理想の声優彼氏になるために
バリウム
第1話一応はいいと思います。
とある秋葉原のビル、ここでは今すごい人気を集めている声優、天超イチルさんのサイン会が行われていた。
俺、一丸発芽は抽選の百人の中に選ばれたのだ。
ビルの中に入り受付の人に当選メールを見せる、すると受付の人は名簿表みたいなものと十秒くらいにらめっこをした後、発芽の名前を蛍光ペンで塗りつぶす。
「はい!、ありがとうございます、あちらの部屋に列がございますのでそこにお並びください。」
そう言って説明の紙を発芽に渡して部屋の方を指す受付さん。
軽く会釈した俺はそれに従って部屋に向かうとにすでにかなりの人が並んでいた。
ざっと数えて80人後半くらいまでいる、当選した人が100人だとするといけない人を考慮するとたぶん俺が最後かもな。
「よし!。」
発芽は頬を力強くたたき、ポケットからメモ帳を取り出す。
メモ帳の中身はイチルさんになんて言うか書いてある。
でも、こんなことを言ってたところで俺の自己満足にしかならないことはわかっている。
だが人生を変えてくれた恩人をもう一度生であってお礼を言いたいんだ。
「次の人どうぞ。」
この一言でわかる、イチルさんの声だ。
結局後ろには誰も並ばなかった、と言うことは俺が最後なわけだ。
なんか緊張してくるなぁ。
軽く深呼吸をして小さく「はい。」と言ってドアノブを回し中に入る。
すると目の前にはイチルさんの、ガードマンらしき人が2人いた。
怖すぎな 怖怖すぎな 怖すぎな。
発芽、心の俳句。
そんなこと言ってる暇ないよ!!。
てかガードマンさんストップウォッチ押しちゃってるよ!。
確か説明の紙に部屋に入ったところから30秒だったよな、短すぎな。
もうすでに5秒が経過している。
そう思いながら急いでメモ帳を取り出そうとするがポケットのふちに引っかかってなかなか出てこない。
勢いよく取り出すとまさかの手が震えてなかなか開いてくれない。
やっとひらけたと思ったら手からスルッと落ちてしまい急いで拾う。
やっと言える。
胸に手を当てて深呼吸をして言おうとした瞬間である。
カチッ。
なんの音だ?。
「時間です、退出してください。」
ガードマンさんの声!、じゃあさっきの音はストップウォッチの音か。
ガードマンさん無慈悲すぎる!。
俺の体を引きずってでも部屋の外に出そうとする2人のガードマンさん。
イチルさんに一言だけでも言わなきゃ!。
その時、発芽は頭と目がすごい勢いで回っていた、いや、気が動転していると言うのが正しいのだろうか。
「イチルさん!、僕は....えとえと、僕と付き合ってください!!。」
渾身の一言、時間が静止したかのようだ。
は、俺今何を言った?、あれ?、僕と付き合ってくださいとか言わなかったか?。
「あの〜、イチルさん今のは。」
恐る恐る聞いてみる。
「ひゃい、おねがいしひまふ。」
顔を手で隠し、表情が一切見えないように言った。
だが、顔が隠せても耳が真っ赤っかである。
イチルは顔をゴシゴシして真剣な顔になって、机の下からポーチを取り出しケータイでカメラアプリを起動して発芽のことを撮る。
「あ、あのぉ....。」
発芽はさっきの言葉を訂正しようとしたがその前にイチルが口を開く。
「じゃあ、12時半にゲーマーズの前に待っててください!。」
「はいっ!。」
イチルさんが元気に言ってきたのでつい反射的に返事をしてしまった。
そのあと、誤解を解こうとしたがガードマンさんに無理矢理追い出された、めっちゃ怖い。
仕方なくゲーマーズの前で待つか、たか今何時だ?。
ケータイを開き、スタート画面で時間を見る。
今は丁度12時前だ、少し待つか。
少しケータイをいじっていると、後ろから肩をトントンされる。
後ろを振り向くと一瞬誰だ?と思ったがイチルさんだ。
「こんにちはイチルです、ちょっと付いてきてください。」
イチルは静かに言って発芽の手を掴み裏手へ回り込む。
すると、銀色のワンボックスカーが一台裏手に止まっていた。
イチルは後部座席の方のスライド式のドアを開けて、体で安全を確かめるように先に乗る。
そして発芽に向けて手を伸ばす。
「さあ、乗って!。」
発芽はその手を掴むと引きずりこまれるように乗り込む。
反射的にドアを閉めると車のエンジンが起動して発進する。
しばらくすると車を運転している金髪のお兄さんが言ってきた。
「うちのバカが済まないね、君を家まで送ろう、家は何処だ?。」
うちのバカって消去法でいくと....
