俺の日常にファンタジーが突き刺さってきた その11

■□■□異世界3日目■□■□


■言わせんじゃねぇよ恥ずかしい

・異世界3日目 7:30

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人妻が静かに燃えている。

もちろん槍的な意味ではなく、熱意的な意味で。


人妻の主張を要約すると

「大変な時だからこそ、地域コミュニティを活性化し、お互いに助け合おう!」

って感じだった。


確かに一理ある。


だって、絶賛日本崩壊中じゃん?

遠出しようにも足がない。連絡を取ろうにも通信手段がないって状況じゃん?


そういった諸々を含めて考えてみると

”ご近所同士で助け合う”

ってのは、かなり筋が通った意見だと思うんだよ。


けど、「さぁ助け合え!」と煽ったところで

「はい!喜んで!」って動くヤツが居ると思うか? いや居る訳がない(反語)


”じゃあどうするべきか?”

ってところで、JA内政争が起こったらしい。


トップダウン派閥は性悪説。

「大きな権力を使って、強制的にやらせるべき!」って主張だな。


逆にボトムアップ派閥は性善説。

「自ら率先して動けば、きっと皆もやってくれるはず!」って主張だな。


今回の訪問も、ボトムアップ派閥の活動の一環らしいぞ。


人妻曰く。

食うに困った地域住民どもに、ウマいもんを撒いてやりたい。

とのことだ。


で、我が家の肉に白羽の矢を立てたと。


なるほどなー。

つー訳で。


「まぁ、余った分なら持ってっていいスよ」

「マ、マジですか……!」


うん。マジですよ。

もってけもってけ。遠慮はいらんぞ。


あ、やっぱ嘘。流石に多少の遠慮は求めるわ。

根こそぎ持って行っちゃダメなんだぞ。


「ホ、ホントに持ってっちゃいますよ……?」

「ウッス」


「ぜーんぶ配っちゃうんで、後から”返して”って言われても返せませんよ……?」

「言わないッス」


ここで突如人妻が立ち上がった。

で、何やらふにゅーっとした表情でこんな事を言い出した。


「でも、うまくいかないかもしれません……!。

頂いたお肉を、ただばら撒いただけで終わっちゃうかも――」


まぁ、聞き捨てならなかったんで、途中で遮ったんだけどな。


「1回でダメなら、10回でも100回でも繰り返し撒きゃいいんスよ。

そしたら、そのうち協力してくる人も出てくるんじゃないッスかね?」


そもそもだ。

「腹ペコ救済」の方がメインなんだし、肉ばら撒いた時点で目的達成だろうが。


”ご近所助け合い運動”の方は

「広まってくれたら更にラッキー!」

くらいのゆるーいスタンスでいきゃいいじゃん。


少なくともふにゅーっとした表情で悲観するようなことじゃない。


特にうちの近所なんて、80オーバーの真・BBAがゴロゴロ生息してるからな。


アイツら基本的にカップ麺や冷食なんて食わねーから、多分スグに食糧難に陥るぞ。


ばら撒き甲斐のある地域だろ?

大いに喜ぶがいいぞ多属性人妻よ。


「まぁ、思う通りやってみたらいいんじゃないスか?」


つーか、いい加減察してくれや。


俺、嫌がってるように見えるか?

全く嫌がってねぇだろ。


余った肉を提供するって言ってじゃん?

つまりはそういう事なんだぞ。


にもかかわらずだ。


この期に及んで尚、代金がどうとか、俺にメリットがないとか

んな事でウジウジする人妻。ややウゼェ。


そんな暇あったら、とっとと肉ブン獲って帰れよ。

どこまでポンコツなんだよこの多属性。


人妻と見つめ合う事しばし。

ニブ過ぎる人妻も、なんとなく雰囲気を察したらしい。


伺うような、縋るような、

でも、どこか期待を滲ませた視線で見つめられた。


その視線にちょっとだけドキッとしてしまった我が身の不甲斐なさよ。


「な、何度も配るとなると、食材の用意が間に合わないですよ……?」

「俺は用意できるッスけどね」


”用意できる”んじゃなくて”ペットたちに頑張ってもらう”ってのが正解だが、んなもん些細な問題だ。


「わ、私にそんなこと言っていいんですか?

もしかすると、ま、またオネダリに来ちゃうかもしれませんよ……?」

「まぁ、そん時はそん時ッスね」


ここに至って、ようやく俺の言いたい事を察したらしい。


輝かんばかりの笑顔で「ありがとうございます!」とお礼を述べるその姿は

指輪してなかったら、思わず恋に落ちちゃうくらい可愛かった。


立派な事をやってんだから、胸を張れ多属性。

あ、もちろんエロイ意味じゃねーぞ?




■BBAちょっと黙れ

・異世界3日目 7:30

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うちで消費する分として50kgほど手元に残し

残りは全部くれてやることにした。


手元に残し過ぎ?


