第22話「オレンジ色の瞳が見つめる先は」
第22話「オレンジ色の瞳が見つめる先は」
それからしばらくの間、コメット達は何度かエルハムやセイがいる城を襲撃した。けれど、それらは全て騎士団によって撃退されていた。ミツキやセリムも戦っていたけれど、いつも逃げられてしまっていた。
けれど、エルハムは怪我をした人もほとんどおらず、セイも無事なのが何よりだとエルハムは思っていた。
そして、ミツキへの想いに気がついたエルハムは、彼に会う度にドキドキしながらも、それでも前のようにぎくしゃくしているよりは話すことが出来ていた。
それに、ミツキの傍にいる事が嬉しいので、今までと同じように彼と共に過ごそうと思っていた。
この日は、城の敷地内にある古い資料室に籠っていた。もちろん、部屋の中にも外にも騎士団員が居てくれる。
それに、ここにはシトロン国の大切な資料が残されている場所なので、普段から警護もしっかりされている所なので安心出来る建物だった。
大量の本や資料が保管されているこの場所で、エルハムは朝からずっと探し物をしていた。
吹き抜けの窓から射し込む太陽の光を頼りに文字を辿っていくと、あっという間に時間が過ぎていた。
「んー………やっぱりニホンについて書いてあるものはないわね。」
エルハムはそう呟くと、本を閉じてから体を大きく伸ばした。集中していたせいか、ずっと同じ姿勢でいたため首が痛くなってしまい、首をゆっくりと回すと首が鳴るのが聞こえた。
「昨日城下町で買ってきた食材で、お菓子でも作ろうかな。セイや騎士団の人たちに配ったら喜んでくれるわよね。」
エルハムはそう考えると、数冊の本を抱えたまま資料室を出た。
すると、丁度こちらに向ってきていたミツキとばったりと会ったのだ。
「姫様。」
「ミツキ、お疲れ様。訓練は終わったの?」
「はい。………本をお持ちします。」
「ありがとう。」
エルハムが持っていた分厚い本を数冊受けとると、ミツキは軽々とその本を持った。
「また、コメットの事を調べていたのですか?」
「え、えぇ………昔の事を再確認するのも大切だと思って……。」
「確かにそうですね。」
エルハムは彼の問い掛けにこう答えながらも、内心では緊張してしまっていた。
確かに、初めはコメットとシトロン国との関わり調べるために資料室を訪れていた。けれど、どの本や書類を読んでもセリムや父から聞いた事ばかり書いてあり、エルハムは途中から調べるのを止めたのだ。
そこで、新たに調べ始めたのがミツキが居たという「ニホン」という世界についてだった。
彼の他にもニホンから来てしまった人はいるのか?そして、帰る事が出来たのか?それを調べようかと思ったのだ。
少しでもニホンの事がわかれば、ミツキは喜んでくれるだろう。そう思って始めた事。
けれど、もし帰り方がわかってしまったり、いつかは戻ってしまうのだとわかったら………それを考えてしまうと、エルハムは胸が張り裂けそうだった。
ミツキが目の前からいなくなってしまうかもしれない。
もうあの笑顔も、声も、ぬくもりも感じられない。
そうなってしまった自分を考えるのでさえ怖くて、調べるのを止めようと何度も思った。
けれど、ミツキが喜んでくれる事は何だろう考えると、それが1番なのだとエルハムは思ったのだ。
エルハムは胸元のドレスに手を当てる。
そこには首から下げている、ミツキから貰ったお守りがある。
紐を長くして、肌身離さず持っているのだ。お守りに手を当てていると、ミツキがまもってくれている、そんな気がするのだ。
「大丈夫。………ミツキはニホンには帰らないよね。きっと、ここに居てくれるはずよ………。」
エルハムは自分に言い聞かせるように呟く。
すると、少し前を歩いていたミツキがくるりとこちらを向いて心配そうに訪ねた。
「姫様………今何か言いましたか?」
「ううん。大丈夫よ。」
「そうですか………。」
「さぁ、今からお菓子を作ろうと思うの。出来たらミツキも食べてみてね。」
