第314話 大空の大戦
竜と化した大成は再び空へと舞い上がった。目指す先はもちろん、上空にある『棺』だ。
こちらとは逆方位から、竜と化した氷室竜夫が『棺』へと向かって飛んでいく。向こうも問題ないらしかった。
竜と化した二人は音すらも置き去りにし、『棺』へと接近。厚い鱗がびりびりと焼けるような感触が伝わってくる。前に進みながら、背後を確認。ウィリアムたちはまだ来ていない。大丈夫かと心配になるが、彼らがこちらに追いついてくれるのを信じるしかできることはなかった。
前に見える『棺』からなにかが出てきた。眼球のような球体の存在。無数のそれらが、空を埋め尽くすかのような勢いで出現する。それには、いくつかサイズの種類はあったものの、そのどれも均一化されていた。
それらは恐らく、『棺』に標準装備されている自律型の迎撃兵器だろう。眼球のようなそれらはこちらを捕捉し、瞳のように見える部分から光線を放ってくる。
竜と化した大成はそれを翻るようにして回避。回避したのち、自身の力を無数に存在する眼球のような迎撃兵器へ向かって放つ。竜と化した大成から放たれた力によって、それらは一気に薙ぎ払われ、その残骸が落ちていく。
しかし、意思を持たない自律型の迎撃兵器であるそれらは一切の躊躇なくこちらへと向かってくる。他の機体の攻撃によって巻き込まれることを恐れることもない。次々と濁流のように圧倒的な物量を以てこちらを押し返そうとしてきた。
大成は力を放ち、竜と化したその身体を駆使してこちらに攻撃を仕掛けてくる自律型迎撃兵器を処理していくが、一向に減る様子はなかった。その数は、戦闘を開始してわずかな時間しか経過していないのにも関わらず、加速度的に増殖していく。
無数の自律型迎撃兵器は光線を放ちながら、こちらへと特攻を仕掛けてくる。光線は致命傷になる部分を避けさえすれば大事には至らないが、同時に行ってくる自爆特攻はそうではない。まともに食らえば、仮に死ななかったとしても飛行できなくなる程度の重傷を負う可能性は充分にある。そして、空中戦において飛行できなくなるというのは致命的だ。
竜の力による加速を行えば、数分とかからず『棺』へと到達できるというのに、無数の自律型迎撃兵器の壁はとてつもなく分厚い。その物量はこちらを進ませないどころか、押し返しさえするものであった。
『ちっ……』
いま空を埋め尽くしつつある自律型迎撃兵器は一体一体はたいしたことはないものの、その数は無尽蔵に等しい。どこかにあれを制御しているものがあるはずだが、それが前線にあるとは思えなかった。あるとすれば、『棺』の内部だろう。遠くからでもその巨大さをはっきりと感じさせる『棺』の、どこにあるとも知れない制御装置をここから破壊できるはずもない。目的を果たすのであれば、大量の自律型迎撃装置の壁を突破しなければならないが――
無数の自律型迎撃兵器は留まることなく、光線を放ちながら自爆特攻を仕掛けてくる。いくつかの光線が竜と化した身体を掠めていった。焼けるような感触。その貫通力は極めて高い。一発二発食らっても死なないが、大量に受ければ間違いなく致命傷となる。ここを突破したとしても、まだ戦いは終わらない。できることであれば、ここで傷を負いたくないところであるが――
再び力を放つ。前面にいた自律型迎撃兵器が一挙に撃ち落とされたものの、その数はまったく減っていなかった。倒した先から供給をされているのか、それとも大元となるものを破壊しない限り真の意味で破壊できないのか、どちらなのかは不明だ。だが、どちらにしてもこのまま物量で押されていては、ジリ貧であることは間違いなかった。
破壊されることを一切厭わずにこちらへと向かってくる自律型迎撃兵器を倒しながら、あたりを確認する。
ウィリアムたちの姿はまだ見えない。準備が整っていないのか、それともあれを実行する段階になって不可能であるとわかったのかどうかは、ここからでは判別できなかった。
しかし、どちらであったしても、もう動き出してしまった以上、前に進むしかない。
