第26話 幼馴染とモンスターをやっつける

「何か用? 私は忙しいの」


 パティと二人で石みたいに固まってしまった。まさかガイコツのモンスターが扉から普通に現れて、淡々と喋ってくるなんて誰が想像しただろう。口調からしてこのガイコツは女性だろうか。それともオカマ?


 何かの勧誘みたいに面倒くさくあしらう気満々だ。話し合う気はあるみたいだから、こちらとしても攻撃するのは得策じゃなさそう。戸惑いつつもとにかく聞いてみることにした。


「あ……あの。この辺りにカマキリみたいなモンスター見なかったですかね? 人間を捕まえて飛んでいたと思うんですけど」


「知らない。じゃ」


 バタン、とドアは冷酷に閉められる。


「そうですかー……じゃない! ちょっと待てー! どうしてモンスターがこんな小屋に住んでいるんだよ! 開けろぉ」


 ドアを叩きまくっても中からは反応がない。鍵をかけてしまっているな。


「大丈夫っ。私に任せて」


 パティは懐から鍵を取り出して、鍵穴をカチャカチャと弄り始める。塔で見つけた鍵かー。それならこの大陸の扉なら大抵は開けられる。僕の宝箱も難なく開けたし。


「開いた!」とパティは興奮気味に叫んだ。


「よし! 今だぁ!」


 僕は豪快に扉に蹴りを入れて乱暴に開き、一気に中に突入した。小屋の中にはさっきのガイコツとカマキリ、それからヨッコラ先生が椅子に座らされていた。どうやら拘束されているらしい。


「んあ!? テメエら、どうやってここを」


 カマキリが仰天した顔になり、ガイコツは近くに置いていた剣を手に取り構える。二匹だけなら何とかなるか、正直微妙な感じがした。


「ヨッコラ先生を離せ! さもないとお前達を成敗してやるぞ」


 僕の気合が入った言葉に、二匹はあまり動じる様子がない。


「カマッカマ! お前が我らを成敗するだとう? 寝言は寝ている時に言え! 丸腰にやられるような弱小モンスターだと思うか」


 二匹はいかにも自信ありげな様子だったから、ちょっとばかりこっちも不安になってくる。だったらしっかり確認してやろう。


「な、何おう! じゃあお前達のステータスを見てやる。ステミエール!」


====

名前:カマ・キリオ

肩書き:野心に溢れた青年カマキリ

タイプ:わりと早熟型

Lv:10

HP:82

MP:14

攻撃:77

防御:45

素早さ:91

運:23

魔法:


装備:

E鋭いカマ

累計経験値:1023

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====

名前:ジェニファー

肩書き:マイペースな骨剣士

タイプ:平均成長型

Lv:11

HP:90

MP:22

攻撃:65

防御:51

素早さ:69

運:34

魔法:

イヤース

装備:

E鉄の剣

E冒険者の服

Eラウンジシールド

累計経験値:0

====



 ……え? 普通に強すぎるじゃん。ちょっと待ってくれ。僕じゃきっと勝てないぞ、こいつら。そんなことを考えているうちに二匹はじり、じりとこちらに近づいてくる。


「ま、まずいな! パティ、コイツらかなりできる」


「え? 強いの?」


「そうだ! 僕達二人で勝てるかどうか」


「カマッカマッカマ! お前ら二人だけでノコノコ現れたのが運の尽きよ! まずはお前達を八つ裂きにして、魔王様からのファンレターを無視しやがった不届きな作家に拷問を加えてやる」


「残念だったわね。そういうことだから死んでちょうだい」


「嫌だ! 死んでたまるか」言ってもしょうがないが僕は叫ぶ。


 突然椅子に拘束されているヨッコラ先生が叫んだ。


「何だと!? ただのイタズラだと思っていたあのファンレターが、本当に魔王からのものだったというのか!?」


「カマぁあ……愚かな奴め! 本物に決まっておろう。ポイズンミーコをあのような酷い目に合わせて途中退場させたお前を、魔王様は許せぬのだ!」


 魔王も読んでいるのか。なんていうか、知らないほうが良かった。


「あの展開の何が不満だ! 私はご都合展開など嫌なのだ。だから心を鬼にしたというのに。戦いには犠牲がつきものなのだ」


「カマー! まだ解らぬか! 世迷いごとばかり抜かしおって。長時間に渡って説明してやったというのにこの石頭め」


 カマキリとヨッコラ先生が言い合いを始め、ガイコツ剣士はこっちに向かってくるわけでもなく、一人と一匹の口論を見守っている。今がチャンスかもしれない! 僕は小声で隣にいるパティにささやく。


「よし。パティ、お前のナイフで一気にガイコツを倒すんだ。その隙に僕はカマキリに突進する」


「あうう……ごめんアキト。私、今日ナイフ持ってきてない」


 そうだった。このまん丸防止と白いワンピース姿でナイフ携帯してたら逆に怖い。


「く! わかった、じゃあ風魔法だ! 奴らを一網打尽にしてやれ」


「で、でも。きっと先生まで斬っちゃう」


 まずいな。思った以上に八方塞がりじゃないか。カマキリの奴が熱く語っている間になんとかしないといけないのに、とか考えているうちに突然ガイコツ剣士がパティに向かって来た。


