第329話 徹底的に

『棺』から発せられた光を見たその瞬間、竜夫はすぐさまその場を離脱する。竜夫が離脱した直後、無数の光線がその場所を貫いた。離れた場所からでもその熱が感じられる威力。竜となったこの身体すらも容易に貫通することは間違いなかった。


 光線を回避した竜夫を追撃するために、『棺』からわずかな時間差をつけて飛来したであろう、無人起動兵器が周囲に展開。設置された無数のそれらから大量のミサイルが発射された。その数は少なく見積もっても数十。完全に回避しきるのは不可能であった。


 竜夫は受ければ致命傷となり得る部分に刃を突き出させつつ、弾幕が薄いところへと飛び込んだ。数発被弾するものの、身体から突き出させた刃によって大事には至らなかった。


 ミサイルの嵐を凌いだ竜夫は刃を投擲。狙うのは灰色の竜のまわりに展開している障壁発生装置。放たれた刃は装置に命中した。


 だが、障壁発生装置の周囲にも同じ障壁が発生しているせいで貫くことはできず、弾かれてしまう。やはり、灰色の竜を守っているものと同じものが展開されているのだろう。であれば、そう簡単に貫くことはできないが――


 どうやれば障壁を発生させているあれを破壊できるだろうか? できなければ、奴を傷つけることすら難しい。


 一応、手段自体はある。極薄の刃による攻撃、もしくは障壁がある場所に割り込ませる形で刃を創り出すことであるが、どちらも近接しなければならない。そのうえ、近接攻撃では周囲に展開している装置を一気に破壊することは困難だ。どこかしら破壊できない場所が発生してしまう。


 仮に、障壁発生装置を破壊できたとしても、奴はすぐさま同じものを『棺』から補充するはずだ。破壊されてから補充されるまで数秒程度だろう。あの装置が二つ以上なければ障壁を発生させられないとは思えない。であれば、数秒こちらの攻撃を凌ぐ程度なら、一つだけでも事足りるだろう。


 どうにか、『棺』から補充ができないようにしたいところである。だが、『棺』があるのは遠い場所だ。奴が仕掛けてくる多彩な攻撃を凌ぎながら、『棺』のどこにあるともわからない供給源を破壊できるとは思えなかった。


 となると、『棺』から補充されることを前提に戦わなければならない。であれば、やはり障壁発生装置を破壊できる手段は必要だ。一気にすべてを破壊できなくてもいい。奴の周囲を取り巻く状況を見るに最低でも半分、有効度をもっと上げるのであれば、三つ以下にできれば付け入る隙を作ることも可能だが――


 灰色の竜を取り巻いている装置は十。現在、障壁は視認できないものの奴のまわりを水晶のような形で展開しているはずだ。


 近接攻撃ではどうやっても奴の背後にある分の破壊は難しい。巨大な刃を創り出して振るえば、相対している分を一気に破壊しうるが――威力だけを重視した巨大なものを振り回すとなると、必然的に大振りになってしまう。そのような攻撃に当たってくれるような簡単な敵とは思えなかった。


『やはり、開けた場所であると動かれるのは厄介だ。であれば、その動きを制限させてもらうとしよう』


 灰色の竜の声が響くと同時に、またしても『棺』からなにかが飛び立った。高速でなにかがこちらに向かってきて――


 向かってきたそれは、周囲になにかをばら撒いてすぐに離脱していった。ばら撒かれたそれらは、空中で静止する。それらは、戦闘区域全体、見渡すことができる場所の多くにばら撒かれていた。


 これは、恐らく機雷だ。接触すれば問答無用で爆発し、こちらに手痛いダメージを与えてくるもの。設置された位置は簡単に視認できるものの、視認できるがゆえにこちらの移動を強制的に制限させてくる。広範囲にばら撒いたため、すり抜けること自体それほど難しくはないが、戦いにおいて自由な移動ができなくなるというのはそれだけで強い枷となるものだ。敵以外にも設置された機雷にも注意を割かなければならなくなるのは非常に厳しい。


