第46話「共闘」







   第46話「共闘」





   ★★★




 セリムと騎士団員、そしてミツキは、コメットの洞窟に潜入を開始した。

 作戦通り、他の騎士団員が先にトンネルへと突入した。すると、トンネル前を警備していた数人のコメットと戦闘が開始されると、中からも多数の兵士がぞろぞろと出てきたのだ。

 あっという間に多数のコメットとの戦闘になり、騎士団員は一気に苦しい戦いになっていた。戦力は、セリムとミツキに劣るがそれでも精鋭揃いだ。簡単に負けるはずはないが、相手はチャロアイトの民だ。魔法を使う者も多いのだ。

 突然光に纏われると、そこから思いもしないものに襲われるのだ。ミツキはその様子を驚いた様子で見ていた。けれど、対応している団員は冷静に対応し、それを避けていた。



 「………あいつらすごいな。魔法への適応があるのか。」

 「あの者達は、昔からいる騎士団員だ。チャロアイトへの護衛などで、魔法への戦い方を学んでいる。」

 「そうか………あいつらは、対魔法の宝石は持っているのか?」

 「あれは高価な物だと言っただろう。……持っているはずはない。」

 「………そうか。」



 ミツキは、小さく返事をしながら草影から見守っていた。

 多くの敵が戦闘に入ったのを見た後、セリムとミツキは反対側から、誰にも見つからずトンネル内に潜入する事が出来た。それは、戦いながら戦闘の場所を意識的にずらしてくれた騎士団員のおかげだった。心中で感謝の意を伝えながら、ミツキはコメットの領地に入った。



 トンネルの中は、普通の民家のような作りになったいた。しっかりと木で壁や床があり、至る所に魔法によりランプに明かりが灯っていたので明るい空間になっていた。

 けれど、部屋は乱雑になっており、武器や食材、本などが置かれていた。衣服などは男物が多かったが、女性がいるのもわかっていた。

 トンネル内を見ていくと、大勢が暮らしているのもわかった。そして、コメットがいかに大きな組織になっているのかも思い知らされた。



 「ここら辺に居た奴らは、外に出たみたいだな。」

 「あぁ…………。だが、このトンネルがどれぐらい深くまで続いているかわからない。気をつけて行くぞ。」

 


 セリムの声にミツキは頷き、剣を握りしめなぎら次の部屋へのドアを開けた。


 すると、それと同時に光が見えた。

 ミツキはすぐに魔法だとわかったが、避ける時間などない。何かが来るとわかりながらも、目を瞑るしか出来なかった。


 けれど、その光が一瞬にして消えていったのだ。ミツキは驚き、辺りを見渡した。すると、広い部屋に黒い服を来たコメットの男達が、ミツキを驚いた表情で見つめていた。



 「あいつ………魔法を………。」

 「対魔法の宝石を持ってやがるんだな………やっかいな………。」

 「仕方がない。そのまま囲んで捕まえろ。殺してもかまわない。」


 

 そこに居たコメットの中でもリーダー各の男が指示を飛ばすと、一斉にセリムとミツキに襲いかかってきた。



 「……おまえ、宝石がなかったら死んでいたぞ。」

 「………あぁ、気を付ける。」

 「私がエルハム様を助けるから、おまえはどうなってもいいがな。」



 セリムはニヤリと笑いながら細い剣を抜刀して、コメット相手に剣先を向けた。

 ミツキより先に敵元に飛び込み、次々に相手を斬り、敵を地面に沈めていく。けれど、どれも命を奪うほどの殺傷力はなく、戦力としてまた立ち上がれない程度のものだった。峰打ちで気を失わせたりもしており、戦闘に慣れている様子が伺われた。


