第2話イチルは俺たちのもの。
「なぁにぃ?、照れてるのかなぁ。」
と言ってイチルさんが俺のことをいじってくる。
だが、実際かなり顔に出るくらい動揺していたので否定もできない。
「そ、そんなことはいいですから!、早く行きましょ!、これから急な階段があるんですから。」
「ええ!、私階段苦手なんだよぉ〜。」
階段苦手ってなに!?。
結果イチルは階段を登りきったのだが、それはもうヤバイくらいの息切れをしていた。
「....あの、大丈夫ですか?。」
「ゼハァ....ゼハァ....、大丈夫!行きましょう!!。」
そう言ってイチルは軽く深呼吸をして大本堂に向かって一直線に走って行ってしまった。
それを発芽が追いかけると大本堂を入ったところでまたゼハゼハ言っている。
「こんなところにも階段があったなんて....。」
そうなのだ、大本堂の正面にはちょっと広めな階段があるのだ、てか、イチルさんわからなかったの?。
またイチルさんが深呼吸をしたのち、お参りをして大本堂を一周するとお店におみくじが置いてある。
「イチルさん、おみくじ引きません?。」
「おっ!いいねーよし引いちゃおっか!。」
そう言ってお守りとかがあるところに丁度あったので引くことにした。
ここのおみくじは100本くらいの棒が入った筒から一本出してその棒に書いてある番号の引き出しから紙を出すシステムだ。
「よおぉし!。」
イチルさんがうりゃうりゃ言いながら筒を回しそのあと縦に振る、すると小さい穴から一本の棒が出てきた。
その番号を見て引き出しから紙を取り出した。
「どうでしたか?、僕は吉でした。」
「....。」
発芽が自分の結果を言いながら近づくとイチルさんは気まずい顔をしていた。
のぞいてみるとそこには凶と書かれていた。
内容は10割悪いことが書かれているわけではないがでもここで凶を出す人は初めて見たな。
「今日は紙を結んできてはどうでしょうか?、それに今が凶なら次は必ずこれよりいい運になるんですよ!、さ、むすびましょ?。」
イチルさんは目を潤ませながら、コクッと頷き少し遠くの結ぶところへ走っていく。
それを見てるのはなんかいい気持ちがしないので、発芽はケータイを取り出しSNSのトゥイッターを開く。
すると、トレンドに天超イチル成田山と書いてあるではないか!。
やば!、なんでバレた?、そんなことよりここから離れないと。
発芽は名刺を取り出し陽奈太さんの電話番号を打ち込み電話をかける。
「........もしもし?。」
「すみません!、発芽です、今イチルさんの居場所がバレました、陽奈太さんは裏駐車場の入り口に車を止めておいていただけませんか?。」
「そこだと2分くらいだから丁度着くと思う!、発芽くん助かるよ!。」
「それじゃあまた後で。」
発芽は通話を切ってイチルさんを追いかける。
すると丁度イチルさんが結び終わった頃、後ろから近付こうとする男の人影が1人。
まずい!。
発芽はイチルさんを触ろうとした男の足のかかとを踏み襟首をつかんでチョイと後ろに引っ張り倒す。
そして発芽はイチルの手を掴んで裏門に向かって走り出す。
「ちょっちょっ発芽くん!?どうしたのいきなり!。」
「イチルさんの今いる場所が特定されました今は裏門で陽奈太さんが待ってくれてます。」
発芽が説明をし終えるとイチルは視線を落として暗い顔をする。
「ごめんね、私のせいで....。」
「俺、イチルさんが悪いなんて少しも思ってないし、プラマイを考えたら圧倒的にプラスなんで気にしないでください。」