「そろそろご退場願おうかしらー」


「きゃっ」


「パティ、危ない!」


 パティは振り上げられた剣に身をこわばらせてしまっていて、僕は考えるより先に体が前に出ていた。


「うわあああ!」


 ガイコツの強烈な鉄の剣による一撃。脳裏にお花畑が浮かんだほどのショック。多分もうすぐ死ぬんじゃないかというところで、奴ときたらもう一発見舞おうとしてくる。


「はい。君は終了ー」


「アキトー!」


 その時だった。まるで風そのものになったような勇者が一瞬で目前に現れ、ガイコツに強烈な右ストレートを喰らわせたのは。


「う、うぼあー!」


「カマカマ! 展開など気にするな。突如超パワーに目覚めたヒットちゃんにミーコを生き返らせるでも問題なかろう! とにかく最新話をお!?」


 ぶっ飛ばされたガイコツはヨッコラ先生のすぐ隣の壁に命中して崩れ落ち、カマキリは驚愕の声をあげてこちらを振り返った。


「き、きき貴様らー。ジェニファーに暴行を加えたおったな!」


「モンスター倒すべしっ!」


 ちょっと怒っているようなパティが猛牛の如き突進をしつつ、カマキリの懐に潜り込むと、それはそれは強烈なパンチの連打を腹から顔面にかけて浴びせまくっていく。普通に素手でも強いじゃん。


「あばばばばば! こ、この小娘めめめめめめ!」


「言えてない! パティ、カマキリの奴なんも言えてないぞ!」


 ボッコボコにされたカマキリは、最後のアッパーカットで宙を舞い、見事なノックダウンとなった。


「ナイスだパティ! 先生! 大丈夫でしたか」


「お、おお。ありがとう。おかげで助かった」


 僕はヨッコラ先生の元へ急ぎ、すぐに拘束していたロープを解く。フラフラになりつつも立ち上がるガイコツとカマキリ。


「モンスターしばくべしっ!」


 どうしたんだろう。今日のパティは今までになく戦う気満々だ。二匹のモンスターはビビりつつも後退していき、


「か、カマー! 覚えていろよー。このままじゃ済まさんぞー」


「うん。多分もう来ないけどねー」


 なんとカマキリはガイコツ剣士を両手で掴みながら飛び上がり、遥か彼方に逃げ去ってしまった。ヨッコラ先生は不思議そうな顔で窓の外へ逃げて言ったモンスターを見つめる。


「これは大変な経験だった。私の作品をあんなモンスターまでもが熱心に読んでいたとはな」


「アキト……怪我はない?」


「思いっきり怪我してるけど、まあ大丈夫だ。それより先生が無事で良かった」


「うん。重ねて礼を言うよ二人とも。それと……私はポイズンミーコを生き返らせようと思う」


「ええっ。先生、どうしてですか?」


「あれだけ熱烈に愛されているとは知らなかった。私は読者の声を余りにもないがしろにしていたらしい。モンスターとはいえ貴重な意見だったよ。帰ったらすぐに最新話を書くことにしよう」


 先生はなんだかんだで、モンスター共の言うことを聞く気になってしまったらしい。実を言えば僕もポイズンミーコが好きだったので、復活すると知ってちょっとだけ嬉しかった。


 アカンサスに戻って先生と別れ、ルフラースを蘇生させるべく教会に向かうまでの道のりで、パティは急に深いため息をつく。


「どうしたんだよ? さっきまではあんなに元気だったのにさ」


「だって……ホントは怖かったから。あんなモンスター初めてだったし」


「そっか! 勇敢だったぞーお前。もう冒険に出ても大丈夫だな」


「出ませんっ。それよりアキト。また私のこと守ってくれたね、ありがと!」


「え? 気にするなって。結局お前のおかげで僕らは助かったんだからさ」


「ううん。いつも私はアキトに助けられてるの。昔から……」


 まあ、確かに昔からこいつはドジだったり気弱だったりで、けっこう面倒を見たことはあったけど。もうそんなこと気にしなくてもいいのに、とか考えながら夕日を見上げる。


「……いてほしい」


「ん? 今なんて言った?」


「ふぇ!? き、聞こえた?」


 隣を見ると、夕日みたいに赤くなった顔でモジモジ見上げる幼馴染。この瞳にやられない男がいるだろうか。それにしても今、なんて言ったのだろう。


「聞こえなかったぞ。なんていったんだ?」


「な、ななな……なんでもない。独り言」


「言えよ! なんか言ったんだろ今」


「何でもなーい! 私は何も言ってないっ」


「お、おいおい! 走るなって!」


 パティはルフラースの棺桶を乱暴に引っ張って走り出した。僕は棺桶から友人が飛び出すのではないかと思い、焦って彼女を追いかけて行く。幼馴染はいつも危なっかしい。

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