俺の日常にファンタジーが突き刺さってきた その10

■□■□異世界3日目■□■□


■人妻は複数の属性を持っているという話(2つの意味で)

・異世界3日目 6:20

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客はリビングに居た。


幼い顔付きながら、相当の美人。

身体つきも小柄で、身長は精々150cmくらい。


全体的に幼い感じのくせに胸はデカい。とてもデカい。

左手薬指に銀の指輪をはめてるところを見ると、どうやら既婚者らしい。


一言でまとめるぞ。


俺を訪ねてきた客は

”ロリ巨乳の美人幼な妻”だった。


……。


いくら何でも属性盛り過ぎじゃね?


何なのお前。

もしかしてエロゲから抜け出してきたヒロインとかなの?


あ、ちなみに言っとくが

俺と人妻、これが初対面だからな。


再び、何なのお前。


”リビングのドアを開けると、そこには可愛らしい人妻が座っていた”

的なエロゲでも始めたいの?


どうかと思います(真顔)


更に言えば、今、朝の6時17分だぞ。

まさに早朝。ジャスト早朝。いくらなんでも早すぎだろ。


もしかして、常識がちょっと足りないタイプなのか……?


正直、回れ右してお部屋に帰りたかった。

でも、客として招いちゃってる以上、放置するわけにもいかねーじゃん?


つー訳で、警戒しつつリビングに入ったんだよ。


すると、それまで大人しく座っていた人妻がいきなり立ち上がった。マジビビった。


「あ、あにょ……ッ!」


あにょ……?

もしかして噛んだのか?


バッキバキに緊張した様子の人妻は

前屈レベルのお辞儀を披露したかと思うと、続けてこう言った。


「は、はじめましゅて!私、佐倉っていいまひゅ!!」


自己紹介でも噛んだ。

しかも、一息で二度も。


え、まさかアンタ「ドジッ娘」なのか?

だとしたら、どれだけ属性持ってんだよ。


流石にそろそろ勘弁だろ。

多属性人妻とか、ジャンル尖り過ぎだってばよ。


尚、実際に話してみると割と普通の人だった。

ちょっとアレな人かな?と思ったけど割と普通(2回目)


だけど多属性人妻の方は、誤解でも何でもなく多属性だった。


どうでもいいが「多属性人妻」も相当なパワーワードだよな。

流石に恥ずかしくて口には出せねぇけど。


あ、最後になったが一応書いとこ。

ようこそ我が家へ。一応歓迎するぞ。




■人妻ってスゲェ

・異世界3日目 6:35

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それにしてもこの人妻

何の用事があって俺を訪ねてきたんだろ。


まさかの一目惚れかな?

俺のイケメンフェロモンにやられちゃったのかな?


とか思ってたら

多属性人妻がテレながらこんなことを言った。


「ブログを拝見しまして、これは是非お会いしたいなって思いまして」


あー……うん。

だよな。分かってた。


オーケーオーケー。想定内。

じゃなきゃ、こんな美人が訪ねてくる訳ねーもんな。


分かってた。

そうじゃないかと思ってた。

分かってたんだよ。


気持ち切り替えていこう。


それにしてもよく俺の家がわかりましたね?


「えっと、ブログを何度も読み返してみたら、

なんとなーくこの家じゃないかなーって思ったんです」


公開した覚えのない住所を特定するのやめーや。


どういうことだよ。

わけがわからないよ。


あ、もしかして

公開している念力写真(略して念写)に、地図でも写り込んでたのか?


そんな馬鹿な。


俺の念写は100%ペットだぞ。オンリーMOFUだぞ。

地図の入り込む余地なんてどこにもねぇわ。


どうにも納得できなかったんで、更にツッコんで聞いてみた。

そしたら驚愕の事実が判明した。


人妻曰く。


「ライオンの予想進路が書かれてたので

そこから逆算して、大体の場所を推測してみました」


ふむ。なるほどな。

さっぱり分からん(真顔)


あー……もしかしてだが。

「明日か明後日」に「KT-19、KT-20地区」の電柱が消える。

って書いた日記の事を言ってんの?


