第一話 使役の力 <4>


「私の新しいご主人様」


 剣の精霊――剣属の少女は僕にそう言った。

 だが、それはありえない。


 剣属が主人を変えることはないからだ。

 最初の主人と一蓮托生。その主人が死ねば自らも死ぬ。

 主人を変えるなど、ありえないのだ。

 だが、目の前の剣属は、僕を主人だと言う。一体どういうことだ。



 それに、謎はそれだけじゃない。

 彼女は、今さっき僕が殺したのに。なのに今、彼女はなぜか僕の前に生きて立っていた。


 先ほどまであった腹部の傷はなくなり、真っ青だった顔も生気を取り戻している。


「一体、どうやって生き返ったんだ?」


 僕が聞くと、剣属の少女は「多分……」と前置きしてから答える。


「<マスター>スキルなんじゃないでしょうか」


「マスター、スキル?」


 この世には、特別な人間にだけ与えられる固有の能力、スキルが存在する。

 だが、<マスター>スキルなんてものは聞いたことがない。


「なんだ、マスタースキルって」


 僕が聞き返すと、横で聞いていた村長がポツリと呟く。


「マスタースキルって……あの?」


「マスタースキルがなんなのか知ってるの?」


 僕が聞き返すと、村長は信じられん、という表情のまま答える。


「魔法学校に通ってた時に噂で聞いたことがある。あくまで噂だが……倒した敵を、生き返らせて、自らの従者(しもべ)とする力らしい」


 ――倒した敵を、生き返らせて、自らの従者(しもべ)とする力。


 それならば、確かに今のこの状況に説明がつく。

 倒す意識があったかはともかく、僕は剣属の少女にトドメをさした。

 その結果、彼女は行き帰り、僕の従者となった。


 ――だが、


「でも、魔法学園でもその能力者が実在すると言う話は聞いたことがない。まさか実在するなんて……」


 村長とキリウスは終始信じられないと言う表情を浮かべていた。


 もちろん、僕自身も驚いていた。

 勇者適正ゼロの僕が、まさかそんなスキルを持っているなんて……


 と、僕たちが言葉を紡げないでいると、


「なんでもいいさ! とにかく、エドが村を救ってくれたんだよ!」


 と、僕たちを横で見ていた隣の家のおじさんが声を張り上げた。


「ああ、そうだ! エドがいなきゃ、今頃僕たちは死体になってたところだ」


「エドは村の英雄だ。勇者様だ!」


 と、村人たちが口々にする。


 僕はなんとなく気恥ずかしくなってしまう。


 でも、素直に嬉しかった。

 この手で誰かを助けたいとずっと思っていた。


 だから、それが実現できて、嬉しいのだ。


「私も死ぬところを助けてもらいました!」


 と、突然剣属の少女が、僕の腕をとって、ブンブンと手を振ってくる。


「そういえば……名前、聞いてなかったな」


 僕が言うと剣属の少女は答える。


「私、ジャンヌです!」


「えっと、僕はエドです。よろしく」


「よろしくお願いします! ご主人様!」


 ジャンヌは――剣になった時の凛とした荘厳さとは裏腹に、弾けるような笑みを浮かべている。


「ご主人様にもらったこの命、ご主人様に捧げていきます!」


 急に、ご主人様ご主人様と連呼されて気恥ずかしい。

 だが、彼女のような可愛くて強い剣属が、僕についてくれたのは嬉しかった。


 だって――これで僕も剣士になれるのだから。


 †


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