そう思いながらイチルさんを見るとプリプリしていた、かわいいなぁ。
発芽はハッと我に返って自分の住んでいるところを言う。
「成田に住んでいます、あのあなたは....。」
「ああ、済まないね。あれ?、おいイチルお前この子に俺の名刺渡しとけって言ったよな?。」
そう言うとイチルさんは目を泳がしながらポケットに手を突っ込み、グッシャグシャの名刺を俺に渡してくる。
「なんも読めない....。」
名刺を手で伸ばすと名前がちゃんと見えるようになった。
「えっと、福道 陽奈太(ふくみちひなた)さん?。」
「そう、俺が福道陽奈太だ、呼びやすい方で読んでもらっていい、ちなみにイチルのマネージャーをしている。」
そういえば俺も自己紹介してないわ!
「あ!、自分一丸発芽って言います!中3です!。」
「へぇ発芽くんか、珍しい名前だな、成田だったよね?。」
発芽は、はいっ!と返事をする。
するとイチルが横から出てきた。
「はいはーい!、私成田山にいきたーい!、お参りしたーい!、ご飯食べてないからうなぎ食べたーい!!。」
「お前、うなぎの方が本命だろ。」
陽奈太さんの冷静なツッコミ。
「ええー、だって陽奈太さんも食べたいでしょ、うなぎ?。」
「済まんが、俺は上の人に連絡しないといけないからいけない。」
「なんで?、仕事終わったしなんか連絡することあったっけ?。」
「おい、お前が安易にOKしちゃったからいろいろ大変なんだよ、発芽くんも覚悟しといてね〜。」
え!?、何を覚悟するの!?。
するとイチルがさっきとは全然違う真面目な顔で誰にも聞こえない程度でボソッと言った。
「でも、やっと見つけたんだ、もう手放さない。」
「イチルさん、何か言いました?。」
発芽がイチルの顔をのぞいてい言った。
「ん?、いや何も言ってないよ?、さあ、もうすぐ成田だよ!、発芽くんも一緒に食べてくれるよな?。」
え!?、俺も行くの!?。
「済まんな、発芽くんうちのバカを見ていてくれないか?、目を離したらいつのまにか消えてるヤツなんだ、イチルの用が終わったらその名刺に書いてある電話番号に電話してくれ、頼む。」
陽奈太さんの顔が運転中で前を向いているので見えないが多分呆れた顔してるよな、あれ。
「あー、はいわかりました。」
「え!?発芽くん順応するの早すぎ!。」
ちょっとすると成田駅前に着く。
「今日は、人が多いからここから歩いてくれ。」
「はいはーい!。」
するとイチルさんがアキバの時に変装道具として付けていたメガネと帽子を外したまま車のドアを開けようとする。
「ちょちょーー!。」
発芽が語彙力を無くしながら開けかけているドアを閉める。
「えー?、どしたのそんなに慌てて。」
「イチルさん!、変装してないです!。」
「あーそうだった♪。」
イチルさんがテヘペロみたいな感じでメガネと帽子をかぶる。
あー、陽奈太さんがイチルさんを見てて欲しいて言ったことが今わかった気がする。
「さあ、行こう、発芽くん!。」
「は、はい!。」
俺が出て行くときに陽奈太さんが窓を開けて言ってきた。
「発芽くん、絶対にイチルから目を離すなよ?。」
「はい、じゃあ終わったら連絡します。」
「頼むぜ、イチル!、発芽くんに迷惑かけるなよ!。」
「やだなぁ(笑)私が迷惑かけるわけないじゃない(笑)。」
すると陽奈太さんは車をかっ飛ばして行ってしまった。
「じゃあ行きましょう、イチルさん。」
「そうだね!、離れないように手をつなごう!。」
そう言ってイチルは発芽の手を掴む。
「え!?。」
俺の表情を見ずに引っ張って行く。
なんかすげードキドキする。
そんなことを思いながら少し歩くと。
「はあ、いい匂い!。」