馬鹿言うな。

ウィリアムたんチョーデッカくなったんだぞ。ポニーなんだぞ。半分はウィリアムが平らげるわ。


配る分の肉残ってるのかって?


馬鹿言うな。


あるわ。50kgなんて誤差だわ。

チョー巨大だつってるだろ。軽く数百kg残ってるわ。或いはトン超えてるわ。


つー訳で多属性。気合い入れて持って帰ってくれよな!

冷凍庫 (元キッチン)の前でポカンとしてる場合じゃねぇぞ!


「この辺にあるヤツ全部持ってっていいッスよ」


なかなか動き出さない人妻にそう告げると、なぜか背後から返事が聞こえた。

唐突なBBA乱入イベントである。


「アンタが運んであげなさいよ」


ママンちょっと黙っといて。

しゃしゃり出てきたらアカン。


住所聞いたらKT-07だったの。ちょっと遠いの。


「あ、そこまでしていただく訳には……ッ!

ただ、こんなに沢山いただけるとは思ってなかったので、一度本部に戻って応援を連れてきてもいいですか?」

「ウッス。うちは全然構わないスよ」

「アンタが運んであげなさいよ」


お願いママン。5分でいいからどっか行ってて。


しかしそんな俺の願いは叶わなかった。

つーか、BBAが止まる訳がなかった。チクショーが。


「折角だから、お肉持って行ったついでに挨拶でもしてきなさいよ」

「ちょっと黙ってろBBA」


「シバちゃんのカバン使えば運べるでしょ?」

「俺、今大事な話してっから」


「関わるって決めたんなら、ちゃんと最後まで付き合いなさい。

そういう半端な事、お母さん大嫌い」


大嫌いとか言うのやめーや。

何か俺がスゲェ悪い事してるみたいじゃねぇか。


そんな俺らの様子をみて、人妻がわたわたし始めた。

例によって例の如く、とりとめもない事をワーワー喋ってたので割愛するが


・もう十分に助けてもらったので、これ以上の助力は心苦しい

・あくまでも「自発的な助け合い」を広めたいので、無理を強いる事はしたくない

・それに無理強いから始まった活動は、いずれ破綻する


的な事をBBAに向かって訴えてたっぽい。

BBAも珍しく黙って話を聞いていた。


で、人妻の話を聞き終わった後の第一声がこれだ。


「嫌がってる訳じゃないのよ。

ただ極度の人見知りだから、照れてるだけなのよその子」


マジ勘弁。

うぉぉい。BBA。ちょっと、うぉぉぉい。


しかし空気を読まない事にかけては、世界クラスのBBAだ。

ウンザリしたようなタメ息を吐いた後に、続けてこう言った。


「お肉持ってお宅にお伺いすると、大げさに感謝されると思って照れてるのよ。

面と向かってお礼言われたりするの、スゴく苦手だからこの子」


うぉぉい。BBA。ちょっと、うぉぉぉい。

これ以上の暴言は許し難い。頼むから勘弁しろ。


「照れてねーし。歩くのダルいだけだし」

「嘘おっしゃい」

「嘘じゃねーし」

「嘘よ。だってさっきからウッスウッス言ってるじゃない」


ウッスウッスなんて言ってねぇわ。

仮に言ってたとして、それで何が分かるってんだよ。


「それが照れてるサインなのよ。

お父さんと全く同じ照れ方よそれ」


なん……だと……?


「非常時なんだし、なるべく色んなところに伝手を作っときなさい。

この先どうなるか分かんないんだから」

「だが断る」

「……」


天罰は速やかに下された。


いや嘘です。伝手作ります。

だから槍下げてもらっていいッスかねお母さま。


せめて穂先の炎だけでも鎮めてお願い。

前髪コゲちゃいます。僕の前髪コゲちゃいますってば。


必死の祈りが功を奏したのか、何とか危機は脱した。

具体的に言うと槍を引き下げてもらえた。


なんちゅー物騒なBBAだ。

でもいい気でいられるのも今のうちだからな。

いつか覚えてろよクソが。


やはり天罰は速やかに下された。


いや嘘です。ちょっとした反抗期ジョークだったんです。

やだなぁママン。本気にされちゃ困りますよぉ。


だから再び槍をお下げくださいお母さま。前髪が、前髪がぁぁ。


必死の祈りが届いたのか、今回も辛うじて危機を脱することができた。

マジで油断も隙もねぇ。隙あらば槍。どういう事だよ。


でも今は、お肉集めの方を頑張りたいと思ってるので

挨拶は後日改めて伺うってことでいいですよね?


「……」


お母さまは無言だった。

しかし槍を突き付けられなかったので、恐らく「好きにしろ」という事なのだろう。


まぁ、湯のみに槍先ブッ刺して

吹雪!⇒火炎!⇒お茶完成!

とかやっちゃうファッキンBBAには逆らえんわ。


でも、本気でいつか覚えてろよコンチクショー。

あ、いやもちろん嘘ですよ。嘘。


やだなー。お母様ってば。ウフフ。

コノヤローが。

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