『老い乱』
やましん(テンパー)
第1話 『はじまり』
父がまだ、それなりに元気に生きていた頃です。
だから、もう、20年近いくらいは、前のことです。
『おかあちゃんが、おかしな事を言っている。』
と、言うのです。
『これからは、喧嘩してまわる。と言ってるんだ。おかしいだろう。気をつけてほしい。』
『なんだ。それは?』
そのときは、まだ、やましんも、よくわかっては、いなかったのです。
しかし、それこそは、母の、あらゆるこの世に対する、宣戦布告だったのです。
それから、少なくとも15年くらいに渡る、騒乱の世が始まりました。
ま、もちろん、やましんにとって、では、ありますが、しかし、それは、それなりに多くの方々を巻き込む事態ともなったので、やましん個人だけの問題では、けっして、なかったのです。
それでも、それは、やましん個人には、応仁の乱を超越するような、長い長い、すさまじい騒乱となったのです。
母は、故障して、坂道を転がり落ちながら、砲弾を撃ちまくる、M1戦車のようなものでした。(実名は、まずかったですか?)
結果的に、やましんは『ぼろぼろ』になり、比較的順調だった職場での昇進も、すっかりと止まり、最後は事実上降格になり、辞職しました。
すべては、母中心に動くことになったわけなのです。
最終的には、早期退職、閉じこもり・・・となった訳ですが、もちろん、そのすべてが母のせいだなんて、言うつもりもありません。
やましんが、仕事も含め、それらのすべてを乗り越えてしまう力量があれば、それで良かっただけのことですし、周囲の大方の人たちも、妻はのぞいて、そう思っていたに違いありません。
その奥様は、『自分こそ、最大の犠牲者である』、と、主張しておりますし、やましんも、それを否定する気には、なりません。
実際そうでありましょう。
やましんは、実子であり、どうころんだって、どこにも、逃げようもないわけですから。
しかし、曇ったやましんの目で、この世の中をちょっと見回しても、親の介護に追われ、仕事を続けられなくなり、自分自身も崩壊してゆく事例は、けっして少なくはないように思います。
けれど、それらは、幾日かの介護休暇では、とても追いつくような種類のものではありませんし、経済的な保護があるわけでもありません。
もちろん、さまざまなケースがありますし、やましんの知人でも、まさに、いま、その闘争の最中であるかたもいらっしゃいます。
母をむりやり、施設にあずけてしまったやましんは、ある意味、ましなほうかもしれませんです。
父のたくわえや遺族年金が、いくらかはあったので、それを母の介護費に充てることができたからです。
まあ、それらも、いまは、もちろん、なくなりましたし、自分のこの先がどうなるのかは、さらに、まったく未知の領域です。
しかし、それは、このお話の範疇ではありません。
いずれ、そうした問題を、では、どうしたらよいか、とか、ある種の解決策、なんてものは、やましんは、まったく、持ち合わせておりません。
また、いまだ、多くの関係者の方がいらっしゃることでもあり、個人情報に触れるようなことを、許可なく、どんどん書くことも許されないでしょう。
とはいえ、現代社会の持つ危うさだけでも、多少記録しておくことも、悪い事だとばかりも言えないだろう、とも思います。
別に、脅迫するわけではないですが、他人事だとばかり思っていたら、いつ自分が当事者や関係者になるか、あるいは、もしかして、母の側に立つか、言い切れない場合が、けっこう、多いのではないかしら、とも、思います。
人間は、生きている限り、必ず年を取ります。
それは、例外なく、そうなります。
最後まで、聡明でいられれば、それに越したことはないのですが、なかなか、老いというものは、そう簡単ではありません。
直面したときには、すでに遅く、または、自覚さえもできない場合もあるようです。
そこで、まったく急ぐつもりはなく、やましん最後の日までに、ぼつぼつと、書ける限りに(なんせ、自分がいつまで、そんなことが、可能なのかわからないし、そもそも、いますでに、尋常じゃないともいえるわけです。もしも、まったく健康ならば、精神科の受診は、してないでしょうし。)まあ、少しずつ、書いておこうと、思うのです。
しかし、まず、母のことが起こる前に、同じように、子供たちや親せきを巻き込んで、激しい闘争を繰り広げた、母のお姉さまについて、少しだけ書いておきます。
********** ********** つづく(?)
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