第12話

「友達!?物じゃなかったのか!?」


「うん、友達!」


「なんでそんなこと忘れられるんだよ……。」


「ご、ごめんなさい……。すごーく前のことだったから何を探してたのかも忘れちゃってて……。」


リョウはまた泣き出しそうな顔をする。


「わー!泣くな!別に怒ってるわけじゃないんだ!」


「そうなの……?怒ってない?」


「怒ってないよ。」


泣き出されなくてよかったと溜息をつき、リョウの頭を撫でてやる。しかし友達となると少し疑問に思う節がある。


「なあリョウ、暖かくって柔らかいものって言ってたよな?それはどういう意味なんだ?」


「それはね、友達のほっぺがとっても柔らかくってあったかいからなの。」


「こんな感じなの。」と言いながらリョウは自分のほっぺをムギュっと掴みながら教えてくれた。多分探している相手も子供なのだろうか?仮に相手が大人や老人ならばその表現はちょっとおかしい。


「もしかして探してるのは子供なのか?」


「子供っていうか同じ妖怪なんじゃない?」


クモがリョウの隣のブランコをこぎながらそう言った。


「そっか、かなり月日がたってるかもしれないんだもんな。なら妖怪の方が一理あるか。」


俺はリョウの方へ向き変える。


「リョウ、お前が探しているのは妖怪なのか?」


「うん、僕と同じ狐なの。」


「そうなのか。その子はいつどこでいなくなったんだ?」


「うーんとね、すごく前のことだからあんまり覚えてないんだけどね、ある日この公園でその子が僕に目を閉じてって言ってきてね、ボク、目を閉じたの。そして『もーいーかーい』って聞いたの。そしたら『もーいーよー』って聞こえて目を開けてみたらその子はいなくなってて……それ以来会えてないの。」


話を聞くからに2人はかくれんぼをしていたのだろうと推測する。そして未だにその子は見つけられないままでいるという事なのだろう。


「家には帰ったりしなかったのか?もしかしたらその子も家に帰ったのかもしれないぞ?」


「ボク、その子の窼(ねぐら)にも何度も行ったんだ。でもやっぱり帰ってきてなくって……。」


リョウはブランコに腰掛けたまま悲しそうに俯く。そんな様子のリョウの頭を俺はまた撫でてやる。


「大丈夫だ、絶対みんなで見つけよう。」


正直見つけられる自信はどこにもない。だが子供がが本気で悲しむのを見て放って置けるほど俺は鬼ではない。むしろ何とかしてやりたいという気持ちが強かった。


「クモ、手当り次第探すぞ。」


「はいはーい!」


「小さいお兄ちゃん……ありがとう……!ボクも探すよ!」



俺達は隠れられそうな場所をくまなく探した。木の影、草むら、球体の中が空洞になっている遊具の中、うねうねと蛇のように長く曲がっている滑り台の裏側など明らかにそんな所には居ないだろうというところまでくまなく探す。

そんなことをしているうちに日はどんどん傾いていき、午後5時を過ぎた頃には冬で日が落ちるのが早いということもあり辺りはほぼ真っ暗だ。


「今日はもうこのあたりで終わりにしておこうか……。」


俺は草むらをかき分けるリョウに話しかける。


「もう少しだけ……。」


「じゃあせめて休憩しないか……?」


かれこれ3時間近く探し回り、俺はクタクタだった。大の大人がこれだけ疲労しているのだ。リョウはもっと疲れているはずだ。


「疲れただろう?今飲み物を買ってくるからあそこのベンチで待っていてくれ。」


「……うん。」


そう返事を返すとリョウはようやく手を止めた。そして大人しく赤いベンチへ向かう。俺はベンチの横にある自動販売機から缶の温かいお茶を3つ買い、1つをリョウにやる。


「おーいクモ!お前も休まないか?」


「オッケー!」


クモはこれだけの時間探してたにも関わらず相変わらず元気で、ベンチへ近寄りリョウの隣に座る。そして俺はお茶を渡してやる。リョウは小さい手ながらにちゃんとお茶開けごくごくと飲んでいる。俺もお茶を開け、一口飲んでほっと息をつく。


