第15話 幼馴染はやっぱりダンジョンが怖い

 かくして我々はソシナの塔へ向かうことになったわけだが、塔は小島にある為普通に入ることはできない。まずは北東の橋を超えた先にある、ソシナの塔への洞窟へ向かわなくてはいけなかった。


 ちなみに今回のメンバーだが、なんだかんだ酒場で相談し続けた結果、パティ、ルフラース、マナさん、最後に僕というメンバー構成になってしまった。


 そして今僕らは橋を渡り森を超え洞窟に辿り着いているわけだが。


「やっぱり怖い……。入るのが躊躇われるっ。アキト、私帰りたい」


「おいおいパティ。ここまで来てUターンはやめようぜ。大丈夫だ四人もいるんだから」


「ふふ! そうだよ勇者殿。俺達がいれば何も問題はない」


 と、早くも勇者にタメ口を利き始めたルフラースが口添えをすると、マナさんも話に加わる。


「勇者様ならきっとこのくらいのダンジョン、直ぐに攻略できますわ。でも危ない目にあったりしたら、私の回復魔法でたちどころに癒して差し上げます。ご安心を」


「う、うん! では、参るっ」


 三人掛かりのプッシュで不安が解消されたのか、勇者はズイズイと中に入って行く。とうとう始まったかー。僕は内心ちょっとだけワクワクしていた。本当は道具屋よりもこういうことがしたかったからだ。


 当たり前の話だが洞窟の中はとっても薄暗く、たいまつがないとハッキリ中が見えないのだが、目が慣れてくると意外と解ってくるものだ。しばらくは暗い道を真っ直ぐに直進するだけっぽい。


 ここでアカンサスを出発する前にチェックした、ルフラースとマナさんのステータスを紹介しておこう。


 まずはルフラースから。


====

名前:ルフラース・ガンド

肩書き:モテモテイケメン賢者

タイプ:平均成長型

Lv:1

HP:21

MP:18

攻撃:19

防御:16

素早さ:11

運:16

魔法:

ヒー

イヤース

装備:

E木でできた杖

Eただのローブ

E皮の盾

累計経験値:0

====



 うん。まあ……普通なのかな。賢者だけあって全体的にステータスも高いし、攻撃魔法も回復魔法も覚えていきそうな空気感出てるし、羨ましい限りだ。僕もこんなステータス欲しかったな。ちなみに『ヒー』は超初級火炎魔法であり、上位になると『ヒイー』になる。更に上は『ヒイイー』だ。決して悲鳴をあげてるわけじゃないので注意。


 では続いてマナさん。


====

名前:マナ・エリュオン

肩書き:恋多き女僧侶

タイプ:平均成長型

Lv:1

HP:17

MP:25

攻撃:14

防御:18

素早さ:10

運:17

魔法:

イヤース

ゲドック

装備:

E木でできた槍

E布の服

累計経験値:0

====



 うん。早くも癒しのプロフェッショナルという存在になりそうなステータス配分だ。縁の下の力持ちであり、やっぱり冒険には回復役が必要だよね。関係ないが彼女とお付き合いしているルフラースが羨ましい。


 そして最後に、念の為パティのステータスも調べていたんだった。あれから強くなっているかもしれない、と思ったんだけど……。


====

名前:パティ・シンシアーズ

肩書き:早くお家に帰りたい勇者

タイプ:大器晩成型

Lv:1

HP:322

MP:215

攻撃:301

防御:189

素早さ:326

運:251

魔法:

ふえー

装備:

Eブロンズソード

E街娘の服

Eラウンジシールド

累計経験値:0

====



 うん……。肩書き以外変わってない。というか毎回この変な肩書きが気になるんだが。そして何より彼女、Lv1なのに半端じゃなく強いんだが。このまま強くなっていったら、もはや別世界の存在になりそう。


 真っ暗な洞窟の中には地下へ降りる階段があったり、上フロアへの階段がいくつもあったりして、僕らは迷いながらも先に進み続けた。途中何度かモンスター達と鉢合わせになったのだが、なぜか向こうが尻尾を巻いて逃げ出した為、今まで一度も戦ってない。勇者もモンスターもお互いビビっているみたいだった。