時間帯は2時を過ぎたあたりだったので丁度空いてきた時間であった。
「ここですよ、入りましょう。」
「よーし、入ろう!。」
イチルは発芽の手をグイグイ引いて行く。
店員さんに奥の席に案内されて座るとメニューを見る。
「えー、何食べよっかなーて、うなぎ食べにきたんだからうなぎ食べるんだけどね。」
....実は最近ここでうなぎ食べたばっかりなんだよね。
「じゃあ僕は天重にしますね。」
そう言って発芽は店員さんを呼んで注文した後お冷やを一口飲む。
「そういえば、発芽くんは中学三年生だったよね、受験どこ受けるの?。」
「一応、東京の方に行きたいとは考えています。」
「へぇー。」
するとイチルは机に肘をつき手の甲に顎を乗っけた。
「じゃあ将来の夢とかはあるの?。」
「これと言ったものはありません、ですけど、自分が身につけたもの、出来ることが活かせる仕事につければいいんですけど。」
「ええー、じゃあ私のマネージャーになってよ〜。」
「前向きに検討しておきます。」
正直に言うと内心はかなり後ろ向きである。
大好きな声優のパートナーになるのは願ってもいない話なのだが仕事としてイチルさんを見るのとプライベートや遊びでイチルさんを見るのは全く別だと思うのだ。
そんなことを思っていると天重とうな重がきた。
「おおー!待ってましたー!、頂きます!美味しすぎぃー!。」
と言ってイチルさんはうな重を食べている。
俺もいただきますと言って天重を食べ始める。
ここではうな重しか食べてこなかったけど意外に天重もありだな。
そう思いながら天重を食べているとなんかすごい視線が目の前から放たれている。
イチルさんだ、よだれ垂らしてるよこの人。
「わ、私は天重を食べたいなんてこれっぽっちも思っていないんだからね!。」
まだ何も言っていない、それに言動と表情が全く合っていない。
「あの、これ食べたいんですか?、別に良いですよそんな食い意地張るものでもないし。」
するとイチルさんが「ありがとう!」と言いながらおっきい一口で食べた、かなりごっそりと減っている。
「あ、私のうなぎもあげる!、お口開けて。」
そう言ってイチルが一口分を発芽の口に入れる。
あれ?、これって間接キスってやつじゃないか?。
そう思うと急に緊張してきた。
「あ!、鼻血!。」
「あ、ああティッシュティッシュ!。」
その後なんとか下に落ちずに済んだ。
食べ終えて会計を済まし外に出ると2人は成田山の正門に向かって歩き出した。
「そういえば知ってますか?イチルさん、ここの正門をくぐるときに手を繋いだままでくぐると別れるらしいですよ?。」
「え、なんで?。」
「なんでもここの神様はたしか嫉妬の神様らしいんですよ、だからカップルとか友人とかが通るとそれに嫉妬した神様が起こって引き離しちゃうらしいんですよ。」
それを聞いたイチルは正門前で立ち止まって繋ぎっぱなしの手を離し、走って先に正門をくぐった。
発芽もそれを追うようにして正門をくぐる。
「どうしたんですか、そんな急に走り出して、転ぶと危ないですよ?。」
発芽がそう言うとイチルはにっこり笑って言った。
「だって手を繋いだままくぐったら引き離されちゃうんでしょ?、じゃあ手を離さないと発芽くんと引き離されちゃうじゃん!。」
そう言いながら発芽の手を繋ぎ直す。
「それに、くぐるときに手を繋いだら引き離されちゃうからくぐりきったら繋いでも良いんだよね?。」
「....一応はいいと思います。」
発芽は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤っかになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます