第31話「夜の秘密会議」
第31話「夜の秘密会議」
「これ、ミツキに渡しておくね。」
「…………エルハムが借りてきたんだ。おまえが先に読んでくれ。」
エルハムが手に持ってた本をミツキに渡そうとすると、それを彼が断った。
「え、でも…………。」
「それに俺も今日はセイの家の警護当番だしな。読み終わったら貸してくれ。」
「…………ミツキはそれでいいの?」
「あぁ……それでいい。」
そういうと、大きな手でエルハムの頭を撫でた後、ミツキは部屋から出ていった。
エルハムもこれから公務がある。読みたい気持ちを我慢しながら夜に読もうとエルハムは大切に棚へと閉まったのだった。
それから、またセイのところへも行き、無事に帰ってきた事や、また図書館に行かなければいけない事などを報告した。
セイは何事もなく城に帰ってきてくれた事を喜んでくれた。それに、服や私証をまた貸して欲しいと頼むと、快く承諾してくれたのだ。
セイに感謝しながら、エルハムはチャロアイトの図書館の事を彼女に伝えたり、チャロアイト国の街並みを教えたりした。
そわそわしながら過ごした1日は長かった。
やっと自由になったエルハムは、借りてきた本を抱えながらベットに座り込んだ。
緊張しながら、エルハムは古びた表紙を開いて、読み始めた。
伝記という事で、カゲカワという人物の歴史が書かれていた。自分で書いたもののようで、とても詳しく書かれていた。
そして、それは始めから衝撃的な事が書かれていたのだ。カゲカワにニホンという国で暮らしており、異世界に飛ばされたのは28才の時だったと書かれていた。事故に合い、意識がなくなり目覚めたときには、こちらの世界に来ていた、という事だった。日本人は黒髪黒目のため、始めは人々に怪訝そうに見られていたが、ニホンで学んだ知識がシトロンでも認められて、シトロンの国でも不自由なく暮らせるようになったと書かれていた。
1巻という事でカゲカワがニホンで暮らした様子が詳しく書かれていたのだ。
けれど、その暮らしはエルハムがミツキから話を聞いたものとは少し違っていた。クルマやヒコウキなど、人を乗せて動く機械も出てこなかったし、デンワという物もなかった。そして、暮らしぶりも違うように感じたのだ。
ニホンという名前が同じだけで、違う国なのだろうかともエルハムは思ってしまい、この本がミツキの役に立ちのか不安になってしまった。
薄い本だった事と、続きが気になり一気に読んでしまった事もあり、あっという間に読み終えてしまった。
エルハムは、早くミツキにこの本を読んでもらいたくて、ミツキの部屋へ行こうか悩んだ。
今日はセイの家の護衛があり、その後もエルハムの仕事に付き合ってくれていた。疲れているだろうと思いながらも、エルハムはベットから降りて、いつものテーブルに近づき、しゃがんだ。
そして、コンコンッと小さくノックした。エルハムがミツキを呼びたいときにする合図だ。しかし、今日はいつもより小さめに鳴らした。これに気づかないぐらい寝ているのならば、彼を寝かせてあげたいと思ったのだ。もし起きていて気づいてくれたのならば、本を読んで欲しい。そうエルハムは思って彼の反応を待った。
しばらくすると、エルハムの部屋の扉を小さくノックする音が聞こえた。
ミツキが来たのだとわかり、エルハムは嬉しくなる気持ちを抑えられずに、駆け足でドアを開けた。
「どうかしたか?」
「ミツキ、夜中にごめんなさい。………寝てたかしら?」
「いや、起きてた。また、寝れないのか?夢でも見た?」
「ううん。大丈夫。」
ミツキはエルハムの返事と様子を見て、ホッとした表情を見せた。
きっと何かあったのだと慌てて来てくれたのだろう。ミツキのそんな気遣いに、エルハムは頬が赤くなってしまいそうだった
エルハムは、ミツキを部屋に招き入れた。
