俺の日常にファンタジーが突き刺さってきた その8

■□■□異世界2日目■□■□


■おやすみモード (但し全員が休んでいるとは言っていない)

・異世界2日目 12:00

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肉をたらふく食った後。

「ちょっと腹ごなしに散歩に行ってくるわね」と言い残してBBAが旅立った。


その手に真紅の槍を携えて。

武将かよ(真顔)


ちなみに俺は、庭先ではしゃぐペットたちを眺めながらゆったりと過ごしたぞ。

俺って、食後にすぐ動くと横腹が痛くなっちゃうタイプだからな。


べ、べ、べ、別にひ弱ってわけじゃねぇぞ。

そこそこ力あるしな俺。パイプ椅子なら一気に3脚くらい持てるし。


それに万が一ひ弱だったとしても別にいいんだよ(開き直り)

だって俺には頼れるペットがいるのだから。


そんな頼れるペットの皆様なんだが、現在は庭でリラックス中だ。


戦士たちの休息。

鬼の居ぬ間に英気を養ってもらいたいもんだぜ。




■狼兄弟の場合

・異世界2日目 13:10

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ウィリアムがエドガーを「たかいたかい」してやっている。

コイツらチョー仲良し兄弟。萌える。


あ、「どうやって狼がたかいたかいすんだよ」と思ったヤツいる?


ごもっともだ。俺も同感だ。

けど実際に出来ちゃってんだよなーコレが。


詳しく解説するとだな


・エドガーの首根っこをくわえる

・そのまま首のスイングだけでエドガーを真上へ放り投げる

・エドガーが地面に激突する直前に、首根っこをジャンピングキャッチ


以下エンドレスループ。


エドガーは「ガウッガウッ!」と終始ご満悦だ。とてもかわいい。

ウィリアムも心得たもので、全力でエドガーをぶん投げまくってたぞ。


ただな、この「たかいたかい」

字面通り、チョー高いねん。


最高高度は余裕の屋根超えだ。

少なくとも10メートルは飛んでる。


エドガーがスッポーン!と宙に射出される光景を初めて見たときは

正直、度肝を抜かれたわ。


思わず「エドガァァァ!」って叫びながら、

全力疾走で駆け寄っちまったもんな。


まぁ、結果は既にご存知の通りだ。


俺がまさに現場に到着しようとしたその瞬間

ウィリアムが普通にジャンピングキャッチしやがった。


……。


その時の俺の心境が分かるか?


ホッとするやら、

脱力するやら、

槍で突かれたように横腹が痛いやら。


「ガウガウッ!」

”なになに?ご主人様オレのこと呼んだー?”


しっぽをフリフリさせながら寄って来たエドガーを、とりあえず全力でわしゃわしゃしてからスゴスゴと縁側まで退散したぞ。


ご主人様たるもの、動揺した姿をペットたちに見せる訳にはいかねーからな。


[狼写真: 名前を呼ばれて嬉しそうに寄って来るエドガーたん (かわいい)]


しっかし肝が冷えたわー……。


今後は、もうちょいマイルドな感じで遊んでくれると嬉しいかなーって

ご主人さまは思いましたぞ。




■シバたちの場合(工兵コンビ)

・異世界2日目 13:15

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無邪気に遊ぶ狼兄弟とはうってかわって、シバたちは自主練っぽいことをやってた。

コイツらチョー真面目だな。


訓練は工兵、補給兵、衛生兵に分かれて、それぞれやるらしい。

そんじゃ順番に紹介していきたいと思う。


まず最初はシバ丸、シバ吉の工兵コンビからな。


こいつらの訓練は、ズバリ「武器の素振り」だった。

ひたすらスコップをブンブン振り回してた。


「え、スコップで素振り?」

と疑問に思ったあなたはきっと正しい。


穴を掘るでもなく、土を固めるでもなく、素振りをしちゃう。

という謎のセンス。大いに評価していきたいと思う。


つっても実際には

”スコップを振ってる”ってより

”スコップに振り回されてる”って有様だったけどな。


もうちょい具体的に描写すると


シバ丸がスコップを振りかぶる。ふらふらする。シバ吉が助けに入る。

助けてもらったお礼にペコリとお辞儀する。うむ。かわいい。


つづいてシバ吉がスコップを振りかぶる。

案の定ふらふらする。慌ててシバ丸が助けに入る。


あ、支えきれずに倒れた。


でもすぐに立ち上がって


「わふっ!」

”巻き込んでゴメンね!”