こちらとは逆側に展開している氷室竜夫のほうも同じような状況に陥っているだろう。無数の自律型迎撃兵器によってその進行を阻まれている状態。これをどうにかできなければ、非常にまずいのは間違いなかった。
『ブラドー』
大成は相棒へと問いかける。
『ウィリアムたちの状況はどうなっているかわかるか?』
『残念だが、いまの状況だと俺では探知はできん。だが、駄目だったのならあの男から連絡に一つくらい入るはずだ。いつになるかわからんが、いまはまだ耐えるしかない』
『くそ』
大成は吐き捨てるような調子でブラドーへ言葉を返した。
全方位から自律型迎撃兵器が襲いかかってくる。遮るものがなにもない上空で立体的に攻撃を仕掛けてくるのはとてつもない脅威であった。光線を放ちながら、こちらを捕捉しつつ次々と自爆特攻を仕掛けてくる。わずかでも気を緩めれば、一気に押し込まれてしまうだろう。
『そっちはどうなっている?』
自律型迎撃兵器の猛攻を凌ぎながら、氷室竜夫へ交信を行った。
『無数の目玉みたいなのに襲われてる。倒しても倒しても減る様子がない』
聞こえてきた氷室竜夫の声には強い危機感があった。こちらと同じく、このまま物量で圧されていたら敗北は必然であるとわかっているのだろう。
『そっちには、あの目玉みたいなのを制御しているようなものはあるか?』
『いまのところは確認できない。なにかそうする必要がなければ、ここに出してきたりはしないだろう。あるとは思えないな』
『……だろうな』
向こうも同じような状況である以上、なんとかしてこの状況を脱しなければならないが――
やはり、単純に物量で押されるというのはとてつもなく厳しいものだ。たとえ超常の力を持っていたとしても、数の優位というのはいかんともしがたい。そして、数の優位を容易く打破できる都合のいい能力などは存在しないのだ。
とはいっても、『棺』が抱えている戦力に限りがあることは間違いない。無限でないのなら、限界は必ず訪れるはずであるが――その限界こちらよりも早く訪れることがないのは確実である。
無数の自律型迎撃兵器によって、じりじりと押し返れていた。このままこの状況が続けば、カルラの町まで押し返されることはそう遠くない。カルラの上空で戦闘になることは避けたかった。これ以上、あの町を蹂躙されることは許されない。
力を放ち、自爆特攻を仕掛けてきた自律型迎撃兵器を弾き返した。爆発によって多くの自律型迎撃兵器が破壊されたものの、こちらを遮る壁は薄くなる気配はまったくなかった。
くそ、まだなのか? このままでは、物量による優位をどうにかできるはずもない。少しずつ、焦りが生まれてくる。
そのときであった。
背後から巨大な炎の矢が通り過ぎ、前を遮る自律型迎撃兵器を一気に焼き払った。背後を見る。
『すごいな。本当に空を飛んでやがる』
そこにいたのは、ウィリアムの仲間であるロベルト。ロベルトに続き、ウィリアムとアレクセイの仲間であるエリック、タイラーとその仲間であるリチャードの姿が見えた。
『いくらなんでも速すぎるぜあんたら。追いつくのに時間がかかっちまった』
ロベルトにリチャードが続いた。
『そりゃそうだろう。俺たちはその場であつらえた急造品なんだからよ』
さらにエリックが続く。
『ここは俺たちに任せろ――と言いたいところだが、思った以上にすごい状況だ。以前よりもさらに厳しいことは間違いないが、俺たちができることを全力で尽くそう』
強い意思を以てタイラーが言葉を紡いだ。
『というわけだタイセイ。遅くなったが、俺たちも参戦する。お前をなんとしてもこの先に進ませてやろう』
最後に言ったのはウィリアムだった。
人の身で竜に打ち勝ったこの町の英雄たち。予定通り、彼らは不可能を可能とし、ここにやってきた。
ならば、こちらもそれに応えるよりほかにない。この先へと足を踏み入れ、『棺』へと到達できるのは自分と氷室竜夫だけなのだから。
盤面は整った。あとは自分が果たすべき役割を果たすだけだ。
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