第3話勝手に入ってきちゃダメでしょ!!。

「おじいちゃんおばあちゃん⁉、何入ってきてるの⁉。」


 発芽が持っているお盆に乗った湯呑がカタカタ音を立てて震えだす。


 どうしようどうしよう。


 発芽はお盆に乗ったお茶をテーブル置きながら頭をフル回転させる。


「そ、そうだ!、下の片付けはおわったの?。」


 まだこの時間ならまだ終わっていないはず....!。


 心の中で「やっと誤解がとける!」そう思いながらガッツポーズ。


 したのも束の間、


「おわったよ?それより二人とももう遅いから泊まっていきなさいよ~。」


 おばあちゃんがそういうと、陽奈太さんがイチルさんに耳打ちをする。


「おいイチル、あしたは早いから泊まれない.......。」

「よろこんで、泊まらせていただきます!!。」


 ........わお。


 発芽と陽奈太は同じことを思った。


 コンコンと客間に包丁とまな板がぶつかり合う音がする。


 おじいちゃんと陽奈太が話している中、発芽が冷や汗を垂らしながお茶すするっていると、イチルが突然バっと立ち上がり、


「陽奈太さん、わたしおばあさんのお手伝いをしてくるね!。」


「わかった、ケガとおばあさんに迷惑はかけるなよ~。」


 お茶を飲みながらイチルに手のひらをフリフリする。


 イチルが行った後に陽奈太はあることを思い出してお茶を吐き出し、むせかえる。


 慌てて陽奈太にティッシュとハンカチを差し出すと陽奈太は無言で土下座した。


「スミマセン、料理してしまったイチルを止めることが出来ません、物理的に。」


「え?、イチルさんの料理なんて食べれるだけありがたいよね、ね、おじいちゃん?。」


「そうじゃ、そうじゃ、多少味が独特でも食わず嫌いはせん、大丈夫じゃ。」


 そう言ってなだめる発芽とおじいちゃん。


 だが陽奈太は土下座しながら涙が止まらないのであった。


 そしてようやく落ち着いてきたらおばあちゃんが料理を運んできた。


 すると発芽がこっそり陽奈太さんに耳打ちをする。


「なんだ美味しそうじゃないですか....ん?。」


 そこで気づいた、料理に炭混じってない?。


「あれはイチルの言う卵焼きとかいう名の発ガン性物質だ。」


 発ガン性物質!?、ナニソレ怖い!!。


 流石にいつも呑気に笑ってるおじいちゃんも「ハハッ....。」とか言ってさっきから苦笑しかしてないよ!?。


「俺はあれで一度死にかけた、あれは爆弾を食べるよりもヤバい食べ物だ、いや、食べ物とは言えない代物だ。」


 じきに料理が並びきっておばあちゃんとイチルさんが食卓に座り、手を合わせていただきますを言う。


 箸を持つとイチルさんの「私の料理を食べて?。」て言う視線が強い、てか眼光怖い。


 同時に陽奈太さんに視線を送ると「大変申し訳ない....。」と言わんばかりの視線で返してくる。


 あーこれ、俺死ぬしかないんかな?。


 そう思いながら炭を手にしようとすると。


「んー何から食べようかな、これが美味しそうだいただきまーす(棒)。」


 おじいちゃんが棒読みで発芽より先に炭を口にする。


 一瞬固まったおじいちゃん。


 その後おじいちゃんが炭になってチリになって消えそうになったので俺と陽奈太さんが全力で吐き出させた。


「....ごめんなさい。」


「すみません、俺が早くに止めておけば....。」


 なんとか吐き出して戻ったおじいちゃんとおばあちゃんの目の前で謝るイチルさんと陽奈太さん。


「大丈夫じゃよ、こうして無事だったし。」


「そうよそうよお勉強すれば必ず上手くなるわよ。」


 それを慰めるおじいちゃんおばあちゃん。


 不倫してきた夫婦が謝っているかのような構図が生まれてしまっていた。


 料理を無事食べ終わると、イチルさんが急におじいちゃんとおばあちゃんに向かって。


「大事なお話があります、私、発芽くんとお付き合いさせてもらっています。」


 え!?、このタイミングで言う!?。


「あ、え、。」


「まあ!!、なんで発芽言ってくれないの!。」


「陽奈太くんが彼氏じゃないのか!?。」


