第98話 核はいずこに
石像へと近づいた竜夫は、手に刃を創り出し、刺突を放つ。それは、敵をただ刺し貫くことだけを考えた一切の無駄のない一撃。しかし、石像は竜夫が放ったその刺突を巨大な剣を器用に動かしてそれを受け流した。攻撃を防がれた竜夫はすぐさまバックステップをして距離を取る。
間髪入れずに今度はグスタフが近づいて、赤い剣に炎を纏わせて、それを振るう。炎を纏ったその斬撃を石像は楯で冷静に防いだ。石像の持つ楯に炎がまとわりつくが、楯を振って、まとわりついた炎を引きはがす。
炎を引きはがした石像はグスタフに向かって踏み込んだ。自身の持つ巨大な剣の間合いへと入り込み、袈裟斬りを放った。グスタフはそれを前にステップして紙一重で回避。グスタフは石像の横へと回り込んだ。すかさず今度は黒い剣を振るう。下からすくい上げるような一撃。闇色の軌跡を描きながら、石像の肋骨当たりそれが襲いかかる。石像は、動かない。
グスタフの黒い剣による一撃が石像に突き刺さった。金属と金属をぶつけ合ったときのような甲高い音が響き渡る。しかし、グスタフに一撃はそれまでだった。黒い剣はわずかに食い込んだところで、堅牢な鎧と身体によって防がれたのだ。
石像は自らに食い込んだ黒い剣のことなど気にすることなく、横に回り込んだグスタフを虚空のような目で見据え、手に持つ巨大な楯で殴りかかった。
「ち……」
グスタフはそう吐き捨てると同時に、持っていた黒い剣を放して、後ろへと飛び込んで、石像の楯による殴打を回避。石像の激しい動きによって、わずかに突き刺さっていた黒い剣が床に落ちた。地に落ちると同時に黒い剣は虚空へと消え、その次の瞬間にはグスタフの手に戻っていた。
次は竜夫が踏み込む。
奴の堅牢な鎧と身体を貫いてダメージを与えるには、生半可なものでは駄目だ。そう判断した竜夫は手に持っていた銃を消した。それから創り出したのは、人間が持つのには大きすぎる大砲。それを、接近して石像に放つ。この場の空気をすべて震わせるような轟音が鳴り響いた。
だが、石像は身体を軽やかに翻して、竜夫の大砲による一撃を回避し、そのまま回転斬りを放った。大砲の反動で、わずかに反応は遅れた竜夫に子供の背丈ほどもある巨大な剣が迫りくる。
しかし、それは竜夫の身体を両断することはなかった。竜夫のまわりに出現した木の根によって、石像の回転斬りは防がれたのだ。体勢を立て直した竜夫は後ろへと飛んで、距離を取る。その次の瞬間には、出現した木の根は石像の剣によって両断されていた。ほんのわずかの時間稼ぎであったが、命を救われたことに、竜夫は心の中で援護をしてくれたウィリアムに感謝する。
再び、距離を保ったまま、竜夫たちと石像は相対す。その距離は双方どちらも一瞬で入り込める七メートルほど。剣と楯を構えて立つその姿は英雄のごとき勇壮さを持っていた。命なき石像とは思えない。それぐらいの力強さを誇っていた。
四人がかりであるにも関わらず、未だに打開策が見えない。核を破壊すれば倒せるとウィリアムは言っていたが、その核がどこにあるのかまったく見当もつかない。一体、どこにあるのか? なんとかしてそれを見つけなければ。このまま戦いが続けば、命なき石像とは違い、体力が有限であるこちらが不利なのは言うまでもない。
竜夫は、石像を見つめる。やはり、堅牢な鎧に覆われた石像に弱点と思われる場所は見当たらなかった。
「タツオ、グスタフ!」
背後からロベルトの声が聞こえてくる。
「恐らく、そいつの核は熱源になっているはずだ。俺がそれを見つけるから、それまでなんとか耐えてくれ!」
竜夫とグスタフはロベルトの声に各々反応する。
ロベルトが核の場所を見つけるまで、なんとか耐えるしかない。竜夫は一瞬だけ背後を見て、ロベルトの姿を見た。アスリート然とした彼の姿は、どことなく頼もしい。圧倒的な攻撃力と防御力を持つ石像の猛攻にどれだけ耐えられるかはわからないが、とにかくやるしかない。竜夫は覚悟を決める。竜夫は大砲と刃を構え直し――
竜夫は床を蹴って前へと踏み出した。グスタフも同時に踏み出す。石像の左右から挟撃。
だが、挟撃を受けても石像は揺るがない。床を力強く踏みつけるようにして、あたりに衝撃波を放つ。放たれたこの場すべての空気を揺るがすようなその衝撃により、ほぼ同時に距離を詰めた竜夫とグスタフは怯まされた。動きが止まってしまう。
衝撃によって怯まされた竜夫とグスタフを守るかのように、石像のまわりから無数の木の根が出現し、襲いかかる。それは鉄の杭のような鋭さを持っていた。