「発芽くん....。」
きゃーいい雰囲気!。
そう思っていると、ピンク色の法被を着てハチマキをした集団が追いかけてくるではないか。
「うぉっ、なんだあれ!。」
追いつかれてしまった。
発芽はイチルさんの耳にちょこっと話しかける。
「イチルさん、先に裏駐車場に行っててください。」
「じゃあ発芽くんが!。」
「大丈夫ですって、必ず向かいますんで信じてください。」
「....絶対に、約束だよ。」
すると発芽が手を離して法被集団のほうへ振り返った。
イチルは振り返らずにそのままお店の間を入って道路のほうへ走っていった。
「お前たち、あの人に何の用だ。」
「俺たちは天超イチル親衛隊!、イチルちゃんは俺たちのものだ!。」
そう言って、親衛隊はすごいはしゃいでる。
「なにが親衛隊だよ、さっきからしてんのまるでストーカーじゃねーか!。」
発芽が強く言うと親衛隊の1人が言ってきた。
「俺たちはストーカーじゃない、ずっと近くで守っているんだ。」
その割には1人襲おうとしてる人がいた気がしたんだが。
「そう言うことだからさっさとどけぇ!。」
1人が殴りかかろうとしてきた。
発芽はまたの合図をしてこう言った。
「あの人がそのイチルちゃんじゃなかったら?。」
「なにぃ!?。」
殴ろうとしていた奴が一歩二歩下がる。
ま、もちろん嘘なんだけどね(笑)、今となっては顔も見えないから真偽はわからないだろう。
「それにあんたたちは近くで見守ってるって言ってたけど、他の人たちからしたらどう見られてると思う?。」
そう、ただのアイドルオタクにしか見えない、発芽はそれを逆手にとってここら辺一帯の空気を操作したのだ。
最後にもう一手。
「すみません、親衛隊の皆さん!、ストーカーと勘違いして警察呼んじゃいました。」
発芽がそう言うと、親衛隊は後ろを振り向く。
すると警察官の方が2人ジッと見ている。
「....成田山新勝寺で通報があった不審者と思われる集団を見つけた、身柄を抑える。」
警察官がトランシーバーを口に近づけて言っていた。
小声なのに耳を澄ましすぎて大声で話しているみたいだった。
警察官が近付こうとすると、親衛隊の何人かが俺に向かって殴りかかろうとしてきた。
「クソが!お前のせいで近くで守らないじゃないか!。」
「あんたらに一つ似合った言葉を教えてやるよ....。」
発芽がボソッと呟く。
右腕で殴ってきた腕を発芽はさっと掴みその勢いを利用して背負い、言った。
「ありがた迷惑だ!!。」
ドン!。
背中を打ち付ける音が成田山内に響く。
新たに2人が襲ってくる。
1人は走って来るだけで明確な攻撃方法がないらしく、発芽はしゃがんで姿勢を低くして足を伸ばして足を引っ掛け、転ばせる。
もう1人はタックルをしようとして肩を前に突き出しこっちに向かってくる。
発芽は少し避けて服を掴みU字にくるっと回しこっちに向かってくる集団に戻してやる。
すると止まらないのかそのままボーリングみたいに集団に入ってってピンみたいに弾けたように揃って体制を崩す。
よし決まった!。
後ろに振り返りイチルが走ってった道を発芽が追う。
店の間を通って道に出る。
坂道を下ると、見覚えのあるボックスカーが目の前にあった。
「発芽くん早く!。」
そこには後部席のドアを開けて待っているイチルさんがいた。
あと少しで下りきるというところで前から車が来る。
丁度後ろからも親衛隊が出てくる。
ここで車を待っていたら追いつかれるかもしれない、だったらっ!