「わふっ!」

”いやいや助けれなくてゴメンね!”


と、お互いにペコペコお辞儀し合ってた。なるほど。どちらにせよかわいい。


終始、訓練はこんな感じのグダグダ進行だったが

見てるだけで心がホッコリ温まった。


[工兵コンビ写真: 素振りする2人 (ふらふら)]

[工兵コンビ写真: ぺこぺこする2人 (かわいい)]


今後もめげることなく頑張ってくれると嬉しいぞ。




■シバたちの場合(補給兵コンビ)

・異世界2日目 13:20

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つづいてはシバ助、シバ太の補給兵コンビなんだが、

コイツらは何やら不思議な事をしていた。


まずポジションなんだが、2人仲良く並んでる。

で、さっきから延々とお互いのカバンの中身を交換し合ってる。


どういう事かっつーと


まず、シバ助がカバンから木の枝を出して、シバ太に渡す。

受け取ったシバ太は自分のカバンに木の枝をしまう。


そして、お互いに見つめ合いコクリと頷き合う。かわいい。


今度はシバ太がカバンから庭石を取り出して、シバ助に渡す。

受け取ったシバ助は自分のカバンに庭石をしまう。


そして、お互いに見つめ合いコクリと頷き合う。かわいい。


延々とこのループだ。


楽しいのかそれ?

どう見ても楽しそうには見えねぇんだが……。


しかし2人の表情は真剣そのものだ。

つまりシバ助とシバ太は何かに一生懸命なのだ。


と、ここでピンときた。


もしかしてコレって

俗に言う「スキル上げ」的なヤツだったり……?


ホラ、オンラインゲームとかでよくあるじゃん。

延々と同じスキルを使い続けるとレベルが上がるヤツ。


今回はカバンのスキル上げだから、

延々と出したり入れたりを繰り返してるとかじゃね?


そうだとしたら期待大だ。

そろそろ「ぱぱらぱぱっぱっぱー」のファンファーレが鳴るかもしれねぇぞ。


レベルアップしたらどうなるんだろな。


シバ助たちの身体能力が上がるのか?

それとも、カバン自体の性能が上がるのか?


そんな期待を胸にしばらく眺めてたんだが

結局、最後までファンファーレが鳴ることはなかった。


まぁ”キリッとした表情で作業するシバ”

というレアシーンが見れたんで、俺的には大満足だったんだけどな。


普段愛嬌あるヤツが、たまに見せる「凛々しい表情」って何か良くね?


[キリッ写真:シバ助がキリッ (かっこかわいい)]

[キリッ写真:シバ太もキリッ (かっこかわいい)]

[キリッ写真:2人でキリッ (かっこかわいい)]


良くね?




■シバたちの場合(衛生兵シバ山!)

・異世界2日目 13:25

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オオトリを飾るのは、我が家で唯一の衛生兵であるシバ山だ。

コイツは薬作りをしていた。


スコップで素振りだの、エンドレス交換会だのに比べて、非常に分かりやすい。

ご主人様は大変満足しておるぞ。


ただ、やってること自体は一番ファンタジーだったりする。

どういう事かっつーと


薬箱を開ける。中から空きビンを取り出す。

で、それを両手で握って天に掲げる。


恐らくここまでが下準備だ。

ちなみに3回に1回くらい失敗してワタワタしている。


無理もねぇか。肉球で空きビン掴むの難しいもんな……。


で、無事にビンを掲げる事ができたら、

いよいよ薬作りの本番だ。


ビンを掲げたまま、小声で「ワフワフッワフ……」と呟く。

時間にして10秒くらいかな?


