これくらい許してよ

卯野ましろ

これくらい許してよ

「あんたさ、一体どういう神経してんの?」

「は?」


 休日である今日は、お出掛けの日。親友は待ち合わせの場所にやって来た直後、私の前で怒りを露にした。


「というか、おはよ」

「はいっ、おはようございます。それでは本題へ移りましょう!」


 私はビシッ! と指差された。


「何であんたはさぁ!」

「はい」

「あたしと遊ぶときに、それをつけてくるの!」

「あー、これ?」


 私は左腕を上げた。手首はキラキラ。


「いーじゃん。私ね、このブレスレットお気に入りなの」

「だからって! 人に失恋を思い出させるようなことしないでよっ!」

「じゃあ今度からは自分で捨ててくださいね?」

「いや……もったいないでしょ、それは! 結構良いやつだよ全部!」

「変なとこ真面目……」

「うっさい! てかさ、あんた受けとるとき喜んでいるじゃん!」


 この真朝という女は、失恋すると必ず元カレからのプレゼントを私に押し付ける。しかも貢がれ体質なので、その量は毎回すごいことすごいこと……。


「あたしがいないときに使ってよ!」

「じゃあ、ほぼ使い道ないね。私ら、一番遊ぶ者同士でしょ」

「う……」

「てか私、結構色んなときに身に付けるし」

「……家族と出掛けるときとか?」

「うん」

「あたし以外の友だちと遊ぶときも?」

「うん」

「……あっそ」

「まずカフェに行こうか」

「紗綾……」

「はい?」

「……ごめん……」

「良いよ」




「じゃあね」

「うん、また明日」


 あっという間に空は真っ暗。楽しい時間は早く過ぎ去る。カフェで落ち着き、それから買い物して、天ぷらうどんを食べて(真朝はカツ丼)、また買い物に戻って……。


「はー、あんたと一緒にいると本当に楽しい!」


 今日も聞いた、その一言。いつだって世界一かわいい笑顔が添えられている。


 それなのに。

 ああ、それなのに。それなのに。


「紗綾が男だったら、もう既にあたしの恋人なのにね」


 軽く続けられた言葉。


 ああ、そうなんだね。私はあなたにとって、それ以上の存在には絶対になれないってことなんだね。一番の親友でストップされるんだね私。

 あなたが彼氏からプレゼントを貰う度に私の傷は増えたよ。それらは今、私のものになったね。正直、全部ぶち壊して捨てたかったよ。足に血が出るまで、歩けなくなるまで踏み潰してやりたかったよ。一瞬でも、あなたにとっての真の一番になった奴らの贈り物なんて。

 でも、それよりも素晴らしい使い方を思い付いたから良いや。


「人に失恋を思い出させるようなことしないでよっ!」


 何だかんだで、これが本日のハイライトかもしれない。

 帰り道、左手で涙を拭いながら真朝の怒った顔を思い出していた。そして少し笑った。


 私があなたの本当の一番になれないのなら、ちょっとは嫌な奴にならせてよ。これくらい許してよ。


 好きな子には意地悪したくなるんだよ。

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