第431話 応えるべきは
どうやら、あちらのほうは求めたものをしっかりと創り出したようだ。
であれば、こちらだってそれに応えるべきであろう。それが共闘というものだ。まずやるべきなのは――
こちらに対して向かってくるのは、様々な存在。生命と言えるものも、およそ生命とは思えないものもある。まさしく雑多な存在であった。それらが、すさまじい速度で複数の方向から迫ってくる。
大成は宙を蹴り加速し、第一陣を回避。こちらに向かってきていた様々な存在同士が衝突し、破裂する。背後から衝撃と熱が襲いかかってきた。
恐らくあれらは、衝撃を加えると爆発する類のものなのだろう。およそ生命とは言い難い存在であるが、奴の能力で作成されたものである以上、そういうものなのだ。
であれば、処理をするのであればしっかりと回避するか、爆発と衝撃に巻き込まれないように遠隔で破壊するしかない。速度も速く、追尾性も高いが、わずかな衝撃でも破裂するので、追尾性を利用して衝突させることで処理するのはそれほど難しいことではないが――
とはいっても爆発は相当の威力があるため、しっかりとその範囲を見極めなければ、巻き込まれる可能性がある。しっかりと爆発を回避しなければ、思わぬダメージを食らうことになるだろう。それで致命傷を負う可能性は大いにある。
第二陣が迫ってくる。向かってくるのは、五つの奇怪な生命とは言い難い存在。
宙を駆る大成はさらに加速し、この空間に浮遊する謎の物体の影へと入り込んだ。標的に対する追尾性の高さゆえに、それらはこちらの動きに誘導され、浮遊する謎の物体に吸い込まれるようにしてぶつかっていく。
衝突したそれらは容赦なく爆発し、謎の生命体の身体と思われる部分を抉り取っていった。
小型の爆薬ほどの威力があるものが五つ命中しても、謎の物体は相変わらず不気味に蠢いていて、ダメージを食らっているようにはとても見えない。やはり、物理的な手段であれを沈黙させるのは難しそうだ。
大成はさらに宙を移動して、向かってくるそれらを誘導して謎の物体へと衝突させ、爆発させていく。かなりの数が衝突、爆発したにも関わらず、謎の物体は相変わらず蠢きながらその場に存在していた。もうすでにヴィクトールからは切り離されているのにも関わらずすさまじい耐久力というよりほかにない。
ひと通り処理したところで、大成は竜夫へと目を向けた。
どうやら、あちらも被弾することなく処理したようだ。こちらがあのデカブツを処理するまでは、ヴィクトールを任せておこう。奴ならば、一対一であったしてもそう簡単にやられることはないはずだ。というか、その程度のことくらいはやってもらわないと困るというのが正直なところであるのだが。
向こうに任せているのだから、こちらはこちらでしっかりとやるべきことをやるだけだ。
大成は変わることなく宙に浮遊している謎の物体へと目を向けた。
いくつもの爆発をその身に受けたにも関わらず、奴は敵であるこちらを排除するために再び動き出した。身体から、無数の触手が突き出してくる。それらは極めて数が多く、それでいて弾丸のごとき速さでこちらへと向かってきた。
大成は自らに向かってくる触手を次々と回避し、直剣で斬り落とし、脅威を排除していった。
自身へと向かってきた猛攻を凌ぎつつ、大成は謎の物体を倒すために、その力を解放。
極めて高い耐久力を持つあれを素早く倒し切るのであれば、出し惜しみなどしていられなかった。消耗を覚悟しても奴は処理しておくべきであろう。
宙を飛び回っていた大成はその動きを止め、集中。
身体のどこからからとてつもない力が湧き出してくる。身体の内側から火を点けられたかのような熱。それらは、自身の身体の末端まで及び、その身体を作り変えていった。
時間の流れが遅くなったかのように、自分以外の存在の動きが遅くなる。
こちらの異変を察知したのか、謎の物体はこちらの行動を阻止しようと動き出そうとするが――
動き出すのは、こちらのほうが速い。
大成は解放した竜の力をその手に持つ直剣にすべて乗せ――
それを一気に解き放つ。禍々しき血のような赤黒い斬撃が謎の物体へと迫っていき――
巨大な斬撃は、容赦なくその身体を両断した。
竜殺しの呪いに満ちたそれは、竜の力によって創られた存在にとってこれほど有効なものはない。
両断されたそれは、すぐさま溶けていき、その身体を維持することができなくなって消滅する。
一気に大きな力を行使したことにより、宙に立っていた大成は浮遊を維持できなくなって着地。
「素晴らしく、そして忌々しい力だ。まさしくそれは、我らを殺す力に他ならない」
死角からヴィクトールの声が聞こえてくる。反応はできたものの、大きな力を行使したことによって身体のほうがそれについていくことができなかった。
しかし、大成へ向けられた殺意は届かなかった。竜夫がヴィクトールの攻撃を阻んだのだ。彼がヴィクトールを抑えてくれたおかげで、大成は大きな力を使ったことによる反動から復帰。
「助かったよ。ま、はじめからそうしてくれることを期待していたんだが」
「それば別に構わないけど――いつだって今回みたくうまくいくとは限らないから、できればそっちでなんとかしてほしいところだけど」
「そう言うなよ。こういうのはお互いさまってもんだろう?」
大成の軽口に対し、竜夫は「そうだけどさ」と少し困った調子で言葉を返してくる。
「お互いやることはやったんだし、次やろうぜ」
そう言って、大成は改めてヴィクトールを見据えた。
あれだけ巨大な存在を生み出したというのに、ヴィクトールはまだまだ余裕のようであった。さすがは竜どもの大将をやっているだけのことはある。同じようなものをまだ生み出すことができるというブラドーの見立ては間違いなかった。
さらに竜の力を解放したことによって、その身体はより変異を起こしているようであった。現在進行形で起こっているそれを、形容することはできなかったが――それが本来は起こり得ない異常であることだけは確実だ。
それでもなお、動かなくてはならなかった。この戦いを終わらせるために、そして――
「見たところ、その身体は限界が近いようであるが――それでも戦う気か?」
こちらを一瞥したヴィクトールの問いに対し、大成は返答しなかった。
「答えるまでもない、ということか。よかろう。それに完膚なきまでの死を与えるのも俺の仕事か。来るがいい。地獄に案内するくらいはやってやろう」
ヴィクトールはゆっくりと構え直す。それは、ただ静かにこちらを打ち倒さんとする決意が感じられた。
身体はまだ動く。なにより、まだこちらには賭けられるものが残っているのだ。である以上、諦める理由などどこにもなかった。
身体に確かな異変がありながらも、大成は己が持つすべてを以て、最大の敵を討ち滅ぼすべく前へと躍り出た。
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