると御札に書かれている文字は3つとも書き方がまちまちである。1つはしっかりした太字の達筆でもう1つはなんだが字がぶれてニョロニョロしている。最後のひとつは可愛く丸文字だ。
「確認した?じゃあどれか選んで?」
相良さんは適当にそう言うとまた頬杖をつき、興味なさげに爪をいじる。
「どれがいいんだろう……。」
「そりゃ松で!」
俺が悩んでいるとクモが迷わず答える。すると相良さんはニヤリと笑い、こう答える。
「残念。松は1枚6万円、つまりあんた達には手の届かない代物よ。」
「高っ!えっ、これ1枚で!?」
「当然でしょ?御札ってのは特別なものなんだからそれくらい当然の額よ。」
驚きで思わず触っていた御札から手を離す。
こんな紙1枚でそんな価値があるとは……。
俺が驚愕している横でヘビは眉間に皺を寄せ、険しい表情で相良さんへ問い詰める。
「おい、前回は2万だっただろ。なんで金額が倍以上になっているんだ。」
「そりゃ需要と供給のバランスを考えて金額を設定してるからよ。」
「このぼったくり巫女が……。」
「あら、人聞きの悪いこと言わないでちょうだい。」
相良さんはぷいっと顔を背ける。
「えっとー、じゃあ松と梅はいくらなんですか……?」
恐る恐る値段を聞いてみる。松の御札の値段がが倍になっているということは他も相当高いのかもしれない。
「安心して、竹と梅は前と値段は変わらず1万円と5千円よ。」
良かった、それなら5万でも十分買える。
「良かったなヘビ。これで買えるな。」
「いやダメだ。松じゃなきゃ意味が無い。」
「なんでだよ?」
「偽物だからだ。」
「えっ、偽物!?」
その言葉に相良さんは「失礼な!」と窓口のアルミサッシをバンバン叩く。
「私が丹精込めて書いたのよ!梅はまあ、私のオリジナルだけど……。竹は神主さんの書いた松の御札を見ながら書いたんだから偽物とは言わないわ!」
「いや写しただけなんだからどう考えても偽物だろうが。」
ヘビが相良さんの頭をチョップしてツッコミを入れる。
「いったーい!何すんのよこの罰当たりが!」
「罰当たりはお前だこの悪徳業者が。御札は神主直々に書かないと意味が無いことを知ってるだろう。」
「いいじゃない可愛い巫女さんが書いてんだから!効果あろうが無かろうが!少なくともご利益はあるわよ!」
「ま、まあまあ落ち着いて……。」
なんだが喧嘩になりそうな雰囲気に仕方なく間に入り、ヘビを相良さんから離す。
「とりあえず御札は買えそうにないんだから。仕方ないし今日は帰るしかないよ。」
「……。」
ヘビは黙り込んで難しそうにまた眉間に皺を寄せる。
頼むからこんな神社で大喧嘩するのはやめてくれ。
そんな俺の願いが通じたのかヘビは「そうだな。」と呟き相良さんに背を向ける。
「2人とも帰るぞ。」
「お、おう……。」
「そうよそうよ!一昨日来やがれ!あ、次回来る時はちゃんとお金は持ってきてよね!」
お金はちゃんと持ってくるよう言うところがちょっとがめついなあ……。
だがとにかく面倒事が嫌いな俺はこれでやっと問題を起こさずに帰れることに安堵した。大体巫女さんに喧嘩売るだなんて本当にバチが当たりそうだ。それにお金が足りないのだから帰るしかないのだ。
「では失礼します……。」
俺は一応ぺこりと頭を軽く下げ、来た道を帰ろうとする。するとヘビは「あっ。」と思い出したように声を上げまた相良さんの方へ振り返る。
「そう言えばお前、隣町にある木間神社を知っているか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます