第51話 おさななじみはあたらしいまほうをおぼえた!
やっとクレーベの村での生活が終わり、僕らはアカンサスに戻ってきた。
次の日、いつもどおり道具屋で店番をしていると、三日ぶりに来客を告げる鈴の音を聴き張り切って声をあげる。
「いらっしゃいませー!」
「あ、あのー。勇者様はこちらにいますか?」
おやおや? パティか近所のおばさんのどちらかだと踏んでいたんだけど、入ってきた人はけっこう若い街娘だった。茶色い髪をおさげにしていて、年齢的にはパティよりちょっとだけ上かもしれない。
「え? うーん、まだ来てないよ。多分ここに来るとは思うんだけど。どういったご用件で?」
「あ、すみません突然! 私リサっていう者なんですけど、ちょっと勇者様にお願いしたいことがあって。いきなりお家に行くのは気が引けちゃうので、よく通っているっていうここに来れば会えるかなって思ったんです」
そういうことだったのか。タイミングが合わなくて残念だと、僕はカウンターに座りつつ頭を掻く。
「アイツここで一番の常連だからね。いつ来るのかは解らないし、良かったら伝えておくけど」
「本当ですか? ありがとうございますー。実はですね、勇者様に退治してほしい幽霊がいるんです」
「え? ……幽霊?」
「はい。このところ私の働いている所に出るんです! 神父様やマナさんはここ数日忙しいらしくて。もう勇者様にしか頼めないんです。住所はこの紙に書いておきますから、どうか……どうかお願いしますー!」
すがりつくように差し出された紙を受け取った。そして更には僕の手を両手で包んでくるリサ。この素朴な感じ、いいね。幽霊退治なんて死んでもごめんだが、まあやるのはパティだし。
「解った! 僕に任せてくれ。ちゃんと依頼しておくから。きっと夕方には顔を出すと思う」
「良かったー! 本当にすみません。この世のものとは思えない声が夜な夜な響いて、本当に怖かったんです。では、失礼しますねー」
リサは泣きそうな顔から、可憐な笑顔に変化しつつ手を振り、爽やかに店を出ていった。パティが道具屋に来店したのは、それから半時くらいしてからだ。
「絶対ヤダーっ!」
道具屋全体が震えたんじゃないかと思うほどの大声が響き渡る。まあ大体想像はしていたが、ここまでの拒絶反応を示してくるとは思わなかったわけで。僕はカウンターから立ち上がって、店の中心にいるパティに歩み寄り説得にかかる。
「いやいや。そんな大した問題じゃないんだと思うぞ。話だけでも聴きにいってみたらどうだ?」
「もう大体解ったもん。夜な夜な幽霊の声がするんでしょ。怖すぎて絶対無理! 幽霊なんて倒せないじゃんっ。攻撃が効かない!」
両手をブンブン振りながら子供みたいに徹底拒否の姿勢を見せる幼馴染。このままではあの娘に会わせる顔がなくなってしまう。
「倒せないとは限らないぞ! パティの魔法で昇天するかもしれないじゃないか」
「風魔法でどうして昇天させられるの? 呪い殺されちゃうよ。私そういうの一番苦手なのにっ」
「吹っ飛ばせるかもしれない。街から出ると消滅するとか、幽霊には特殊な法則があるかもしれない」
「物理法則が効くとは思えませんっ。私には幽霊に追いかけられる未来しか見えない。怖い、怖すぎ! 絶対無理」
そうだよな。僕も自分で言ってて無理があるとは感じていたんだが。なんとかして勇者をやる気にさせる方法はないだろうか。お金では動きそうにないし……何かプレゼントを上げるとか、何処かに連れてってあげるとか。待てよ。僕は心の中で一つ良い案を思いついた。
「パティ! ちょっと相談があるんだが」
「えー。幽霊の話は嫌」
「そう言うなよ。なあ、アカンサスを出てちょっとだけ西に行ったところでさ、最近海水浴してるじゃん」
ピク、と彼女の白くて形の良い耳が動いた気がした。
「今度の亡霊退治を無事終えたら、一緒に行かないか?」
「え! ホント? ほんとに!?」
さっきまで頬をプクーッと膨らませていた不満顔から一転、子供がオモチャに夢中になっているようなキラキラスマイルに変貌して迫ってくるパティ。顔が近い。
「あ、ああ。勿論だ! あの辺りはアカンサスの兵士さんも常駐するようになったっていうし、安心して海を満喫出来ちゃうぞ」
「でもでも……幽霊退治なんてしないで、海にだけ行きたい」
「ダメだ! 幽霊退治が条件だ。大丈夫だよパティ。お前は以前よりも遥かに強くなっているんだから、きっと勝てる!」
無理のある説得だったが、海をチラつかせることでなんとか誤魔化せている。彼女はちょっとだけ俯いて考えている仕草をしていたが、すっと顔を上げた。
「……解った。一緒に海に行くのは絶対だよっ。絶対だからね!」
「よーし! じゃあ早速リサさんの所へ行ってくるんだ。頑張れよ!」
「待って。その前に、新しく覚えた魔法の練習がしたいの。なんかすっごいの覚えたっぽい」
「ん!? 魔法を覚えたのか。よし、少し見てみるか。ステミエール!」
こういう時にはステミエールがあると便利。ちょっと勇者のステータスを見る前に、僕のステータスを見てほしい。祠の戦いでけっこう強くなったんだ。肩書きが意味不明だけど。
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名前:アキト・グウェイン
肩書き:かなり揺らいできた道具屋ボーイ
タイプ:早熟型
Lv:12(+6)
HP:79(+41)
MP:55(+33)
攻撃:81(+36)
防御:58(+28)
素早さ:42(+22)
運:84(+18)
魔法:
ステミエール
装備:
E道具屋の制服
累計経験値:3016(+2210)
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なかなか各能力が上がってきたと思う。さて、実は昨日ルフラースとマナさんのも確認したので、この際見てみよう。
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名前:マナ・エリュオン
肩書き:姉思いの女僧侶
タイプ:平均成長型
Lv:9(+8)
HP:64(+47)
MP:62(+37)
攻撃:45(+31)
防御:56(+38)
素早さ:35(+25)
運:71(+54)
魔法:
イヤース ゲドック
シビレーヌ(new) マモリアゲール(new)
装備:
E鉄の槍
E旅用の服
累計経験値:2210(+2210)
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マナさんは確実に伸びている。意外と耐久力もあるから、パーティには必要不可欠な存在って感じがしてくる。こんな肩書きだったかな? まあいいか、続いては勇者の次に憧れの職業である賢者だ。
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名前:ルフラース・ガンド
肩書き:モテモテイケメン賢者
タイプ:平均成長型
Lv:9(+8)
HP:73(+52)
MP:66(+48)
攻撃:63(+44)
防御:52(+36)
素早さ:52(+41)
運:53(+37)
魔法:
ヒー イヤース
ヒヤース(new) ゲドック(new)
シビレーヌ(new) ドン(new)
マモリアゲール(new)
装備:
E丈夫な杖
E旅用のローブ
累計経験値:2210(+2210)
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良いなー。至れり尽くせりの成長をしてるじゃないか。ちなみに賢者は今アカンサスの子供がなりたい職業でトップ3に入っているらしい。
では最後に勇者を見てみよう。全然伸びてなかったりして。
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名前:パティ・シンシアーズ
肩書き:恋に一直線勇者
タイプ:大器晩成型
Lv:8(+7)
HP:703(+381)
MP:446(+231)
攻撃:625(+324)
防御:482(+293)
素早さ:662(+336)
運:555(+304)
魔法:
ふえー ふええー(new)
イヤース(new) ゲドック(new)
ラブデイン(new)
装備:
E街娘の服
累計経験値:2210(+2210)
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うお!? どうなってんだこれ……。大器晩成型なのに、僕らより遥かに能力値の伸びが凄い。なんか一人だけ別次元の成長をしちゃってるんだけど。そして確かに凄そうな魔法を覚えているようだ。どれどれ、詳細を調べてみよう。
・ラブデイン:パーティー全員のMPを集めて使用する攻撃魔法。愛に弱いモンスターに特効。
な、なんだこれ。いかがわしい魔法に見えるのは僕だけだろうか。愛に弱いモンスターには特に効果があるらしいんだけど。そんなモンスターいる?
「どう? 私強くなってる? ねえどうなのっ」
遊び相手を見つけた子犬みたいにそわそわしているパティ。一体どう説明したらいいものか。
「うん。めっちゃ強くなってるよ。怖いくらいだな。っていうかさ、ラブデインって魔法を習得したみたいだぞ」
「やっぱりそうだったんだ。ねえねえアキト、これから新しい魔法の練習に付き合って。この魔法でやっつける」
「え? 何でまた」
「だって亡霊退治なんだから、特訓しておかないとやられちゃうでしょ。お願い! 一緒に練習しよ」
まあ練習に付き合うくらいならいいかー、とか考えていると、ふと違和感に気がつく。
「ちょっと待て。その魔法を使うってことはだぞ。僕も幽霊退治に参加させられるんじゃないか?」
「え? そうだよ」
「なんでだよ! 一介の道具屋に太刀打ちできるか! 今回は陰ながらサポートする」
「アキトが手伝ってくれないなら、退治にいかない。私一人じゃ怖くて無理。ねえ助けて、お願いっ」
へばりつくように腕を両手で掴まれ、これはもう了承しないと離れないというアピールだと僕は思った。そして実際にカウンターに戻るまでズルズルと引きずることになる。
「こ、こら離れろ。今のお前が幽霊みたいになってるって! こら」
「離れないー。私はアキトの守護霊っ」
「違う! 悪霊だ」
「悪霊じゃなくて神霊」
「格が上がったな! 解ったよ解った。僕も手伝うし現場にも行くって!」
「アキトー。そろそろ交代の時間よ。あら、どうしたのパティちゃん?」
丁度いいタイミングでおふくろも現れてしまい、魔法の練習に行く準備が整ってしまう。
「あ、おばさんこんにちは! ちょっとアキトにいろいろ相談してたの。これから魔法の練習に付き合ってもらうけどいい?」
「どうぞどうぞ。好きに使ってちょうだい」
「こら! 僕は道具か!」
かくしてクレーベの村でのドタバタも覚めやらぬまま、僕は幽霊退治に参加させられることになってしまった。そしてまずは魔法の練習に付き合う為、パティと一緒に道具屋を出た。
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