最後にビンがピカッと光って、中に赤い液体が満ちていれば完成だ。


わーお。

ファンタズィィィィ。


ちなみに、薬作りも毎回成功する訳じゃなくて

シバ山の場合2回に1回くらいの成功率だ。


成功した時はピカッと光って赤い液体が生成されるけど

失敗した時は黒い煙がモワッと出るだけで、赤い液体が生成されないみたいだ。


煙が出る度に耳をペタッと寝かせて項垂れる姿は、見てるこっちが辛かったわ。


[製薬中写真: 空きビンを天に掲げるシバ山 (かわいい)]

[製薬中写真: 空きビンがツルーンッとすっぽ抜けた時のシバ山 (わたわた)]

[製薬中写真: 無事、薬が作れた時のシバ山 (きらきら)]

[製薬中写真: 無念。薬作りに失敗した時のシバ山 (ションボリ)]


それでも、最終的には薬箱いっぱいの薬を作れてたみたいだぞ。


「わふっわふっ!」

”ご主人さま、見てください!全部オレが作ったんですよ!”


としっぽをフリフリさせてならが自慢しに来たので、

労いの意味も込めて頭をぐりぐりしてやった。


平和な昼下がりだった。




■家庭内暴力(カツアゲ)

・異世界2日目 15:10

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深紅の槍を携えて出立された戦士様が、

蒼白の槍を構えて帰宅された。


ちょっとよく分からないですね。


何なに何なの。どういうことだよ。

なんで行きと帰りで槍の色が180度違うんだよ。


よくよく見てみると、穂先で吹雪が渦巻いているのが分かった。


間違いない。

これは間違いなく氷属性的なアレですわ。


俺はその事実に戦慄した。


どういうことだ。お前火属性じゃなかったのかよBBA。


今まで隠してたんだろうか。

でなければ散歩中に氷属性に目覚めたとでもいうのか?


ってか、そもそも

新属性って「腹ごなしのついで」とかで覚醒するもんなのか?


それとも、ただ単にうちのBBAがチートすぎるだけなのか?


唖然としてBBAを眺めていると


「ちょっと家の中入ってくれる?」

「家ん中?」

「キッチンまでお願い」


キッチンに誘われた。


「今、忙しーし」と一応の抵抗を試みたものの、

それに対するBBAの返事は、言葉ではなく槍だった。


具体的に言うと、

今僕はお母さんに、槍を突き付けられております。


うひゃ。


あ、はい。キッチンですね。

もちろん今すぐ向かいますとも。


せめてもの反抗として

極めてノロノロした足取りで俺はキッチンへ向かった。




そうして辿り付いたキッチンのドアを開けると――

そこは雪国だった。




母はキッチンの中ほどにある椅子に座っていた。

右手に槍を持つ雄々しき姿は、さながら古強者の戦国武将といった風情がある。


先程まで穂先を舞っていた吹雪は、今やキッチン全体を包み込んでおり

なるほど、これがキッチンを雪国たらしめた原因に相違あるまい。


吐く息は凍り、両瞼(りょうまぶた)に霜が降りる。

事ここに至って、私(わたくし)は「あぁ、凍えておる」と自覚することが出来たのだった。


そんな時だった。


冴えわたる極寒の地に座す母の口から

こんなセリフが飛び出したのは。


「じゃ、出しなさい」


何を?と応ずれば

母は一度パチクリと瞬きをした後、更に言葉を重ねた。


「あの、おいしいお肉よ。半分でいいわ」


なるほど、母は上納を求めておられるとみえる。


その無慈悲な要求を受け、

私(わたくし)はただただ途方に暮れるのでありました。




正直……。

家庭内でカツアゲされるとは思ってなかった。


こんなの絶対おかしいよ。



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