発芽は走りながら道の端に設置されているガードレールを踏み台にして飛び、車を飛び越える。
そして着地の時にローリングして極力スピードを落とさずに態勢を立て直し、走る。
無事車に着くと飛び込むようにして入り、イチルがドアを閉め車が急発進する。
少し離れると3人とも安堵の息を漏らす。
「はぁ〜助かった〜。」
発芽がなにかが切れたかのようにベチャる。
「いやー、危なかったですなぁ、でも2人とも無事だし、安心安心!。」
イチルがそういうと陽奈太が顔を真っ赤にしてツッコンできた。
「なにが、安心安心!だ!、お前がちゃんと変装メイクしなかったからこんなことになったんだろ!発芽くんがいなかったら今頃どうなっていたのやら。」
真っ赤になっていた顔がその後のことを考えて青ざめていく。
その話をイチルは軽くあしらい話題転換をする。
「そういえば、さっきのあの格闘はなんだったの!私知りたい!。」
目をキラキラさせて言ってくる。
「その話、俺も聞きたいな。」
その話に陽奈太も入ってくる。
仕方ない、別に隠すことでもないし。
「あれは....なんというか、元はCQCだったんですけど自分でアレンジしていくうちになんか変な格闘術になっちゃって。」
「へぇー、だれかに習ってたの?。」
イチルが質問すると発芽の顔が少し明るくなった。
「はい、僕には師匠がいたんですけど習っている途中で死んでしまって、その後も修行とかを自分なりにやったんです。」
すると陽奈太さんが呟く。
「....その結果がさっき言っていた変な格闘術てことか。」
「そういうことです。」
「でも助かったよ発芽くん、今頃君がいなかったら大変なことになってたよ。」
陽奈太がホッとした感じでいうと発芽は少しアワアワした感じで言った。
「いえいえ!、こんなことになったのは僕のせいですし、逆に本当にすみませんでした。」
「気にしないでイイヨ!。」
「そこはお前が言っちゃいけないだろ、てか、反省しろ。」
陽奈太さんの冷静なツッコミ。
「....スミマセン。」
「ほらもうすぐ着くぞー。」
陽奈太さんがそう言ったので俺は窓を覗く。
すると家が見えてきた。
あの前まで来るとドアを開けて俺とイチルさんが車から出る。
「そこの駐車場に停めてください、今はだれも停めませんから。」
発芽がそういうと陽奈太は「了解。」と言ってすごい手際で車を止めた。
陽奈太さんが車から降りてくるとイチルさんが聞いてきた。
「発芽くんのお家ってお店屋さんだったんだ、なんのお店?。」
「佃煮屋です、と言ってもこのお店はおばあちゃんとおじいちゃんのお店なんですけどね、どうぞ入ってください。」
3階建てで一階が佃煮屋で二階と三階が普通の家になっている、それに最近建て替えたばっかなのでかなり新しい。
「ただいまおばあちゃん。」
「「お邪魔します。」」
先に発芽が入ってそのあとに2人が続く。
3人で廊下を歩いている時イチルが陽奈太に耳元で小さく言う。
「陽奈太さん陽奈太さん、お話どうでしたか?。」
「多少問題はあるが大差ない、なんだってお前がこと仕事をするきっかけになった目標の一つだったんだからな、だが多分発芽くんが負担をかけてしまうのが一番の悩みどころだ。」
「あの人は私が守る、あの時私に希望を与えてくれたように。」
「どうかしました?。」
「いいえ、なんでも!。」
「そうですか、ここが客間です少し待っててください、今おばあちゃんとおじいちゃんが店を閉めてる途中なんで。」
そう言って発芽は部屋を出て、キッチンへ向かう、お茶を出すためだ。
発芽はお湯を沸かしているといろんなことふと考える。
そういえば今ウチにあの天超イチルが来てるのか?。
そう考えるとすごい緊張し始める。
壁に吊るされた時計を見ると5時を過ぎたあたり、そろそろ店を締め切るころだ。
早くイチルさんに間違えたことを話さなと取り返しのつかないことになるからな。
お茶を淹れて客間に戻ってくると、すでにおばあちゃんとおじいちゃんが客間に来てイチルさんたちと話してるではないか。
「やだねぇアンタ、こんなにべっぴんさんな彼女を連れてきて、早死にでもさせる気かい?。」
「この人、見た目が派手な割に佃煮のことよくしってるじゃないか!、気に入った!。」
おばあちゃんがイチルさんを、おじいちゃんが陽奈太さんを褒めちぎっている。
発芽はお茶をテーブルに置くと手を目に当てて上を見上げてこう思った。
もう、取り返しがつかねぇ!。
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