だとしたら軽くホラーなんだが。

こんなクソ情報から、うちの住所を逆算できる訳ねぇんだが。


マジでどうやったんだよアンタ。


メッチャ気になったので


「よく分かったッスね」

※意訳:どうやって割り出した


褒め言葉を建前に疑問をブン投げてみたが、華麗にスルーされたわ。

つーか、建前を真に受けたっぽい。


頬を赤らめながら必死に謙遜する人妻の姿を見て

こりゃ聞き出すは無理だと早々に諦めた。


ちなみに、ライオン進路情報以外にも

大小合わせて20個くらいの要素を組み合わせて推理したらしいぞ。


「1つ1つは何てことない情報なんですけど

組み合わせて考えてみたら、何か特定できちゃいました」


そうか。

できちゃったのならしょうがないな。


人妻ってスゲェ。


尚、早朝に突撃してきた理由については

「うかうかしてると誰かに先を越されるかと思って」

という、極めて無用の心配に起因するものだった。


越されねーよ。




■初対面でヒャッハー!はどうかと思います

・異世界3日目 6:40

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このブログは俺の日記であって

多属性人妻の観察日記じゃない。


つー訳で、遅くなったがこっから本題だぞ。


人妻はJAの人だった。

JA。正式名称を農業協同組合。俗にいう農協さんってヤツだ。


もらった名刺を見ると「営農サポート課」とある。


うむ。全く分からん。

なのでダイレクトに聞いてみた。


「農協さんが俺に何の用ッスか?」

「実は、こういうプロジェクトがありまして」


そう言って、人妻はカバンから1枚のパンフ(何故か手書き)を取り出した。


手渡されたので、目を通す。

パンフにはデッカい文字で、こんな事が書かれていた。


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日本をヒャッハー!から救おう!

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うむ。全く分からん(2回目)

なのでダイレクトに聞いてみた(2回目)


「えっと、もしかしてふざけてます……?」

「えっ!?ち、ち、違います!ふざけてません!私は至って真面目です!」


つーことはアレか。

アンタは大真面目に「ヒャッハー!」とか書かれたパンフを初対面の俺に見せたってことか。


「どう見ても真面目には見えねぇんスけど」


テーブルの上に置いたチラシ(「ヒャッハー!」の部分)を

指でコツコツ叩きながらそう告げると、人妻はギョッとした様子を見せた。


「も、もしかして……お気に召さない感じですか?」

「そんな感じッスね」


「も、もしかして、ヒャッハー!が気になっちゃう感じですか?」

「そんな感じッスね」


「水瀬くーんッ!!」


何だ何だ。いきなりどうした。

水瀬君って誰だよ。


取り乱す人妻。

急にワタワタし始めたかと思うと


「違うんです!実は私は反対してたんです!

あ、結局最後は私も賛成したんですけど、でも、とにかく違うんです!」


うむ。全く分からん(3回目)

なのでダイレクトに聞いてみた(3回目)


「何を反対してたんスか?」

「あ、えっと……。ヒャッハー!です。

私はヒャッハー!反対派だったんです」


ヒャッハー反対派とかいうパワーワード。

まぁいい。今は捨て置こう。


「でも最終的には賛成したんスよね?」

「はい……。なので水瀬君を責めるのはお門違いでしたね……」


そう言って口ごもる人妻。


どうやら、ヒャッハー!発起人である水瀬君に

責任を被せようとした件について反省しているようだ。


「ちなみに、その水瀬って人はどんな事言ってたんスか?」

「水瀬君が言うには

”男子高校生にはこういうノリが受ける”とか

”お堅いお題目ばっかり並べ立ててもハートにビンビン来ない”とか

”整合性よりもフィーリング”とか、色々アドバイスしてくれました。

最初はどうかなって思ってたんですが、水瀬君のプレゼン聞いてるうちに

私もだんだんそうなのかな?って思えてきちゃって……」


水瀬君の発想が、異様にチャラい件について。


でも、そういうノリって内輪で楽しむものであって

おいそれと外に出していいもんじゃねぇだろ。


見ず知らずの他人から、いきなり「ウェーイwww」されても

同じテンションで「ウェーイwww」とは返せねーわ。


「ちなみに、お堅いお題目ばっかり並べたパンフとかも用意してるんスか?」


ションボリと黙りこんでしまった人妻に、コチラから水を向けてみる。


「はい、ちゃんとしたパンフも用意してます」


そう言って、人妻はカバンからもう1枚パンフを取り出した。


そしてテーブルの上に置いたままだったヒャッハー!パンフの上に重ねた。

この人妻、しれーっと黒歴史を封印しやがった。


ちゃんとしたパンフには、こんなタイトルが書かれていた。


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これから起こるであろう食料危機への対策について。

~今こそ上げよう!日本の食料自給率!~

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なるほどJAらしい。


……。


え?

