俺の日常にファンタジーが突き刺さってきた その12

■□■□異世界3日目■□■□


■人妻、去る

・異世界3日目 8:30

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人妻はぴょんぴょん飛び跳ねながら帰っていた。


尚、ぴょんぴょんなんて可愛らしい擬音を使っているが

実際は、ひと跳びで15メートルほど跳び上がっている模様。


つまり15メートルの上下運動だ。スゲェ。


思わず「着地と同時に脚の骨がバッキバキになるんじゃね?」

という素朴な疑問が浮かんじまったが、その辺は大丈夫らしい。


なんでも【武具召喚】で召喚したロングブーツが、

脚への衝撃を優しくキャッチしてくれるんだと。


つーか、そもそもの話。

『15メートルぴょんぴょん』自体がロングブーツのスキルらしいぞ。


その名も【ごほうび】

【ごほうび】て。


世間一般では【ふみつけ】って言わね?(白目)


どこの業界の言葉だよ。

あ、正解は何となく分かるから、別にコメントで教えてくれなくてもいいぞ。


なにはともあれだ。


やっぱスゲェわ【武具召喚】(色んな意味で)

惚れてまいそうだぜ【武具召喚】(色んな意味で)


だがしかし。


そんなイケメンな【武具召喚】さんも、

完全無欠のヒーローではなかったみたいだぞ。


「ブーツに覆われてる部分は平気なんですけど

太ももの付け根部分とか、直に擦れる箇所が痛くて……」


真っ赤な顔で 股が痛いと 叫ぶヤツ。


何故そこまで赤裸々に語ってしまうのか(真顔)

羞恥に苛まれるくらいなら言わなければよかったのに(真顔)


そもそもアンタの股事情なんて聞いてねぇし。

つー訳で、無視することにしたった。スルーする優しさもあると思うんだ。


「あら、どうしたの?」


しかし何の因果か、槍BBAが食いついた。


マジかよ。テメェ正気かよ。

勘弁してやれよ。蒸し返すなよ。お前は鬼か。


「ヒリヒリ痛むの?」

「えっ……!あ、そうですね。ヒリヒリします……」

「よく効くお薬あるから使ってみる?スース―するけど」

「えっ……!あの」


困惑する多属性の返事も待たず

「ちょっと待っててね」と言い残し、奥へ姿を消すBBA。


”そのまましばらく帰ってくんな”

という俺の必死の祈りも空しく、1分くらいで戻って来たBBAの手には、1本のチューブ的な物体が握られていた。


それを受け取る人妻。


その後。

彼女は真っ赤な顔でトイレへと消えていったのだった。


トイレの中ではきっと――

いや、これ以上は語るまい。


そんなこんなでヤツは帰って行ったぞ。

でもきっと、すぐに本部から応援を引き連れて戻って来るんだろうな。


本部がKT-09地区らしいから往復で2時間くらいか?

微妙に遠いが、しっかり頑張ってくれよな多属性!(他人事)


さて、属性の多い客の顛末についてはこんなところだ。


つー訳で。

俺はペットをもふもふするだけの作業に戻るんだぜィ!


あ、でもその前にちょっと確認な。


「なぁ、お隣さんに肉のお裾分けしねぇの?」

「しないわね。その辺は全部農協さんにお任せするわ」


「隣近所くらい、直で持ってってもいいんじゃね?」

「嫌よ。どんだけ遠慮してもお返し持たされるんだもの」


「それこそ助け合いだろ。遠慮なくもらっとけば?」

「嫌よ。面倒くさい」


ここまで取り付く島がないと逆に清々しい。


「それに、先週みんなでコスティーコに買い物行ったから

きっとどのお宅も、冷蔵庫にお肉を入れる空きなんてないわよ」


なるほどな。

そういうことな。


だったら別にいいわ。

俺だって積極的に肉を撒きたい訳じゃねぇしな。


ただ最後にこれだけは言わせてもらいたい。


「つーか、コスティーコで買ってきたヤツ食わせろよ」


今でこそイノシシ肉があるものの、初日の食事はヒドかった。

冷蔵庫がパンパンになるくらい食いもんストックしてるんだったら、最初から出してくれてもよかったと思うんだ。


「賞味期限順」


おう。シンプルな言葉で一刀両断するのやめーや。




■狼の腹の毛は白いという話

・異世界3日目 8:50

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部屋に戻った俺を待っていたのは

沢山の「おかえりなさい!」と、スヤァ中のウィリアムだった。


ウィリアムたん、マジ寝坊助(ねぼすけ)たん。


正に「寝る子は育つ」だな。

伊達に3日でポニーまで育ってねぇわ。流石ウィリアムたん。


ただし仰向けだ。

真っ白い腹毛を惜しげもなく晒しながらスヤァ中だ。


[仰向け写真:腹側の毛は真っ白+もっさもさ (就寝中)]


つーかウィリアムよ。


部屋出ていくまでは普通に丸まって寝てたじゃん。

なんで戻ってきたら仰向けになってんだよ。


しかも「がうがうッ……」って寝言言ってるし。

口の横からデローンと舌がはみ出してるし。


美味いもんの夢でも見てんのかな?