そして、ベットに置いてある本を持ち、彼に手渡した。
「これ、早く読んで欲しくて……。」
「もう読み終わったのか?」
「うん。そんなに長くなかったから。」
「そうか。………ありがとう。」
ミツキは少し緊張した面持ちのまま、その本を受け取った。そのまま表紙を見つめ少し苦い顔をしながらも、エルハムに感謝の言葉を掛けた。
けれど、しばらくそのまま本を見たまま、その場に立ち尽くしていた。ミツキは迷っているのだろうか。そんな風に思い、エルハムは彼の顔を覗き込みながら、「ミツキ……。」と呼んだ。
「もしよかったら、ここで読んでいかない?読み終わってから、ミツキに聞きたい事もあるし。」
「………あぁ。そうだな。」
ミツキは、少し安堵した表情を見せてから、いつもの窓際のイスに座った。
エルハムは、彼が読み終わるまで、仕事をして待とうと思い、彼と同じく窓際のイスに座り作業をしていた。
ミツキが読んでいる古びた本は、ほとんどがこちらの文字で書かれていた。ミツキも読むことは出来るが、古い本になるとわからない言葉も多いと思った。
それに、もし自分だったら一緒に誰かに居て欲しいと思ったのだ。
自分が探し求めていた情報が手に入った時、それが良い場合も悪かった場合も、不安になったり、誰かに話を聞いて欲しいと思うと感じたのだ。
もちろん、皆が同じ気持ちだとは思わない。
けれど、ミツキも安心した表情になったのをエルハムは見ていたので、少しは彼の役に立てるのかと思い、エルハムも嬉しかった。
夜の静かな部屋に、ミツキがページを捲る音が響く。時々、「これはどんな意味だ?」と、聞いてくる事があったけれど、それ以外ミツキは真剣な表情で本を読みふけていた。
エルハムも、仕事をしていたけれど、今日は朝早かったことや、誰かの呼吸音が心地よくなって、ついうとうとしてしまった。それでも、何とか起きながらエルハムは彼が読み終わるのを待とうとしていた。
「………エルハム………エルハム。」
「…………ん…………、ミツキ?」
「悪いな、寝てる所起こしてしまって。」
「ううん…………っっ!!私、寝てしまったのね……。」
エルハムは、ミツキに優しく起こされ飛び起きる。起きて待っているはずが、うとうとしたままテーブルに顔を伏せたまま寝てしまったようだ。エルハムは、真っ赤になっているだろう顔を両手で包みながら、ミツキに謝罪した。
「ごめんなさい。寝てしまうなんて………。」
「いいさ。俺が読むのが遅いからな。待たせたな。」
ミツキは、気落ちしているエルハムの頭をポンポンと撫でてくれる。
ミツキは寝てしまったことを気にしていると思っているようだった。もちろん、それもある。けれど、エルハムが1番恥ずかしかったのは、彼に寝顔を見られてしまった事だった。
好きな人にうたた寝をしている顔を見られるなんて、エルハムは今すぐ少し前の自分を叩き起こしたい気持ちでいっぱいだった。
「読み終わったよ。」
「………うん。どうだった。」
「あぁ、とても興味深いものが沢山あった。」
ミツキの瞳が、輝いているのがわかった。彼がとてもイキイキとしているのだ。
自分が彼の役に立った。それは嬉しいはずなのに、何故かエルハムの胸はズキッと痛んだ。
それを彼に隠すようにエルハムは彼に問いかけた。
「私がミツキから教えてもらったニホンとは違うように思ったんだけど。本当にミツキが居たニホンの同じなの?」
「あぁ………。確かに違う世界みたいに思えるよな。」
ミツキは微笑み、そして楽しそうに笑っていた。
エルハムの大好きな笑顔。
そのはずなのに、今は見ているのが辛い。
「ここに書かれているのは、俺と同じ世界の日本。そして、俺が居たよりも昔の……過去の時代だ。」
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