これから食糧危機起きんの?





■日本ピンチ

・異世界3日目 6:55

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モンスターって実は草食らしい。


畑に入って白菜むしゃむしゃ、

別の畑の大根むしゃむしゃ。


とか言いつつ

モンスターってやっぱ雑食らしい。


白菜だけじゃなくて、牛さんもむしゃむしゃ。

大根だけじゃなくて、鶏さんもむしゃむしゃ。


そんな感じで

日本各地のモンスター共がむしゃむしゃしまくった結果


現在、日本の農業が半壊してるらしい。


ちなみに、空を見上げれば「しゃげーっ!」海を見渡せば「ぐおーっ!」の現状。

飛行機も船も怖くて出せたもんじゃねぇから、輸入も絶望的らしい。


つまり日本の食がピンチってことだ。

ただ、人妻曰く「今すぐに食い物が無くなる」心配はないらしい。


大抵の家庭には米、缶詰、麺類とかが常備されてるだろうし

いざとなれば国の備蓄米もあるから、しばらくは大丈夫なんだと。


ただ逆に言えば、このまま何の対策も打たずにいれば

そのうち食料が底を尽くってことだ。


「なので、これは一大事と思いJA職員の中から有志を募って

食料問題をサポートする団体を立ち上げたんです」


カッコイイことを言いつつ、キリッとした表情を見せる人妻。

人数を尋ねたところ、現在構成員は7名らしい。7名て。


「えらい少ないッスね」


思わず本音を口に出すと、人妻の眉根が寄った。


何でも、宣伝用の【ブログ】を作って募集かけてるが

全く人が集まらないらしい。


「JA職員にみ【ブログ】スキル持ってる人がいなかったんで

ご近所に住むヨミコさんの【ブログ】を間借りしてまで作ったんですが……」


ちなみに、ヨミコさんは大変ご高齢な婦人らしく

【ブログ】の間借りをお願いした当初は「私は機械は分からんから!」とかなり渋っていたらしい。


【ブログ】は機械。

お年寄りの感性は独特だ。


まぁ、そんなことはどうでもいい。

今大事なのは、人を集められなかったJA職員が、なぜ俺を訪ねて来たかってことだからな。


察するに全く人が集まらなかったから

直接勧誘しに来たって事なのかね。


だとしたら色々と話を聞いてみないことには決めらんねぇわ。

つーわけで、ひとまずは


「で、具体的にはどんな活動する団体なんスか?」


当たり障りのないところから質問してみた。


7名とはいえ団体を立ち上げたんだ。

これが決まってないことなんて有り得まい。


「それを決める為、現在派閥に分かれて論争中です」


いきなり内部分裂してんじゃねーよ。

そう思った俺は悪くないと思うんだ。


「ちなみに、どんな事で揉めてるんスか?」

「えっとですね、私たちはトップダウン派閥とボトムアップ派閥って呼んでるんですが――」


人妻の話がチョー長かったのでビシバシ端折るぞ。


・トップダウン派閥

⇒国に働きかけ、権力を使って一気に問題を解決しようという一派。

多属性人妻の旦那さんはこっちの派閥らしく、現在夫婦間でバトル中らしい。


・ボトムアップ派閥

⇒まずは自分たちに出来る事からコツコツ始めようという一派。

その一環として、ペット達の肉調達能力に目をつけ、俺を訪ねて来たらしい。


ザックリ分けるとこんな感じだな。


「地域振興のため、ご家庭で消費しきれなかった分のお肉を

おすそ分けして頂けないかと思い訪ねて参りました」


再びキリッとした表情でそんなことを言う人妻。

その瞳には、決意の炎がメラメラを燃え滾っていた。


うむ。こういう熱さは嫌いじゃねぇな。


色々とポンコツっぷりが目立つ人妻だけど

コイツ結構イイヤツみたいだな。

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