 先ほどの暗い空気が一気に吹き飛んだ。


 俺が説明する前におばあちゃんとおじいちゃんが盛り上がってしまう。


「きゃー!きゃー!。」


 その中にイチルさんもなんか混じってる。


 結局一からイチルさんの陽奈太さん、俺の関係と経緯を陽奈太さんが二人に説明してくれた。


「ほえぇ、発芽は玉の輿にのったねぇ。」


 おばあちゃんがそんなことを言ってくる、てか本人の目の前で言うことじゃないし、玉の輿にすがるつもりなんて一ミリもない。


「そういえば、どこに住んでいるのかね?、イチルさんや。」


「東京に住んでいます!。」


 イチルさんは名指しされて背中をピンと伸ばして反射で答えた。


「あれ?、発芽は東京の方の高校に行きたいとか言っていなかったかい?。」


「ああ、まあね。」


 そんなこと言ったらイチルさんがなんかいいかねないでしょ!!。


 そう思っているとイチルさんが目を光らせて。


「じゃあ私の家の一室が空いているのでウチに来ませんか?。」


 言わんこっちゃない。


 発芽が頭に手を当てて「アチャー.....。」みたいなのを表情になる。


 イチルがそう言うとおばあちゃんがちょっと引いて言った。


「でも付き合って間もない男と女を二人きりで一緒に住まわすのはいかがなものかと....。」


「じゃ、じゃあ受験まで半年間ありますし、受かっていてかつ、その時までおつき合いさせていただいていれば、一緒に住まわせていただけないでしょうか?。」


 笑顔ばっかりのイチルが普段しない真面目な顔でおばあちゃんを説得する。


 少し客間が静寂に包まれた後、おばあちゃんが口を開く。


「....わかりました!、その条件で呑みましょう、発芽の両親には私から伝えておきます。」


 おばあちゃんがそう言うとイチルさんの顔がパァーと明るくなり、


「ありがとうございます!!。」


 そう言って喜んでいるが、この話のなかで俺の意見が全く入っていないことをご了承いただきたい。


 結局陽奈太さんとイチルさんはウチヘ止まることが決定して二人は先にお風呂に入って今は俺が入っている。


 ああ〜決意が薄れてきちゃったなぁ。


 お風呂に入りながら唸り声を上げる発芽。


 もうどうしよ。


 取り敢えず、俺の告白は間違えて言ってしまったことだけは伝えないといけないよな。


 でもあんなに喜んでいるイチルさんを悲しませたくないなぁ。


 お風呂の中で頭を抱えて唸り声を出してしまう。


 結局答えが纏まらず、お風呂から出てしまった。


 すると陽奈太さんが洗面台で歯を磨いているでわないか。


「おお、発芽君。」


 歯磨きをしながらなので微妙に聞き取りづらい。


「陽奈太さん....あのーひとつだけ聞いていいですか?。」


「グチャグチャ....ぺッ!!、ん?、なんでも聞いていいよ。」


 口を濯いだ後、口元を紙タオルで拭く陽奈太さん。


 タオルで体を拭き終わって服を着ていた発芽はこんなことを聞いた。


「イチルさんは何で俺を選んだんでしょうか?、多分求婚とかもっと俺よりいい人が山ほどあるはずなのに....。」


「ああ、そのことね、ゴメン、これだけは本人に聞いてくれ。」


 え?、さっき何でも聞いていいって言ったやん。


 そう思う発芽だが確かにそうだ。


 本人に聞かないのは本人に失礼だし、それ以上に自分自身がセコすぎる。


「まあ一つだけ言えることは、俺はイチルのことが大事だ、アイツの夢を全部叶えてやりたい、だから俺は出来るだけアイツの夢に繋がる道を割いてやりたいんだ。」


 そう言って陽奈太さんは眼鏡をかけておやすみと挨拶をして布団を敷いている客室に行ってしまった。


 もちろん客室は二つあって別々に布団を敷いている。


 ヤバイならない。


 今日だけでいろいろなことがありすぎて寝れないよう。


 布団にうずくまっても一向に目がギンギンになって眠れない。


 寝ることを諦めて布団から出てキッチンに向かう。


 目的は何か暖かい飲み物を飲んで寝ようと思ったからだ。


 階段を降りてキッチンに向かうと明かりがついている。


 あれ、おばあちゃんかな?。


