第4話 キャプテン殺し?


「遅せーぞ、新入生! ちんたら歩いてんじゃねーよ!」

「すいません!」


 真っ先に声を上げたのは、酷く人相の悪い先輩だった。

 いや、人相が悪いなんてレベルではない。顔色は酷く黒ずみ肉は弛み、薄汚く澱んだような目は、死んだ魚みたいだ。思わず目を逸らしたくなる面相。

 おまけに、体中から嫌な臭いまでする。


「あー? 何、おめーら、仲良くお手々繋いでるんだ? 部活、ナメてるんか、あー?」

「す、すいませんっ!」


 オレは慌てて手を振りほどいた。

 コウカはというと、不貞腐れた様な顔でその先輩を睨みつけ謝ろうともしない。その態度にはさっきまでの可愛らしさは微塵もない。


「何だーぁ、その顔は? テメー、新しく入部するっていう鬼のメスガキだな? 俺を誰だと思ってるんだ、こらぁ?」

「ぶちたいぎーな、パープーじゃろう?」

「パープー? テ、テメーー! 何言ってんだ、あー? 先輩の前では、帽子とれやっ!」


 先輩が帽子をはぎ取ると、コウカの真っ赤な髪が風に揺れた。何より驚いたのは、帽子に付いていると思っていた角は、頭に直接付けてあった事だ。なかなか手がこんでる。


「偉そーな角、生やしやがって。テメーなんかにゃ、勿体ねーんだよ! 俺が引っこ抜いてブタにでもくれてやる!」


 そう言うと先輩はコウカの角を両手でむんずと掴んだ。角を掴んだまま、コウカの頭を右に左へとブンブンと揺さぶる。


「いいかー、良ぉ―く聞け! 俺の言う事は絶対だ。なにせ俺はこの学校の理事長の息子にして、このチームのキャプテン。知らねーとは言わせねーぜ? 俺の名は汚泥尿三おでいにょうぞう、汚泥財閥の跡取りの一人だ。この俺の言う事に逆らうやつは、あ、い、い痛ててててて」


 先輩の言葉が終わるを待たず、コウカはその腕をねじ上げた。目の錯覚なのか、コウカの腕は炎に包まれているみたいに真っ赤になっている。


「鬼の角に、よぉも手ぇかけてくれたのぉ!」

「テ、テメー、舐めたマネしやがって、クソ鬼がっ!」

「わりゃ、これ以上ウチを侮辱すっとぉ、ぶちくらわすでぇー!」

「はぁーん? 俺をどーするって? 出来るの? 俺に逆らうなんて、出来るの? 学校、辞めてーの? 生きていたくねぇーの? ヒヒヒ…」


 一瞬の事だった。

 炎に包まれたコウカの腕が、ブンッと振るわれたと思いきや、御出井ニョウゾウ?先輩の頭が跡形もなく消え失せてしまった。

 頭のあった場所から黒い煙をあげつつ、あるべき物を失った体は、バタリと地面に倒れてしまう。


「うひゃーーー!」

「うわーーっ、キャ、キャプテン!」


 オレが悲鳴を上げるのと同時に、背の高い金髪イケメンの先輩が叫んだ。


「ねっ、ねっ、大丈夫ですよね? キャプテン? キャプテンってばーっ?」

「あれ、復活しないやん。これ、ヤバいんとちゃう?」


 言葉とは裏腹、楽しそうにヘラヘラ笑いながら、別の先輩が倒れている体を覗き込む。


「当たり前じゃ。ウチの炎の剛腕はバケモノ封じ、言われちょるけぇのぉ」

「ダメだよ、君っ! こんな事して、理事長に殺されちゃうよ!」

「鬼が誇り傷つけられて、黙っとれるわけないじゃろぉーが、あぁ?」


 オレは倒れている先輩を恐々と覗き見てみる。どう見ても、頭の無い死体だ。

 これ、普通に死んでるよね?

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