 しばらくしてから長い階段を見つけて、僕らはいよいよかと気を引き締めつつ上って行く。途中に大きな踊り場があり、なんとそこには4個ほど宝箱が置かれていた。


「みんな! こんなに沢山の宝箱があるぞ。開けてみよう」


「へえ、これは助かるなあ。俺達にとって役立つ物があればいいんだが」


「やった! ポーションと毒消し草が入ってるわ」


 進んで宝箱を開いたマナさんが喜びの声を上げつつこちらを振り向いた。パティは恐る恐る残った宝箱の一つを開けようとしているが、なかなか手が進まない。


「どうしたんだよパティ。宝箱を開くのも怖いのか?」


「うん……もし。もしだけど、モンスターが隠れていたらどうしようって。心配っ」


 僕はルフラースと顔を見合わせて苦笑した。


「大丈夫だよ。こんな冒険始めのダンジョンで、そんなトラップある筈ないって」


「アキトの言うとおりだよ勇者。気にしないで、思い切り開いてみるといい」


「ん、んー。でも……」


「全くしょうがないな! どれ、僕がやるよ」


 本当に手がかかる奴だなと思いつつ、そう言う手間のかかる奴が一番可愛んだなとも感じてる。パティはもじもじしつつ離れ、反対に僕が近づいて静かに箱に手をかける。


「ほーら! 見てみろよ。モンスターなんて何処にもいないだろ?」


 ゆっくりと箱を開いた。中には金銀財宝が所狭しと並べられていなかった。代わりに真っ暗な中からデカイ二つの目と、人間よりもずっと大きな口が見える。


 なんと、宝箱の中に魔物が!


「ガハハハ! 騙されたな人間めぇー」


「う、うわああー!」


 なりすまし宝箱が現れた! 現れやがった!


「ちょ、ちょちょちょ……ちょっと待ったー! どうしてこんな序盤にお前みたいな罠モンスターがいるんだよぉ!?」


「フハハハ! 問答無用ー!」


「アキト、危ないっ!」


 なりすまし宝箱は僕めがけて強烈な頭突きを喰らわせ、階段付近まで吹っ飛ばしやがった。


「おのれ魔物め! マナ、勇者! ここは俺達で迎え撃とうぞ」


「解ったわ! 初戦の相手としては厄介だけど、私達なら勝てる」


「あ……あうう。アキト、早く起きてー」


 一人だけ情けない声を出している仲間がいるが大丈夫だろうか。僕はフラつく体を起こして戦闘に加わるべく立ち上がった。既にルフラースは魔法の詠唱を終え、渾身の一撃を放とうとしている。パティは二人の後ろで相変わらずプルプルしていた。


「喰らえ! ヒー!」


 なりすまし宝箱の目が一瞬だけバッテンになる。これはけっこう効いてるのかもしれないぞ! 続いてマナの槍での打撃がやつのボディに当たりまくる。


「えいえいえい!」


「いててて! こいつらめチクチクと! ならばこれでどうだぁー」


 宝箱はピョンピョンジャンプしながら、口から電撃を発射してきて、あっという間にルフラースとマナを感電させてしまう。僕はあまりに想定外の状況にただただ慌てる。


「うわあああ」


「きゃー」


「おわあ! ふ、二人ともー」


 パティは向かって行きたくても足が震えてしまっているようで、なかなか前に出れない。電撃が収まったとき、綺麗な二つの棺桶が出来上がってしまった。これはまずい。早く教会で生き返らせないと!


「グフフフ! 大したことのない奴らめ! 残るはお前達だけ……ん?」


 偽の宝箱はようやくパティの存在に気がついたらしく、何やらキョトンとした表情のまま固まっている。ステータスが高いとはいえ、やはり彼女では無理なのか。僕はパティの前に立ち棍棒を構える。


「パティ……もういい。下がっていろ」


「え?」


「僕がやってやる……こいつと。だからお前は逃げろ!」


「そ、そんな! アキトを置いてなんていけない。わ、私も……頑張る」


「……ケモノ……」


「ん? なんだ!?」


 なりすまし宝箱の体が揺れている。よく見れば全身から汗も浮かび上がっているようで、奥に見える瞳が泣き出さんばかりになっている。一体何が起きているのか解らないが奴は突然、


「バケモノー! うわあああ」


「あ、ちょ! こら待てー!」


「ふぇ!? に、逃げたの?」


 なりすまし宝箱から小さな細い手と足が生え、奴は全速力で階段を駆け下りて行った。意外とコミカルな奴だ。よく解らないけど助かったみたいだ。ホッとしたのもつかの間、呆然としたまま立っているパティの肩を叩いた。


「大丈夫だったか!? アイツ逃げちまったぞ。とにかく助かったな」


「う……ううう。バケモノって言われた」


「え? あれってもしかして、お前のことだったのか?」


 パティはえんえんその場で泣き出してしまった。もしかして、モンスター達はみんなパティを見て逃げていたんだろうか。


「よしよし! パティ、お前はバケモノなんかじゃないぞ。れっきとした女の子だ……多分」


「ふぇ!? い、今多分って言ったでしょ! アキトのバカー!」


 パティは僕に抱きつきながらポカポカ叩き出した。叩くのか抱きつくのかどっちかにしてほしいもんだ。っていうか普段のハグよりずっと密着しているんだけど。身体中にぬいぐるみを押し付けられたような感じで、ちょっと吐息がかかるから堪らない。この状況が続いたら僕の理性が持たないって。


「パ、パティ! ちょっと、くっつき過ぎてないか!?」


「い、いつもの距離感っ」


「いや違う! これは絶対違う!」


 しかし、もう塔は目の前だというのにパティと二人になってしまうとは。なんていうか、エライ状況になってしまったと頭を抱えるしかなかった。

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