「………甘さ控えめでお願いします。」
エルハムは考えたくない事を胸の奥に隠し、目の前にいる彼を見て微笑んだのだった。
★☆★
「珍しいな。おまえが急にここを訪れるなど。」
「アオレン王様、お休みのところ申し訳ございません。」
「いい。いつもシトロン国にために努めてる騎士団長の話だ。いつでも聞きたいと思っている。」
「ありがとうございます。」
セリムは、姿勢正しく礼をした後、自室のソファに座るアオレンを見据えた。
王の部屋とあり、エルハムの部屋より大きめであり家具も豪華だった。けれど、アオレン王になってから買ったものはほとんどなかった。 代々使われているものや国の人々からの贈り物ばかりだった。目新しいものはといえば、アオレン王とティティー王妃が真っ白な衣装を着て、2人で微笑んでいる絵だけだった。
アオレン王も亡くなったティティー王妃も贅沢するのを嫌がり、人々と同じ生活を望んでいたのだ。
そのため、昔のティティー王妃の噂は、セリムにとっても信じられないものだった。亡くなられてからその噂が嘘だったと知っては何もかも遅い。セリムはその事件を今でも忘れられずにいた。
「それで、セリム。話とはなんだ。」
「はい。ミツキの事について、です。」
「ミツキ?専属護衛が何かしたのか?」
「………やはり、私は彼がチャロアイトの密偵だと思うのです。」
「……セリム。その話は何回もしているだろう。」
「ですが……。」
アオレン王は苦い顔を浮かべながら、セリムを見ている。
セリム自身も、もう何度も王に話している事なのかは自覚している。けれど、それぐらいに彼を疑っているのを分かって欲しいのだ。
けれど、アオレン王はミツキを信じきっているのだ。
「彼が現れた場所もチャロアイト国のトンネルというのも気になります。それに異世界から来たなんて、聞いた事もありません。チャロアイトが育てた兵士で、姫様に懐き、チャンスを伺っているのではないですか?」
「今のチャロアイトの王とは友好的な関係であるのはセリムも知っているだろう。以前会ったときも、ミツキという男は知らないと言っていたぞ。」
「それはそうですが、!」
「それに、だ。セイの奇襲事件やセリムの言葉を聞いてから、チャロアイトのトンネル付近に騎士団を置くようになっただろう。そこにミツキは1度も訪れた事などないはずだ。それに、私証を持たない彼がチャロアイトに行けるはずもないのだぞ。」
アオレン王が行っている事は全て正論だった。
ミツキがこの国に突然現れエルハムに助けられてから、私証を彼に渡すのを拒んでいるのはセリムだった。アオレン王は信頼できるとして渡すつもりだったようだが、セリムの強い説得で、渡してはいないのだ。
それにトンネル付近の警護をしてからも、ミツキが城を抜け出しチャロアイト国に行くことはほとんどなかった。それは、城で共に生活しているセリムもわかっている。ミツキが勝手に城を出ることなどほとんどないという事を。
けれど、セリムはどうしても彼を信じられなかった。
自分の居場所を取ったミツキを信じるなど出来るはずがなかった。
「セリムよ。ミツキは私から見てもシトロン国やエルハム、騎士団のために頑張ってくれていると思うぞ。………そろそろ認めてやってはどうだ?」
「…………アオレン王様、お時間ありがとうございました。失礼致します。」
「…………セリム、あまり無理するな。」
「はい。」
アオレン王の優しく微笑んだ顔と言葉が、セリムの心を痛めた。
けれど、心の中は悔しさでいっぱいになっていた。それをどうにか表情に出さないよう両手を強く握りしめながら、セリムは王の部屋を後にした。
「ミツキ………絶対に俺はお前を認めない。」
セリムの綺麗なオレンジ色の瞳は、強く燃える炎のように揺らめいていた。
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