だとしたら、ウィリアムたんマジ食いしん坊。

圧倒的ドリームフードファイター。寝ても覚めても腹ペコおばけ。


ホントに色々と残念なヤツだ。


折角のイケメンなんだから、もっとちゃんとカッコつければいいのにな。


だがまぁ折角の機会だ。

心ゆくまで楽しませていただきたいと思うんだゼィ!


何を楽しむかって?

んなもん決まってるよね。


仰向けのウィリアムにィ!

全力ダイブをォ!

お見舞いしてやるんだよぉぉぉ!


もちろん、スヤァ中のウィリアムに拒否権なんてねぇぞ。


恨むんだったら、魅惑のモフモフを無防備に晒しながらスヤァしている、自分の迂闊さを恨むんだなウィリアムゥゥ!


つー訳で、助走をつけて全力で踏み切ったった。


あーい!きゃーん!ふらぁぁい!


しばしの滞空。頬に感じる1月の空気は冷たかったが、

着地点の腹毛は、もっふもふのぬっくぬくだった。


ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……。

ウィリアムたんの腹毛しゅごいのぉぉぉぉぉぉ……。


俺の全力ダイブを受け、流石のウィリアムも目覚めたらしい。


切れ長の目をまん丸に見開いて、キョロキョロと辺りを見渡している。


焦るウィリアム。

或いは襲撃と勘違いして、警戒しているのかもしれない。


”なんだろ!なんだろ!”と、言わんばかりのキョロキョロっぷりだ。


そうこうしてると、首だけ起こしたウィリアムとガッツリ目が合った。


ここでようやく腹の上の俺に気が付いたらしい。


「おはよウィリアム」

「ガウガウッ!」


挨拶したら、食い気味に返事されてしまった。


さしづめ”なんでー!ご主人様なんで俺のお腹の上に居るのー!なんでー!”って感じかな。チョーかわいい。


じゃけん、そんなカワイコちゃんはモフモフしたりましょーねー。


さらふわな胸毛に両手を差し入れ、かき混ぜるようにわしゃわしゃする。


フハハハハ。よいではないか。よいではないか。

気分はもう悪代官のそれだ。悪ノリとも言う。


そんな俺のわしゃわしゃ攻撃を受けたウィリアムたん。

”やーめーてー!やーめーてーよー!”と言わんばかりに、クネクネと身を捩らせ始めた。


うん。

当然スグにわしゃわしゃ停止したよね(真顔)


嫌がる事を強要しちゃダメだからな。

非常に残念だが、胸毛にうずめていた手を引き抜いた。


直後。再び首だけ起こしたウィリアムと目が合った。


異様にションボリした表情で

”もう終わり?”というオーラを発している。


うん。

当然スグにわしゃわしゃ再開したよね(笑顔)


すると、再び”やーめーてーよー!”と騒ぎ出すウィリアム。


あー、うん。

多分コレあれだろ。


嫌がってる訳じゃなくて、単に甘えたいだけだろオマエ。


ハハハ、コヤツめ。

なかなか小癪な事をしおってからに。ハハハ。


おし。そんじゃ一切手加減せずにホンキでやりまーす(歓喜)


つー訳で。

この後、胸毛と言わず腹毛と言わずムチャクチャもふり倒してやった。



かれこれ10分以上は戯れていたと思う。


にもかかわらず、相変わらずノリノリのウィリアムたんマジタフネスボーイ。


全く疲れた様子もなく、元気一杯クネクネクネクネ身を捩っている。


でもご主人様はそろそろ限界です。

正直メタメタ疲れました。


日頃の運動不足が祟ったのか、もう腕がパンパンですねん。


不甲斐ない主人でスマン。

心からお詫び申し上げたい。マジでスマン。


だからそんなキラキラした目でコッチ見んといて。

もう無理やねん。堪忍してほしいねん。


つー訳でだ。

ちょっと強引な手段だが、もふもふタイムを終了させることにした。


”まだかな!わしゃわしゃの続き、まだかな!”

と、目をキラキラ輝かせるウィリアムたん。マジでシャイニング可愛い。


そんなウィリアムたんの頭部に向かって手を伸ばすと、ピンと立った両耳を鷲掴んだ。


”む!なんだ!耳つかまれた!今度はなんだ!”

新しい遊びと勘違いしたのか、目に見えてウィリアムのテンションが上がった。


そんなイケメン狼に

俺は残酷な現実を告げたのだった。


「ハイ。耳つかまれたからウィリアムの負けー。

ウィリアム負けたから、わしゃわしゃもお終いだぞー」


ウィリアムは1回だけパチクリと大きく瞬いた。


直後。

”えーーーーーーーーーーーっ!!!”

と言わんばかりに、口をパッカーンと開いて固まった。


うん。そらそうだよな。


だって、意味分からんもんな?

寝耳に水もいいとこだよな?


でも俺にはこうするしかなかったんだ。


『腕パンパンになったから、もうヤダ!』

なんてクッソ情けない発言を、お前たちに聞かせたくなかったんだ。


だからスマン。

ここはおとなしく敗北してくれウィリアム。


頼む。

後生だぞ。

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