「それにしても見つからないなあ……。そう言えば聞きそびれていたけどリョウ、その友達は名前はなんて言うんだ?あとなんか特徴とか無いのか?例えば服の色とか。」


「うーんとね、その子は『キク』って名前でいつも赤い帽子のついた服を着ていたよ。赤が好きなの。このベンチみたいな色がね。」


リョウはベンチをペちペちと叩いてみせた。


「あとはね、化けるのがすごく上手なの。キクはね、なんにでもなれるんだよ!」


「へーそうなのか。なんにでもなれるのか……。」


なんにでもなれる、その言葉を聞いてこう思った。もしかしてその子は隠れてるのではなく何かに化けているのでは?俺は公園をもう1度じっくり見渡す。


「……。」


そう言えばこの公園は昔とある思い出があった。俺が小学2年生の頃だ。その頃クラスの男子の間では鉄棒で逆上がりができるのがかっこいいと流行り、毎日男子が学校や公園で逆上がりの練習をしていたのだ。

俺もその中の一人で学校の鉄棒で練習したものだ。けれど鉄棒をみんなが使っていて使えない時があった。その時によく練習に来ていたのがこの公園だ。だがこの公園の鉄棒ではまともに練習出来ることは無かった。何故かと言うと小学校2年生で、しかもすごく背の小さかった俺にはここの公園の鉄棒は高すぎて1人で掴まることが出来なかったのだ。父親に体を持ち上げてもらってやっと掴んでいたのを思い出す。


だが今この公園には昔使っていた大きな鉄棒の隣に小さな子供も掴まれるような低めの鉄棒が設置してある。

俺はなんとなくその鉄棒に近寄った。

確かこんなものは昔なかったような……。

触ってみるとその鉄棒は傷一つなく真新しい。まるで昨日今日設置したような赤い塗装の塗られた鉄棒だ。俺はリョウに声をかける。


「リョウ!ちょっとこっち来てくれ!」


リョウはこちらへ駆け寄る。


「どうしたの?」


「聞きたいことがあるとがあるんだが。リョウは毎日ここに来ているのか?」


「うん、来てるよ。」


「じゃあこの鉄棒は前からあったのか?」


リョウに小さい鉄棒を見せる。


「うーん、多分前からあった気がする。」


「そうなのか。ありがとう。」


俺はリョウの頭を撫で、鉄棒の方へまた向き変える。


前からあったのに新品の鉄棒、赤い色、化けるのが得意……。


俺は少し考え、ある答えにたどり着く。確証はないがちょっと試してみよう。

俺は鉄棒に向かって話しかけるように喋る。


「キク……お前なのか……?」


話しかけてみても鉄棒は特になんの変哲もない。数十秒見つめては見るもののやはりただただ冷気に冷やされた鉄の棒だ。

だよな、流石にそんな上手い話あるわけ……。


「なーに?そんなに見つめちゃってー。本当に見つけちゃったのー?」


「うわっ!?」


いきなり鉄棒が喋りだした!?

俺は驚き盛大に尻もちをつく。


「小さいお兄ちゃん大丈夫!?」


リョウは心配して俺に手を差し伸べる。


「あ、ああ……。それより今鉄棒が……。」


鉄棒へ再び目をやるとなんと鉄棒は生きているかのようにぐにゃぐにゃとひとりでに動いている。そして何かの形を形成しているようだった。


「一体どうなって……!?」


俺がただただ驚いているとそのうごめく鉄棒はいつの間にかリョウと同じくらいの年格好の女の子の姿になっていた。そしてリョウが歓喜の声を上げる。


「キク……!」


キクと呼ばれた女の子は赤いパーカー姿で茶色い肩まで伸びた髪の毛を指でくるくると巻いている。なんだか少し不機嫌な様子である。


「リョウ、アンタときたら他の人を使うだなんてずるいわよ!」


キクはそう言うと腕を組み、リョウを睨みつける。その様子を見てリョウはオロオロしている。


「だ、だってー!キクが全然見つからないんだもん!」


「うるさいわね!自分の力で何とかしてみなさいよ!グズなんだから!」


「えー!そんな言い方酷いよー!」


「あのー、ちょっと……。」


2人の話に割って入ろうとするが2人はこちらへ見向きもしない。言い合いが止まらず完璧に2人の世界になってしまっている。

うーん、どうしよう。子供って集中すると周り見えないからなぁ……。仕方ないか……。

俺は少しの間2人の喧嘩が終わるまで横で立ち尽くすしかなかった。

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