 ミツキはそれを見て、頼もしく思いながらその戦闘に加勢した。


 ミツキが加わったことで、あっという間にその部屋のコメットは倒れた。

 そのままにして行きたい気持ちもあったが、逃げ出したり、また不意打ちをされても困るため縄で括り、動けないようにした。



 続いて奥へ奥へと移動したけれど、同じように部屋毎に敵が数人いるだけで、エルハムはどこにもいなかった。

 2人は傷を負う事はなかったが、それでも体力は消耗していく。少し呼吸を荒げながら、セリムはミツキに声を掛けた。



 「この場所はどこまで奥に続いているのだ。きりがないな。」

 「だが隠し部屋などある気配はなかった。」

 「……では、まだ奥にいるという事だな。」



 2人は少し不安に思いながら、別々の方向を見た。


 この部屋には、ドアが3つあるのだ。

 1つはミツキ達が入ってきた物。そして、そこからまっすぐ行ったところに1つ。そして、右側にも1つあった。

 ここからは別れ道になっているのだ。


 ミツキとセリムは、同じ考えだった。

 それを口にしなくてもわかる。

 別々の道を進んだ方が効率がいいが、危険も多くなる。けれど、一刻も早くエルハムを見つけるとなると、ここで別れて進むしかないのだ。


 セリムが右、ミツキがまっすぐの道に進む道を選んだ。

 けれど、そのドアを開ける前に異変に気づいた。この部屋に向かって走る音が地鳴りのように遠くから少しずつ近づいてきていたのだ。



 「………これは………。」

 「やられた。囲まれたな。」



 ミツキがため息をつくと同時に3つのドアが開いた。

 すると、一斉に黒い服の男達がミツキ達が居た部屋に入ってきたのだ。

 それぞれに武器を持っている。



 「さて、今までで1番敵の数が多いな。」

 「………ミツキ。おまえが向かおうとしていたドアから出てきたコメット達を見ろ。」



 セリムは背中合わせで剣を構えていたミツキに小さな声でそう言った。

 ミツキは、言われた方向に一瞬視線をのみ向ける。そこには、武器を持たずに、手に光を宿している男が多く居たのだ。

 それを見て、セリムが言いたい事を理解した。



 「戦力が集中しているな。」

 「あぁ………エルハム様がそちらに居る可能性が高い。」

 「そうなるな。早く、ここを片付けて………。」

 「ミツキ、おまえはその扉の先に向かえ。私はここを片付けてから向かう。」

 「なっ………それはいくら何でも無茶だろう?」


 

 セリムの提案はもっともだ。

 ここで2人が倒れてしまっては元も子もない。けれど、先ほどまで戦ってきたコメット達とは違い、精鋭揃いだというのが戦わなくとも雰囲気で感じられる。

 実際、セリムとミツキの様子を伺い、安易には攻撃してこない。


 けれど、ミツキの意思は固いようだった。

 


 「エルハム様は、おまえを専属護衛に選び、そして、おまえにだけ助けたを求めた。会いに来たのはお別れを言いにではないだろう。ミツキ、おまえを求めているのだ。」

 


 セリムの言葉に、ミツキはハッとした。


 エルハムは、自分で決めてこのコメットの領地に来た。それは、セリムを助けるため、日本に戻すためだと思っていた。それもあったはずだ。

 けれど、最後にミツキに会いに来たのは何故か。最後の挨拶をしに来たのか。手紙を渡すためか。

 どれの理由も当てはまる。

 けれど、ミツキに会いに来る事で騎士団や看守に見つかったり、手紙がバレる可能性もあるのだ。本当ならば会いに来ない方がよかったはずた。

 

 それなのに、会いに来たのは何故か。

 

 

 「セリム団長。悪い、ここは任せた。」

 「………早く行け。そして、エルハム様を助けるのだ。」

 「ああっ………!」



 ミツキは、力強く返事をすると、勢いよく地面を蹴った。

 そして、一目散に正面のドアに向かった。

 すぐに魔法で攻撃されるが、そのまま突っ込んだ。対魔法の宝石のお陰でダメージは小さかったが、それでも所々に傷がついたのは、魔法を放った者が高位魔法を使ったためだろう。

 痛みに耐えながら、その者達に近づく。敵のすぐ近くに入ってしまえば、ミツキの方が圧倒的に有利だった。

 すぐに剣で数人を斬り、そのままドアへと向かった。


 すると、後ろからドンッッ!という、強い衝撃音と暖かい風を感じて、ミツキは後ろを振り向いた。

 すると、セリムが魔法を避けながら戦う姿が見えた。炎魔法を受けたのか、左肩が焼けて黒くなっていた。対魔法の宝石を持っていればそこまでの傷を負わないはずだ。


 セリムは苦痛を滲ませた顔を一瞬見せたが、すぐに剣を握りしめて次々に敵を倒していく。

 その気迫は、凄まじい者でコメット達もたじろぐぐらいだった。



 「……………セリム。おまえ、まさか………。」



 ミツキが呟いた言葉がセリムに聞こえるはずはない。

 だが、セリムはこちらを見て、フッと笑みを見せた。



 「高価な宝石だと言っただろ。私も生憎1つしか持っていないのだ。」

 「…………セリム。」

 「さっさと行けっ!ミツキっっ!」



 その言葉に背中を押されるように、ミツキは目の前から飛びかかってくる数人のコメットを一振りで倒してから、すぐにその部屋を出た。

 


 後ろからは罵声や剣の音、そして、魔法による爆撃の衝撃が伝わってきた。

 


 けれど、ミツキは歯を食い縛ったまま、ただただまっすぐと道を走った。



 この道がエルハムへと続くと信じて。




 

 

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