 竜夫は少しでも動きの制限を緩和するために、周囲に刃を打ち放った。放たれた刃は周囲の機雷に命中し、爆発。刃が命中したものの周囲にあったものも誘爆する。それでもなお周囲にばら撒かれている機雷の数はまだ多かったが、幾分かのスペースを確保できた。機雷をすり抜けるようにして竜夫は灰色の竜へと接近し――


 いくつかの刃を投擲。投擲された刃は灰色の竜へと向かっていくが――


 投擲された刃は、当然のことながら障壁によって弾かれる。弾かれた刃は砕けて消えた。


 しかし、竜夫は止まらない。投擲と同時にさらに距離を詰め、灰色の竜へと接近。障壁に触れるところまで近づいて――


 その先に、刃を創り出す。それは、障壁がある場所に割り込むようにして発生し――


 それを押し込むことで、障壁の奥にある灰色の竜の身体に突き刺さった。


 竜夫はすぐさま離脱する。その直後、攻撃を受けた障壁から力が発せられた。少しでも遅れていたら、自動反撃を食らっていただろう。


『驚いた。まさかそのような手段で防御をすり抜けてくるとは。さすが、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきただけのことはある』


 灰色の竜は刺さった刃を引き抜いて投げ捨てた。それは障壁にぶつかってそのまま消滅する。ダメージを与えることはできたものの、それが致命的なものではないのは明らかであった。


『だが、二度目を許すとは思うなよ。俺は俺自体が戦うことを得手とはしていないが、その程度くらいできる心得くらいはある』


 灰色の竜の淡々とした声が響く。


 障壁の内側から投げられた刃が消滅したのを見るに、向こうからは障壁をすり抜けることができる、というわけではなさそうだ。恐らく障壁は、攻撃を仕掛けられた時だけに発生しているわけでもない。視認できない状態でも、ある程度のエネルギーがあるようだ。たぶん、攻撃を受けた箇所が自動的に強まるという性質を持っているのだろう。


 同じ手段でもう一度奴にダメージを与えることは難しい。創り出した刃を割り込ませるのはどんなに強固な防御壁であっても無視できるが、その性質上触れられる距離まで接近しなければならないため、距離を取ってさえいれば実効できないという欠点がある。『棺』から次々と兵器を呼び寄せて戦うスタイルである奴が、接近されないようにするのはそれほど難しいことではない。


 なにより、いまはそこら中に機雷が設置されている状況だ。より接近が難しくなっている。先ほどの爆発を見た限り、設置された機雷を無視して突撃を仕掛けるのは危険だ。チャンスであればそうする手もあるが、爆発によって結構なダメージを受けることを考えると、何度も実行するわけにもいかないだろう。そんなことをしていれば、先に戦闘不能になるのは確実にこちらだ。まだ戦わなければならない以上、できる限り消耗は避けたいところであるが――


 竜夫は周囲を確認する。


 空中に設置された機雷の数はまだ多い。なんとか処理をしたいところであるが、奴が呼び寄せてくる兵器による攻撃を凌ぎながら、機雷を破壊するのは厳しいところがあるだろう。


 そのうえ、奴自体は遠距離戦闘を主体としており、なおかつ鉄壁にも等しい障壁に覆われている。空中に設置された機雷が奴の動きを阻害するものとはなり得ないだろう。


 どうする?


 竜夫は灰色の竜を注視したまま次の一手を模索する。


 やはり、奴が得意とするところである遠距離戦闘に応じるのは愚策だ。できることなら、近接戦闘に引き入れたいところであるが――


 奴の周囲に展開している障壁がネックだ。奴を打ち倒すのであれば、どうやったとしてもあの障壁を攻略しなければならない。


 なにか、いい手はないだろうか? 考えてみたものの、有効そうな手段はいまのところなかった。


 長引けば長引くほど、こちらが不利になる。今後を考えるのであればすぐにでもなんとかしなければならない。


 障壁をどうにかするのであれば、まずあれがどのような性質を持っているのか知る必要がある。それをするためには、恐れてなどいられない。


 ある程度の危険は許容すべきか。必要以上に慎重にいった結果、詰んでしまってはなにも意味はないのだから。


 竜夫は刃を構え――


 再び前へと飛び出していった。

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