第2話 『夏』

 『墓参り今日は自分が墓の中』


 まあ、やましんが、へたくそな句について、何をか言わん、ですが、『明日』じゃなくて、『今日』としたところが、ミソではございます。


 もう、はるかなはるかな昔、戦争もまだ、実際、人びとの記憶の中に、どっしりとした固まりになって、たくさん残っていた時代。


 関東地方の、ある可愛らしい電車の中に、小さな子供を連れた人がいました。


 その電車は、ある川のほとりを、山の中に向かって、遡って行くのです。(最近の大雨で氾濫しました。この電車自体は、だいたい、今も昔の姿のまま、走っているのですが。)


 電車は、あまり速く走ることは出来ず、カタコト、カタコトと言いながら、ふらふらしながらも、ぼつぼつ走るのです。


 その小さな子供は、初めて乗ったらしくて、もう、うれしくてうれしくて、しかたがありません。


 電車の中を、一番前から、一番後ろまで、どたばたと走り回り、叫んだのです。


『おとうちゃん! この電車、ここまでしかないよ。ここでおしまいだよ!』


 普段、男の子が乗るのは、東京に向けて走る、それはもう、長い長い電車でした。


 だから、こんな、可愛らしい電車があるなんて、ほんとうに、びっくりだったのです。


 まあ、この、男の子は、もちろん、やましんです。


 電手好きの方は、おおかた、もう、想像は付くかとは思いますが、やましんの方針で、細かい名称は、省略にしております。


 この電車は、途中で、江戸時代の名高いお話の故郷を通過いたします。


 このころは、まだ無理でしたが、次に乗った時は、そのお話の事を聞いていて、なんだか、とっても神秘的なものを感じておりました。


 さて、この小さい方のやましんは、その夏のころに、母の故郷にある実家や、お姉さまのおうちを尋ねて行きました。


 当時、おばさまは、やっと40台になったと言う頃ですが、もちろん、母も父も、おばさまも、みな、大正時代の生まれです。


 母のお父上は、長生きされて、やましんが高校生くらいまでは、生きておられましたが、こちらは明治時代の方であります。


 父のお父様は、やましんが4歳の時に、他界されました。


 やましんは、その最後に立ち会っていましたが、なんにもわからず、ミシンの踏み板を(当時は、人力でしたから。それでも、最新型だったと思います。このミシンは、なんと、いまも多分、あります。)きゅうきゅうと言わせては、『うるさい。静かにしなさい。』と、叱られていました。


 『苦しい? 苦しいですか?』


 母が、声をかけていました。


 そのうち、先生が『ご臨終です。』と、おっしゃったような気がいたします。


 お葬式の事は、覚えていません。



 その、おばさまは、すぱっとした、実に気持ちの良い方でした。


 たくさんの兄弟姉妹たちの、母親代わりになっていたように聞きます。


 しかし、母は、後から妹さん(ご健在です。)から聞いたところでは、子供時代は、けっこう、いじめっこで、やなやつ、だったらしいです。


 それが、なぜか、70歳くらいになるまでは、異常なくらいに、大人しくなっていたわけです。


 これは、考えてみると、わりと重要かもしれません。


 年を取ると、本来の性格が蘇って来る場合が、あるようですから。




 ************   ************  つづく(?)













 


 









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る