第5話 死体遺棄なんて

 想像の範疇を超えたあまりの事態に、オレはただただオロオロするだけだ。しかし、こんな非常事態にも関わらず、みんなにはそれほどの動揺は見えないようだけど。なぜ?


「仕方ないなぁ。おい、君達も穴掘るの手伝えよな」


 イケメン金髪先輩が声を掛ける。


「ウチ、イヤじゃ。ウチのこの腕は球放るためのもんじゃ。穴掘るためのもんじゃないけけぇ」

「じゃあ、君だけでも手伝ってくれよ」

「ど、どうする気ですか?」

「どうするも、こうするも、この死体埋めないと、理事長にバレちゃうじゃないか」

「埋める? マ、マジすか?」


 驚くオレを無視して、先輩たちは御出井先輩の首無し死体を担ぎあげ、ベンチ脇に穴を張り出した。オレも仕方なく穴を掘る。

 これって、死体遺棄だよね? 犯罪だよね? 何ともイヤな汗が流れる。

 こんな事態を招いた当の本人は、いつの間にかユニフォームに着替え、ウォーミングアップを始めている。


 ようやく人間を埋めるくらいの穴が掘れ、そこへ御出井先輩は放り込まれてしまった。南無阿弥陀仏、どうか成仏して下さい。せめてもと、オレは手を合わせる。

 上から土を被せ、小さな小石を墓石替わりに添えたその時、まるで見計らったように金ピカの車がグランドに横付けすると、金色に輝く背広を着たバカでかい男が下りてきた。


「うわっ、やっべぇー、危なかった! 理事長、今日はやけに早いな」


 どうやら御出井学園の理事長らしい。しかし、金色尽くしとは、何て悪趣味な。


「お疲れ様です!」


 みんな整列し、大きな声で理事長を迎える。

 オレは理事長の顔を見て、思わず悲鳴を呑み込んだ。

 目が無い! いや、無いんじゃなく埋もれているんだ。ドス黒く爛れ垂れ下がった顔の肉に隠され、目も鼻も口もどこに有るのか分からない有様だ。しかも、酷い臭いが!

 御出井先輩の臭さを何十倍にもした様なその悪臭に、思わず顔を顰めてしまう。

 その化け物じみた風体の理事長が、オレの前で立ち止まった。オレは悪臭で鼻がもげそうだったが、まさか目の前で鼻をつまむわけにはいかない。


「おみーが鬼東の倅か?」

「え、あ、は、はい。き、木藤雷児です。オエッ、よろしくお願いしますっ!」

「おみーの親父は、本当におっとろしー鬼だったぜ。ま、おみーにも、期待してっからな」

「あ、ありがとう、ウプ、ございます!」


 酷い悪臭。ヤバイ、吐きそう。けれど俺は必死に吐き気を我慢しながら、なんとか挨拶した。


「ふん、こっちはメスオニか。鬼南炎介の娘だに?」


 あれ、今、理事長、何て言った? キナミエンスケ? 聞いた事あるような?


「ほうじゃ。じゃが、おっちゃんぶち臭いのーぉ! たまらん、こらえられんわぁー」


 コウカは思いっきり顔を顰めると、理事長に背を向ける。

 そんなコウカの失言にも理事長は怒る事なく、満足そうに頷いた。


「ヒッヒ、口と度胸だけじゃなく、その肩にも期待してっからにー」

「言われんでも、やっちゃるけぇ、安心せぇや」


 鼻を摘みつつ理事長を見上げるコウカは、少しも怯む事なく、むしろ偉そうにふんぞり返っている。心配したオレが馬鹿みたいだった。


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