 そう思いながら光が漏れ出すドアを開ける。


 するとイチルさんがアワアワしていた。


「どうしたんですか、イチルさん。」


「あのねあのね?、今日のことが嬉しくて寝れないから何か飲もうかなって思ったけど、どこにあるか分からなくて。」


 あはははといった顔で目を逸らすイチル。


「俺も同じなんで、何飲みます?。」


 イチルはコーヒーを頼んで発芽はココアとコーヒーを作る。


「今日は確か晴れてますよね?。」


「うん、それがどうかしたの?。」


「はい、ここってよく星が見えるんですよ。」


 そう言ってリビングの窓を開けてテラスに出る。


「わあぁ、すごいね発芽君!!。」


「喜んでもらえて何よりです。」


 そこには満点の星空が広がっていた、今は10月の頭なので夏の大三角形はかなり傾いてきている。


 だが少し肌寒いのでイチルさんは二の腕をさすって体を震わせる。


「ちょっと寒いね、上着とってくるね。」


「僕のを貸しますよ。」


 そう言って発芽は自分の着てるパーカーを脱いでイチルさんに羽織らせる。


「ありがと....。」


 顔がポッと赤くなる。


「あの、あ

「ねえ、あ


「先にどうぞ。」


「そちらこそ。」


 しばらくの沈黙のあと、二人とも同時に口を開くがすぐに二人とも譲り合う。


 結局発芽が勝ってイチルに譲る。


「あのさ.....発芽君が言ってた師匠さんってどんな人だったの?。」


「そのことですか、別に面白い話でもないですよ?。」


「それでもいいの、あなたのことが何でも聞きたいの。」


「....ふふ、負けました、俺って前に一度不登校になったことがあったんです、一ヶ月ぐらいですかね、でも一週間経った頃、俺の母親がみかねたのか山奥にある格闘術の教室に応募したから行きなさいと言って家を追い出したんです。」


「それで?。」


 イチルが話に食いつく。


「それで書かれたメモを頼りに電車とバスと徒歩で丸一日、着いたところは山の中にある木造の一軒家が一つ建ってました。」


「そこでインターフォンを押したら20代後半の女の人が出てきたんですよ。と思ったら急に殴ってききて。」


「理由は遅いとか言って、家にあがるあがらない以前に首根っこ捕まえて家に無理やり引きこまれて。」


「出された服に着替えたら次は外に追い出されて、何事かとおもったらまた持ってぶっ叩いて、夜中から日が昇るまでずっと山の中を走らされて。」


「そんなハードスケジュールを三週間続けたある日急に具合が悪くなったと思ったら急死してしまったんです。」


 そんなことが。


「........。」


 流石のイチルも下を向いてしまう。


「そんな顔をしないでくださいよ、イチルさんに暗い顔をされたらきっと師匠は怒りますよ。」


「....どうして?。」


「師匠はイチルさんの大ファンなんです。」


「ええ!?、ほんとに?。」


「ほんとですよ?、俺がイチルさんを知ったきっかけは師匠なんですよ。」


「そっかぁ、師匠さんには感謝しか無いね。」


「はい、今度報告しにお墓参りに行こうと思います。」


「その時は是非私も連れて行ってね。」


「はい....必ず、そろそろ寝ましょうか。」


「そうだね、おやすみ発芽君。」


 そう言ってイチルさんは部屋に戻ろうとした時に発芽は思い出して引き留める。


「あ、聞きたいことがあるんです。」


「どうしたの?。」


「どうして、俺を選んだんですか?。」


「んー、それはひ み つ!。」


「え?!、どうしてですか?。」


「それは心の準備ができてないから!。」


 するとくるんと振り返って先に中に入ってしまった。


 結局何も言えずじまいだったな。


 翌日。


 目覚ましが鳴り、一回目のコールで目覚ましの頭を押す。


 ドアを開けると下にメモが落ちている、拾うと電話番号と何か書いてある。


(次は必ずデート!!。)


 ふふ、可愛いな。


 そう言って発芽は微笑んだ。

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