第44話「絶望の中にある光は」






   第44話「絶望の中にある光は」





 チャロアイトの森は昼間だが暗かった。

 チャロアイトはどんよりとした気候が多い。森に入れば沢山の木々が影となり地面を暗くしたのだ。

 そんな中をミツキは必死に走っていた。

 洞窟を探し回った。けれど、なかなか見つからずに焦りだけが募って行った。

 こうしている間も、エルハムは苦しい思いをしているはずなのだ。

 ミツキは額を流れる汗を手で乱雑に拭き取りながら、走りつづけた。



 『私たちをお探しですか?』



 突然、頭に響いてきた。

 ミツキは咄嗟に周りを見渡すが、そこに誰もいないのだ。

 直接頭に言葉を掛けられる感覚に戸惑った。

 だが、その声は聞き覚えのあるものだとわかると、ミツキは見えない声の主を睨み付けるように、森を見つめた。



 『これも魔法の力です。今、あなたの頭に直接話しかけてるので、この声はあなたにしか聞こえないのです。』

 「………おまえ、この間シトロンの牢屋に来たやつだな。」

 『声だけでわかってもらえるなんて、光栄ですね。帰ってきたばかりで寝ている所を叩き起こされたと思ったら、もうこちらに来るとは。』

 「おまえが挑発したからだろ。」

 『そうでしたね………退屈しなくていい事です。』




 そう言うと、その男はクックッと笑った。

 その声を聞くだけで、ミツキは気分が悪くなるのを感じた。

 


 『今居るところから左奥に進めば私たちの隠れ家がありますよ。』

 「……………何故それを俺に教える。」

 『一人で来てどこまで戦えるのか見ものだと思いまして。日本の武士さん。』

 「なっ………なんで、おまえ………それをっっ!!」

 『今、お姫様はぐっすり寝ているんだ。だから、何も出来なくてね。もう少しで起きるだろうから……じゃあ、健闘を祈るよ。』

 「っっ!おいっ!まて………!」

 『…………。』



 それ以降、ミツキが声を掛けても男が話をする事はなかった。

 エルハムが寝ているとわかるという事は、今でも彼女のそばにあの男がいるのだろう。

 そう考えると、隠れ家を早く見つけなければ、とミツキは言われた方向に走った。

 あの男に報告が来たという事は、ミツキをどこかで隠れて監視している敵が居るという事だ。焦りがあったため視線に気がつかなかったのだ。

 ミツキは、走りながらも周りの気配を探った。すると、何となく後ろから視線を感じたのだ。今まで気づかなかった自分に驚きながらも、それほどに気を乱していたのだと気づき、改めて気を引き締めた。

 


 男が話した通り、洞窟が見えてきた。

 その前には数人の黒衣服が数名居た。そして、その洞窟には家のようになっているのか、普通の民家と変わらない木の外壁やドアがあった。ミツキは、腰に下げている剣をギュッと握りしめた。この日、ミツキは左腰には騎士団から支給された剣を。右腰には日本から持ってきている木刀を持っていた。その他にも短剣など持てる武器は持った。

 1人で攻め込むのだ。何があるかわからない。準備して悪いことないと思っていた。


 突入にするに当たり、ミツキはどうするか考えていた。強行突破。

 それしか方法がなかった。

 もしかしたら、あったのかもしれない。けれど、焦りや不安などから、何も思い付かなかった。

 


 「待っててくれ、エルハムっ………。」

 


 ミツキは剣を抜刀して、体の脇に添え、ぎゅっ柄を握りしめた。緊張からか、鼓動が早くなる。自分の全身がドクンドクンと波打っているようだった。


 木陰から1歩足を踏み出した。

 が、体が前に進むことはなく、後ろに引っ張られた。ミツキはこの時、腕を引かれたのだと気づき、警戒しながら後ろを振り返った。


 

 「……………セリム………!」

 


 そこに居たのは金髪のセリムと、数人の騎士団だった。

 ミツキの腕を掴んでいたセリムは、呆れて表情でミツキを見つめていた。



 「何も考えないで突っ込もうとするなんて、本当におまえは愚かだな。」

 「………どうして、おまえがここに居る。作戦会議とやらをするんじゃなかったのか?」

 「………そのつもりだったさ。だが………。」



 セリムは乱暴にミツキの腕を離すと、ばつが悪そうに視線を逸らした。



 「セイが、おまえと一緒に行ってほしいと何度も頼まれた。………仕方がなく他の物に騎士団の指揮を巻かせて先に来ただけだ。おまえが隠れ家をめちゃくちゃにして、騎士団が突入した時に迷惑がかからないように見ていなければいけないしな。」

 「そうか。助かった………。」

 「…………。」

 


 人手が欲しかったのは事実で、自分一人では難しいこともわかっていた。

 だからこそ、味方がいるのは本当に心強かった。

 素直に感謝の言葉を伝えたのが信じられなかったのか、セリムは心底驚いた顔を見せていた。


 「……なんだよ。本当の事だろ。」

 「何も言ってない。」

 「………顔見ればわかる。」

 


 ミツキが少し恥ずかしくなり、顔をそらすと、その瞬間。セリムの雰囲気が柔らかくなるのを感じた。彼に視線を戻すと、いつもミツキに向ける仏頂面に戻っていた。けれど、きっとあの感覚は気のせいではないと、ミツキは思った。



 「作戦は簡単だ。騎士団員数名がトンネルへ強行突破をする。そして、戦いながら西の方へと誘導する。そのうちに、俺とミツキがトンネル内に侵入する。そこからは、戦いながらエルハム様を探すだけだ。」

 「わかった。………よろしく頼む。」



 セリムの作戦を聞いたミツキは頷き、セリムの後ろに控えていた7人ぐらいの騎士団員にそう声を掛ける。彼らは囮になるのだ。激しい戦闘になるはずだ。

 けれど、彼らは「はいっ!」「お任せ下さいっ!」と、心強い返事をしてくれた。ミツキの表情も少し柔らかくなれた。



 「おいっ!」

 「ん…………っっ!………なんだ、これ?」



 セリムはミツキにある物を投げつけた。

 ミツキは手でそれを受け止めると、手のひらの中で、キラリと光る宝石があった。

 それは薄暗い森の中でも光っていた。



 「知らないのか………。それは、ラズワルド国の宝石の1つで。対魔法効果がある。それを持っていると相手が放った魔法は当たらなくなる。……まぁ、強力な魔法に対しては効果はないがな。」

 「すごいな………そんな物があるなんて。」

 「この石があるから、チャロアイト国はラズワルド国を警戒しているのだ。敵が攻め込んで来ても、この宝石を持っていれば魔法は効かないからな。あぁ、それと。その宝石はかなり高価だからなくすなよ。」

 「………どれぐらいだ?」

 「おまえの1年分の報酬でも足りんな。」

 「………気を付ける。」



 ミツキは、その宝石を大切に胸の内ポケットにしまった。



 「では、行くか。」

 「あぁ……。エルハムを助け出す。」



 ミツキ達は、エルハムが居るコメットの隠れ家を、睨み付けるように見つめた。

 すぐ傍まで来ているが、きっと険しい道となるはずだった。

 けれど、そこには希望しかない。

 ミツキはそんな風に思った。




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