第21話「気づいた気持ち」
第21話「気づいた気持ち」
ミツキの部屋は殺風景だった。
元々倉庫だったこともあり、部屋自体は広いが、そこには木製のシンプルなテーブルと椅子、本棚にベットのみが置いてあるのみだった。
物も少なく、本はエルハムがあげたもの、テーブルには勉強しているのであろう紙とペンが置いてある。
窓の下には、彼が元の世界であるニホンから着てきた服と、木の剣「ボクトウ」が大切に置いてあった。
「何にもない部屋で悪いな。」
「ううん。なんか、ミツキらしいなって思って。」
「そうか?……まぁいいか。」
そう言うと、ミツキは本棚に置いてあった袋を取り出して、エルハムに差し出した。
「………え?これなに?」
「この間、怪我をした時にハンカチで手当てしてくれただろう。それのお返し。」
「あ、あれは私が助けてもらったんだから………気にしなくていいのに……。」
「俺が気にする。」
そう言うと、ミツキはエルハムの手を取って、その手のひらの上に袋を置いた。
そこまでされてしまうと断れる事も出来ず、ミツキからの突然の贈り物を受けとる事になった。
「ありがとう。ミツキ。」
「あの時は、驚かせて悪かったな。」
「ううん。ミツキが守ってくれたから、私は無事だったんだよ。」
エルハムはそう言い、ニッコリと微笑んで袋を大切に持った。
中身がとても軽く、エルハムは何をプレゼントされたのか、気になりミツキに訪ねた。
「ねぇ、ミツキ。開けて見てもいいかしら?」
「あぁ。たぶん、俺が説明しないとわからないと思うし。」
「そうなの?………じぁあ。」
不思議に思いながらも、エルハムはその袋から入っていた物を取り出した。
すると、中から花柄の刺繍と布でできた小さな袋が入っていた。
「わぁ………ハンカチ可愛いわね。………それと、これは?」
「それは日本のお守りってものだ。」
少し古びているが鮮やかな色の生地は、シトロン国では見たことがない物だった。
「金色の糸で刺繍されてるのね。すごく細かいけど、綺麗だわ。」
「金襴布地っていうらしい。こっちの世界ではないものだな。そして、その中にはお札が入ってんだけど、神様っていうみんなを守ってくれる偉い人がいるって言われてるから、開けちゃだめだぞ。」
「………偉い人が守ってくれる………から、「お守り」なの?」
エルハムは、手のひらにあるキラキラ光る小さなお守りを見つめながら、そう彼に問いかけると、「そうだ。」と教えてくれた。
「ニホンでは、このお守りを持っていると安全だとか幸せになれるとか、お金が入るとか………そういうのがあるんだ。これを持ってると安全になれるおまじないってやつだ。俺が持ってたんだけど、少し擦りきれてたから縫い直した。だから、さっきの人に裁縫道具を借りたり、縫い方を教えて貰ったんだ。」
「………そうだったの………。」
ミツキから、使用人である女の子との関係が思いもよらない所でわかり、エルハムは思わずホッとしてしまった。裁縫道具など持っていない彼が頼んだのが、部屋の支度などをしてくれる使用人だったようだ。たまたま、その上手なの女の子が裁縫が得意だったことから、ミツキが詳しく聞いたという事だった。
自分が勘違いをした事を恥じていると、ミツキは何かを感じ取ったのかクククッと笑っていた。
「やっと笑ったな。そんなにプレゼント嬉しかったか?」
「………嬉しいよ?ミツキが選んでくれたハンカチも、ミツキが持っていた大切なお守りも………ミツキが頑張って縫ってくれたのも。」
エルハムはそっとミツキの指先を見つめた。彼が怪我をしていたのは、裁縫をしたからなのだろう。それをエルハムに見られてしまうのを避けるために、ミツキがエルハムの手を拒んだ、と言うのがわかったのだ。
でなければ、先ほどから何度も手に触れたりしないだろう。
エルハムは口元がニヤけてしまうのがわかった。
「エルハム。おまえを怖がらせないために言わなかったけど、この城にもコメットが侵入しようとしたんだ。騎士団がそれを阻止したけど、エルハムを狙ったのか、セイの方だったのかわからない。」
「え………そんな。騎士団のみんなは大丈夫なの?それにコメットは……。」
「騎士団は無事だが、コメットは逃げた…………。これから、コメットと戦闘になる事もあると思う。だから、おまえと約束したいと思ってこれを選んだ。」
「………約束?」
エルハムが持っていたお守りとハンカチを包むように、ミツキが両手で包み込んだ。
先ほどまでの得意気の表情はなく、とても真剣そのものな表情だった。
「次は、このハンカチを血で染めたり、涙で濡らしたりしない。そしてこのお守りみたいに、俺がエルハムを守るから。だから、エルハムはエルハムで今まで通りに過ごして欲しい。」
「………ミツキ。」
「エルハムは町のみんなやセイが心配なんだろ?前みたいに頻繁にとはいかないけど、また出掛けていけばいいと思うし、セイに会えばいいと思う。俺がフォローするから。」
ミツキは優しい言葉でそう言うと、エルハムを見つめて微笑んだ。
ミツキはこんなにも自分の事を考えてくれている。それがわかり、先ほどまで彼を疑ってしまった事をエルハムは恥じた。
そして、ミツキの言葉を聞いて、エルハムは自分の心が揺らめいているのを感じた。
私はミツキの事を…………。
そう思うとキューッと胸が苦しくなったが、それさえも心地よいと思ってしまう。彼への気持ちは、もう誤魔化せないとわかってしまった。
「ねぇ、ミツキ。」
「何だ?」
「………今のは約束だよね?それに、この間の2つ約束をした時、ぎゅーってしてなかったよね?………今、してくれないかな。」
「………おまえな。子どもじゃないんだから。」
「シトロン国の伝統的な約束の交わした方よ。………だから、ね?」
エルハムがお願いをすると、ミツキは恥ずかしそうに微かに頬を染めながら、「ったく……。」と、仕方がなさそうに腕を伸ばして、エルハムの肩をつかんで引き寄せた。
少し乱暴にエルハムを胸に出しめたミツキだったが、包む込む腕はとても優しかった。
ミツキの体温、匂い、そして鼓動を感じた。自分と同じぐらいに早く鳴っている彼の鼓動を聞くと、エルハムは彼も同じ気持ちなのだろうかと思い嬉しくなった。
ミツキを感じながら、エルハムも腕を伸ばして、彼の背中に手を回した。
今、この瞬間がまだまだ続いて欲しい。
そう思った。
そして、エルハムは心の中で呟いた。
私はミツキが好きなんだ、と…………。
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