しかし、石像は相変わらず機械のように冷静だ。次々と襲いかかる木の根を軽やかに動きながら回避し、剣で切り落とし、楯で防いでいく。それは、人間の倍以上の大きさを誇るとは思えないほどの軽やかさを持っていた。
衝撃波によって崩された体勢を立て直した竜夫は手に持っていた大砲を放つ。素早く動く石像には、弾速の遅い大砲の砲弾は当たらない。ただ狙っただけじゃ、駄目だ。石像の動きを先読みして放たなければ当たってはくれないだろう。竜夫は狙いをつける。
続いて復帰したグスタフが接近。赤い剣を振るい、炎を放つ。放たれた炎は地を這いながら石像へと襲いかかる。石像は再び衝撃波を放ち、迫ってくる炎を防いだ。
吹き飛ばされた炎と同時にグスタフは距離を詰めていた。その手に握られているのは赤と黒の二本の剣ではなく、赤と黒が入り交じった一本の剣。それを両手で持ち、さらにもう一歩踏み込んで、斬撃を放った。
だが、その斬撃すらも石像は手に持った剣で防ぐ。動きが止まった。
その隙を、竜夫は逃さない。狙いをつけた大砲を放つ。放たれた人の頭ほどある砲弾は石像へ吸い込まれるようにして当たり、爆発する。
グスタフはその爆風が自身に襲いかかる前に離脱した。石像から少し離れたところに着地して、体勢を整える。一本の剣は、赤と黒の二本の剣に戻っていた。
砲弾の爆発によって生じた煙のせいで、石像がどうなったのかは見えない。竜夫もグスタフも、警戒を解かずに、煙が晴れるのを待つ。
煙が晴れる。
そこには――悠然と先ほどと同じように、英雄の如く石像の姿があった。砲弾の爆発によってところどころ汚れていたものの、ダメージを受けているようには見えない。砲弾の直撃でダメージを受けていなかったのか、再生されたのかはわからない。どちらであっても、いまの石像にその影響がないのは同じだ。
やはり、闇雲な攻撃では駄目だ。核を破壊しなければ奴は倒せない。竜夫は、後方で核の熱源を探しているロベルトを覗き見る。ロベルトは手を前に掲げ、汗を滲ませながら石像を注視していた。
「ロベルト、まだか?」
グスタフが声を上げると、ロベルトは「もう少し待ってくれ! 頼む!」と返した。
石像が動き出す。石像が狙ったのは、自身の弱点位置を探しているロベルト。それを認識した竜夫は、すぐさま反応し、床を蹴ってロベルトへの接近を防ぐ。ロベルトの前に入り込んだ竜夫は大砲を消し、大振りの刃を創り出して、石像の剣を防いだ。
「すまん! 助かった!」
ロベルトが竜夫に言う。
「大丈夫です。ロベルトさんは、核を探すのに集中してください。それまで時間を稼ぎますから」
石像の剣を防ぎながら、竜夫はロベルトに言った。
「頼んだ!」
ロベルトは距離を取ったのち、再び石像へと注視を始める。
「この……」
竜夫は、圧倒的な力で押し込んでくる石像の剣を、刃を爆散させて押し返す。刃の爆散によって剣を弾かれた石像は、体勢を崩した。
そこから竜夫は踏み込み、再び大砲を創り出し、それを石像に押しつけ、砲弾を発射する。至近距離で生じた爆発によって、石像の巨躯は背後へと大きく弾き飛ばされた。その反動を受けた竜夫も、後ろへと弾き飛ばされる。
石像は至近距離での砲弾の破裂によってその身体を両断されていた。
だが、両断されたはずの上半身と下半身はそれぞれ動き出し、時が巻き戻っているかのように接着する。ほんの数秒で何事もなかったかのよう立ち上がった。
「デタラメな奴め……」
竜夫は吐き捨てるように言う。
いまので再生されるとなると、核さえ無事ならどんな攻撃を受けても奴は復帰するだろう。恐らくその再生にも限度はあるだろうが、その限度はこちらでは測ることはできないし、その限度によっては、先に消耗しきるのはこちらになる場合も充分にあり得る。再生できなくなるまで倒し続けるというのは難しい。
どうする? そう自身に問いかけたとき――
「見えた!」
ロベルトの声が聞こえ――
「奴の核は首の後ろにある。そこを狙え!」
その言葉はまさしく天啓であった。先の見えぬ戦いに光が見えた。だが――
首の後ろをどう狙う? いままでの戦闘を考えると、奴はそう簡単に背後を取らせてはくれないだろう。
しかし、やるしかない。首の後ろを狙わないのなら、奴の再生力がなくなるまで破壊し続けるしかないのだから。
竜夫とグスタフは構え直し――
二人と石像は、ほぼ同時に前へと踏み出した。
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